音楽と情報から見えてくるもの

ある音楽家がいま考えていること。アナリーゼ(音楽分析)から見えるもの。そして情報科学視点からの考察。

上原ひろみザ・トリオ・プロジェクトにおける Simon Phillips のドラム

2017-05-01 23:27:36 | 音楽
The Trio Project はピアノの上原ひろみ(以下「ひろみ」と記)、エレキベースの Anthony Jacksonとドラムスの Simon Phillips で構成するジャズ・コンボである。
このコンボのドラム Simon Phillips が使用しているドラムセットが巨大である。通常ジャズで使用されるドラムセットはドラム4種類5台、シンバル2種類3台で構成される。しかし、彼が使うセットはドラムもシンバルもこれの倍以上あるのだ。一見すると楽器既囲まれ、その中心で演奏しているような格好になる。(さすがに背面には楽器はないが。)これだけの規模になると楽器間の移動に時間がかかり、ドラマーの運動量も大きくならざるを得ない。また、速い曲の場合は周到な準備の下で楽器を選択しないと遅れてしまう。
 CDアルバム "SPARK" では彼のドラムはひろみのピアノに対して若干遅めに食いつくのでゆったり合わせている感じである。そのため、ひろみのピアノが音楽を引っ張っている印象が強まっている。しかしサイモンのドラムが遅れているのではない。躍動するピアノに対してドラムが寄り添い、そして時に対抗して緊張感を高めているのだ。それはアルバムのタイトルにもなっている "SPARK" によく表れている。
もう一つ大事なことは、ピアノが正確な時間の流れを刻んでいる中で、ドラムが独自の時間の流れを堅持している事だ。もちろんフレーズの最初と最後では両者の時間は一致するのだが、その途中は両者が別の流れを創り出している。結果的にフレーズの途中ではドラムが若干遅く感じられることがあるし、ピアノとドラムが微妙にずれることがある。しかしドラムが独自の大きなフレーズ(波)を作り出しているおかげでピアノはそれに乗って自由奔放に音空間を動き回ることができているのだ。
生粋のジャズドラマーではない Simon だからこそできる技であろう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする