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危険な本だ。原本はもちろん、日本語訳も中国へ持ち込んだらどうなるか、わからない。ウイグル人の作家トルグン・アルマス(1924~2001年)が、民族的矜持をこめて書いた歴史書である。一般向けの啓蒙書だが、学術書的な見解も述べる。中国の言論環境が激変した1989年に、新疆ウイグル自治区で出版されたが、すぐに発禁となった。著者は糾弾され、政府の監視下に置かれた。中国政府と対立する世界ウイグル会議は、中国国外に移住したウイグル人の各家庭が本書を一冊ずつ保有するという目標を立て、2010年に再版した。
中国政府は、ウイグル人は漢民族と同様「中華民族」の一員であり、新疆は昔から中国の一部だったと主張する。本書は冒頭で「ウイグル人の母なる故郷は中央アジアである」と宣言する。ウイグル人を他の遊牧民族、例えば匈奴(きょうど)やフン、エフタル、突厥(とっけつ)などの同胞民族として描く。遊牧民族どうしの対立や戦争の原因を、しばしば漢民族の「夷(い)をもって夷を制す」老獪(ろうかい)な離間策に求める。団結を失い13世紀初頭に滅亡した王朝である「カラハンの歴史で、我々が得た最も重要な苦い教訓は何か」など、記述の端々に現代への熱い思いがにじむ。本書は、著者が身命を賭して出版を急いだため、未完である。数千年前の古代から筆を起こし、ユーラシア大陸の東西にわたって幅広く説くが、13世紀のモンゴル帝国時代で唐突に終わる。巻末の「解説」にもあるとおり、歴史学の主流とは異なる著者独自の説も散見される。歴史書としての限界もあるが、末永く記憶される「歴史的書」になった。
訳者のあとがきも、重い。新疆では中国語教育の徹底により、ウイグル語の読み書きができない世代が生まれている。将来、中国のウイグル人が『ウイグル人』の原本を入手できる時代が来たとしても、もう読めなくなっているかもしれない、と訳者は言う。本書の民族的主張はさておき、シルクロードの歴史はロマンと波乱に満ちている。禁書でもバイブルでもなく、シルクロード好きの読者が軽い気持ちで本書を手にとれる日が来ることを願う。《評》明治大学教授 加藤 徹 (* 日経 記事より)(図はWikiより 7世紀の東西突厥(Gokturk Khaganate)。隋、吐谷渾(Tuyuhun)、サーサーン朝ペルシア。シルクロードがウイグル人活躍の場であったことがよくわかる。)
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