東埼玉病院 総合診療科ブログ

勉強会やカンファレンスでの話題、臨床以外での活動などについて書いていきます!

認知機能が低下している患者さんの自動車運転に対してどのように介入するか

2015-10-28 20:09:21 | その他

 以前、外来で通院している方に、来院の手段をできるだけ聞くようにしているということを書いたことがあります。その時は、高齢者の自転車について書かせていただきました。今回は、認知機能が低下している患者さんの自動車運転について書きたいと思います。

 

<認知機能が低下している患者さんの自動車運転に対してどのように介入するか>  AMAのガイド、JAMAのレビュー2011、AFPのレビュー2006から作成 

•認知症があると、クラッシュのリスクが2倍以上

•MCI(軽度認知機能障害)もドライビング・スキルの障害と関連あり

•Foleyら:75歳以上の現役ドライバーの4%に認知症あり、本邦では三村らの報告で3.2%
 
•高齢者の運転禁止:うつや社会的孤立と関連、Taylorらは運転を禁止された認知症患者は、家人が運転できても閉じこもりになること指摘
 
•実際の介入方法(AMAのガイドより)

①記憶障害のある患者にはルーチンで運転状況を質問(クラッシュ・車のへこみ・信号や交通表示の見損ない・他のドライバーからのクラクション・ニアミス・交通違反・家族から注意されてないか)

②可能なら(同乗する事のある)家族から情報収集(ごく軽度の認知機能障害の患者でも有用)

③2つの認知機能検査が推奨されている

  Clock Drawing Testで異常、Trail-Making Test Bで180秒以上→未来のクラッシュodds rario2.21

④内服チェック(ベンゾ・抗ヒ・抗うつ・メジャー・筋弛緩薬)と飲酒

⑤必要に応じて運転中止をすすめる

 Tips:「運転してはいけません」と文字に書いて渡す。患者自身の安全と共に他の運転者の安全のためであることを伝える。誰かを事故に巻き込んだらどのように感じるかを問う。経済的な面を強調。他の交通手段を家族などと共にアレンジ

⑥運転中止した後のフォロー(うつ、閉じこもり、虐待の有無のチェック)

⑦運転に関する話し合いや運転中止に関して拒否的な場合…

 自己チェック表、周りで運転やめた方がよい人は?などの質問をし、気づきを促す

 

 ここで重要なのは、事故がおこると他人を巻き込んでしまうことだと思います。その患者さんの問題ではなく、公衆衛生的な観点からも積極的に運転状況を聴取し、状況に応じて介入していくことが必要だと再認識しました。

 


「臨終」の時にどのように振る舞うか?

2015-09-26 23:59:02 | その他

 在宅や施設での臨床を行うなかでは、終末期の方に関わることも多く、そのなかで患者さんの臨終に立ち会う機会も多くあります。今回は「臨終」の時にどのように振る舞うか?というテーマで書きたいと思います。予測通りあまり明確なものはないのですが、参考になる部分もあるかと思い、調べたことを載せさせていただきたいと思います。

 

<「臨終」の時にどのように振る舞うか?>

①家族(遺族)は何を望んでいるのか?

新城ら(2010年:J-HOPE Study):ホスピスで亡くなった遺族492名へのアンケート

「つらさ」と関連:「医療者の思慮のない会話を避ける」(OR:3.90)

「改善の必要性」:「家族が十分悲嘆できる時間確保」(OR:0.67)

 
②家族及び医療者はどのような態度をとっているのか?

高田(1990年:死亡直前後に関する看護師調査から):90名のNs(公立病院と開業医に勤務)にアンケート

★医師が臨終を告げた直後家族の態度・言葉:「哀号」、「呆然自失」、「ケアへの感謝」、「冷静沈着」、「連絡」、「抗議」

★臨終時の言葉 Nsが家族に:「悔やみ」、「家族に対する労のねぎらい」、「無言(黙って頭を下げる)」、「遺体との別離」・・・

★死後処置の際の言葉 Nsが家族に:「家族に対する労のねぎらい」、「遺体をほめたたえる」、「忍ぶ話題」 、「悔やみ」 ・・・

 

