惚けた遊び! 

タタタッ

抜粋 ディケンズ『炉辺のこほろぎ』本多顕彰訳 岩波文庫 1993

2018年07月08日 | 小説
 

 そしてヂョンは、自分が、感じの鈍い人間だということを痛感してゐたので、断片的な暗示がいつも彼にとっては苦痛であったのだ。彼は、タクルトンのいった言葉と、妻の異常な振舞とを心の中で結びつけるつもりは毛頭なかったが、この二つの考えの題目は一緒に彼の頭の中に入って来て、彼はそれを別々にしておくことは出来なかった。


 しかし、これは何であるか! 私が彼らに喜ばしく聴き入り、私には気持ちのよかった小さい姿に最後の一瞥を与へようとしてちびの方を見た丁度その時、彼女もその他のものも、全部空中に消え失せて、私だけが残された。一匹の蟋蟀が爐の上で歌ってをり、一つの壊れた子供の玩具が床の上に横たはってをり、そして、ほかのものは何一つ残ってゐない。





*平成三十年七月八日抜粋終了。
*累々蜿蜒と書き継いで、積み上げてきた物語は、エンディングで見事にかき消えてしまった。
*この物語は、これは何であるか! 単なる自己否定ではあるまい。想像力の作り出す空中楼閣の存在意義を鮮やかに申し述べた次第であろうか。




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