③臨終の時の「在宅」というセッティングでの研究はほとんど認めなかった。
•在宅での特殊性:(私見)

★電話で「息をひきとった」報告をうけてから、訪問するまでのタイムラグがある

★家族が行わなければならない事務的なことが多い(連絡)

★家族にとっては文字通り「ホーム」

 子どもやペットの存在

 ちなみに、小・中学生においては、死別経験が子どもの死後観に影響を与え、死についての理解の深まりや広まりが形成されることが明らかになっている(仲村,発達心理学研究 1994)」

 

 個人的には、在宅での看取りを知ってから、病棟での看取りの仕方も変わったように思います。いかに、家族や患者さんのための看取りの場とするかというのを意識するようになったかと思います、看取りの時だけではなく、臨死期に家族にどのように関わっていただくか(たとえば病院でも家族が何かしらの役割意識が持てるようにとか・・)の意識も変わったように感じています。調べた文献でもあったように、とりあえずは思慮のないような会話を行わないことは医療者として最低限必要なことだろうなと思います。

 


認知症終末期患者の肺炎に対する抗菌薬治療~予後や苦痛緩和にどのように寄与しているのか~

2015-09-21 20:37:19 | その他

 認知症終末期の患者さんに対して、抗菌薬をどの段階まで使用するべきなのか迷うことがあります。そもそもどこから終末期なのかという判断も難しい部分もあるですが、可逆的な原因が見当たらず、経口摂取が減少して必要量摂取できなくなってきた状態となり、医療者間や家族とも看取りに向かうことが共有できるような状態の方に、肺炎が合併することもしばしばあります。認知症の終末期として、最終段階としての肺炎と考えられるのですが、抗菌薬を投与することで緩和がはかれるのか、また治療を行わないことで予後が大きくかわってしまわないかなど葛藤や迷いが生じることは、認知症終末期の診療を行っている方であればだれしも経験するのではないかと思います。以前、このテーマについてしらべたことがあるので、本日をそれを紹介させていただきます。

 

<認知症終末期患者の肺炎に対する抗菌薬治療 ~予後や苦痛緩和にどのように寄与しているのか~>

★Jane L Givensら(Arch Intern Med 2010)

対象:ナーシングホーム入所中の認知症終末期患者で肺炎を疑うエピソードがあった225名

研究デザイン:多施設の前向きコホート研究

アウトカム:survival及びcomfort(SM-EOLD,CAD-EOLD)

結果⇒①抗菌薬の投与:なし8.9%、内服のみ55.1%、筋注15.6%、静注20.4%

②survival(無治療群と比較):AHR内服0.20,筋注0.26,静注0.20 (治療群すべて有意に生存)

③comfort:治療群は全て、無治療群と比較して有意に低い

 

★van der Steenら(J Am Med Dir Assoc 2012)

対象:ナーシングホーム入所中の認知症終末期患者で下気道感染のエピソードがあった94名、109件

研究デザイン:単施設の前向きコホート研究

アウトカム:死亡率

結果⇒死亡率10日後48%・6か月後74%、抗菌薬使用77%

死亡率と関連なし、ただし10日後の死亡率は有意に減少(HR0.51)

 

★van der Steenら(Scand J Infect Dis 2009)

対象:認知症終末期で、肺炎になった後死亡した559名と肺炎にならずに摂食障害があり死亡した166名

研究デザイン:前向きコホート

アウトカム:亡くなる直前のdiscomfort(DS-DAT)

結果⇒肺炎群が、有意にdiscomfortスケール高かった。

肺炎群のなかで抗菌薬治療群が有意にdiscomfortスケール低かった。⇒死が差し迫った状態でも抗菌薬治療で苦痛とれるのではと結論。

 

上記をまとめて考えると、認知症終末期患者の肺炎に対して、抗菌薬治療をすることにより・・・

•予後に関しては延長しそう(特に短期予後?)
•苦痛に関しては、結果が分かれており、なんともいえないか(亡くなる直前の苦痛に関しては効果あるのか?)
 
相変わらず、きちんとした結論はないのですが、現時点では明確なものがなく、上記のようなあいまいな状態です。つまり、個別的な医学的状況(苦痛の程度や痰の多さ、呼吸状態の悪さ)や医学的な側面以外(臨床セッティングや家族の希望など)もある程度重視することが重要かなと感じました。

施設入所者の家族の心情について

2015-09-13 21:03:37 | その他

 先日、施設入所者との家族面談の前に後期研修医と、家族の心情についてはなしをしました。意思決定などを行う面談の際、ご家族の心情を考慮しながら面談を行うことも重要かと感じています。たとえば、医療者側からみてメリットが少ないと感じる医療行為に対して、「してほしい」という家族の心情には様々なものがあります。その1つに「自責感」があることがしばしばあります。また、なかなか面会に来ない家族と、逆に面会に毎日のようにいらしている家族との心情が時に同じようなベースから来ていることを感じることもあり、それが「自責感」であったりすることもあります。「自責感」に限らずですが、ご家族の発言や意向にはどのような心情や背景があるのかを、施設の職員にも事前に聞きながら、面談のなかで把握していき、それを意識した面談を行うことは家族への心理的ケアという意味でも、よりよい意思決定という意味でも重要と思っています。

 以前、施設入所者の家族の心情について、調べたことがあるので、それを紹介します。

•入所者家族の心情について(自責の念)

 ★身内を施設に預けることに対して、苦悩や葛藤や罪悪感を抱くことがある。(Kellet,Ryan,Longueら複数の文献)

 ★杉澤らの報告:罪悪感・羞恥心・挫折感など何らかの精神的な負担を感じている家族は全体の4割

 ★井上の報告:グループインタビューで、「入居家族が抱く迷い」として“預けたことへの後ろめたさ・罪悪感・自責の念”、“面会に行くことへの躊躇・遠慮”、“入居者への関わり方の不安”、“入居者の変化に対する悲しみと戸惑い”をあげた

 

 家族の心情をある程度把握し、その心情を肯定したり、その中での患者への関わり方を、医療者の立場からアドバイスできるといいのかなと思っています。それが最終的には患者ベースの意思決定などにつながることもあるのかなと感じます。実際には難しいことも多いのですが・・・、面談技術の1つとして、今後も模索したいところです。


第3回南埼玉郡市医師会在宅医療研究会

2015-09-10 01:10:26 | その他

 先週、第3回南埼玉郡市医師会在宅医療研究会に参加しました。世話人会にも参加させていただいている会であり、個人的には1回目から関わらせていただいていて、会の運営も含めていろいろと勉強させていただいています。今回は、自分の発表や座長がなかったため、気楽に講演を聞き、勉強させていただきました。

 今回は、埼玉県立がんセンター緩和ケア科科長の余宮先生をお招きし、疼痛に対するオピオイドの使用方法を中心にご講演いただきました。個人的には、疼痛のコントロールが不良ではあるが眠気もあるような状況のときに、違うオピオイドを少し併用することで疼痛緩和がはかれるというお話しが興味深かったです。教科書的な処方からは少し離れるのかなと思っていたのですが、実際の臨床ではあるオピオイドを使用しているところに違うオピオイドを少し加えたりすることで(すべてローテーションするのではなく)、疼痛コントロールがうまくいくことがあるのを経験していたので、緩和の先生でもそのような使い方をするんだなと聞いて安心しました。その点については、あとで少し文献的にもしらべてみました。

 

Fallon MTらのシステマティック・レビュー(Palliat Med 2011)

オピオイドの併用療法は、日常診療では使用されているが、WHOの疼痛ラダーでは示されておらず、現在のエビデンスをシステマティック・レビューで検証したもの⇒2つしか基準に該当するような文献は認めず、モルヒネとオキシコドンorフェンタニルの併用を検証したものであった(grade C/Dのエビデンス)。オピオイドの併用に関して現時点での推奨は弱く、RCTでの検証が必要であろうという結論でした。

まだまだ、十分な検証はされていないのですね。でも、エキスパートオピニオンとして、ある程度実地の臨床では行われているものであると今回わかったのは収穫でした。