竹村英明の「あきらめない!」

人生たくさんの失敗をしてきた私ですが、そこから得た教訓は「あせらず、あわてず、あきらめず」でした。

地球温暖化と脱原発-広瀬隆を読む

2013年10月05日 | 原発
地球温暖化と原発の問題、どちらも今の日本の課題だと思う。しかし、地球温暖化はウソだと言い、自然エネルギーは代替エネルギーたりえないという主張がある。そういう論者の中に、私がずいぶんとお世話になった広瀬隆さんもいる。脱原発運動歴40年以上、その熱い気持ちと瞬発的行動力は今も衰えていない。自然エネルギーを「仕事」としている私としては、いつかは向きあわなければならないと思っていたが、今回少しだけ、その大きなカベにぶち当たって見ることにしよう。

読んだ本は「原発ゼロ社会へ!新エネルギー論」

新エネルギー論というからには「新しいエネルギー」つまりは自然エネルギーについて書かれているのかなと思わせて、その実は天然ガスという「古いエネルギー」について打ち込んでくるというところが広瀬さんらしい。
広瀬さん的には自然エネルギーのことしか言ってない奴らが「古くて」、これからの「ガスの時代」を語るのが新しいエネルギー論ということなのであろう。ただし、この本の中で自然エネルギーに言及しているのは第四章のみだ。その第四章のタイトルは「自然エネルギーを普及する真の目的」と意味深である。その詳細については、あとで述べる。

本の内容の半分くらいについては、私はまったく同意見である。序章「関電の電力不足騒動」では、電気は余っているという話。私が講演でいつも行なっているのとほとんど同じコンセプトで、発電所の設備能力からどれだけ「予備率」があるかを説明する。
3.11のあと、2011年夏のピーク時の東電の予備率は14%、原発再稼働をごり押しした2012年夏ピーク時の関電の予備率は実に24%もあった。とくに私にとっても勉強になったのは、自家発電機の普及状況。経産省の資料で、2011年1月には5万kW弱だったのに、2012年6月には1062万kWになっていた。1年半で原発10基分に相当する量になっていた。病院、工場、公共施設・・、みんな基本的に電力会社を信頼できなくなったわけである。
第一章「発電の方法はいくらでもある」では、発電の原理の説明からじはじまる。そのうえで原発と火力の比較がある。停止状態からフル稼働まで原発なら10日かかるが火力は1時間。もちろん火力は出力変動にも対応できる。東日本大震災では燃料タンクが燃えたが2日で復旧できた、などなどと火力発電の優位性を強調する。
その中でも天然ガスコンバインドサイクル方式はエネルギー効率もずば抜けて良く、燃料の天然ガスはクリーンだと。「コンバインドサイクルには環境問題などない」のだから環境アセスメントもなしにすべきだと。

このあたりはかなり乱暴な発言だと思う。私にはかつて火力発電所を起因とするぜんそく被害者の支援活動から火力発電への反対、電力会社との闘い、そして原子力発電への反対運動と進んできた経緯がある。石炭火力の煤塵、石油火力の硫黄酸化物、そして天然ガス火力になっても窒素酸化物への対策は不可欠だった。純粋で不純物がないメタンでも、燃やすと空気中の窒素と反応して窒素酸化物ができてしまうのだ。
だから巨大な脱硝装置が不可欠で、それだけの設備をつけてもある程度の窒素酸化物は排出されてしまい、それが私の住む川崎ではちょうど多摩丘陵のあたりにぶつかり多くの子どもたちを小児ぜんそくにした。環境アセス不要とは、子どもたちに優しい広瀬さんらしくない。

もっと恐ろしいのは液化天然ガス事故

さらに天然ガス推奨派の広瀬さんの目に見えていないのは天然ガスによる災害である。天然ガスはほぼメタンと同じ成分だが、遠方まで大量に運ぶために「液化」という手法が取られるようになった。マイナス162℃で液化天然ガス(LNG)となる。このとき、ガス状態の体積の200分の1になっており、タンカー等でコンパクトに運べるというわけだ。
私の東京電力との闘いは、この液化天然ガスの安全性をめぐってはじまる。いまから30年以上も前で、ちょうど原発がつぎつぎ作られはじめた頃のことだが、その頃すでに液化天然ガスによる事故が起こっていたからだ。スペインのロスアロフラケス、アメリカのクリーブランド、そしてメキシコのメキシコシティ。どれも爆発火災事故である。


液化天然ガスはマイナス162℃だが高圧ではない。したがって頑丈な高圧ボンベなどに入れる必要性がない。そのぶん容器は壊れやすい。壊れると、常温の中にマイナス162℃の物質が出てくるのだから激しくガス化する。体積が200分の1になっているということは200倍になるということだ。この急激な膨張力を活用するのが「コンバインドサイクル」で効率を高めるカギでもある。
膨張力が高いということは「着火源」まで一気に近づきやすいということ。スペインとメキシコの事例はいずれも輸送用タンクローリーの事故で、着火源は自動車だ。最悪なのは、液化ガスに着火するとファイアーボールという火の玉となって燃えるという特徴があること。中心の燃焼温度は5000℃にもなると言われる。

スペインのロスアロフラケスではファイアーボールが発生し、ちょうど輸送車が通りかかっていたのが避暑地の海岸だったため日光浴をしていた海岸の人々が巻き込まれた。ある人は腕時計の溶けた塊しか残っていなかったと言う。人間は蒸発してしまったのだ。
メキシコでは高速道路の側溝に流れたためファイアーボールにはならなかったが数キロにわたって火災が広がり、たくさんの車が巻き込まれた。アメリカのクリーブランドでは、空のタンクの補修中だったが、タンクのひび割れの中にしみ込んでいた天然ガスに着火し、タンクは吹き飛び、中で作業していた人も亡くなった。

液化天然ガスは専用タンカーで運ばれており、これが小まわりのきかない大きな船で、それが船舶航行の激しい東京湾や大阪湾等に入ることの危険性も指摘されている。もし東京湾内でタンカー火災が起こると最悪のケースでは誰も近づけなくなり、そのまま千葉や京浜地帯のコンビナートに流れついたら大変な大惨事となるからである。
事故がいちばん発生しやすいのは、タンカーから液化天然ガスを陸揚げ中で、こんな時に大地震や大津波が起こったら、震災の中での巨大なファイアーボールとなる。ちなみに川崎市を対象にシュミレーションをしてみたことがあるが、川崎区全域は全滅(人間はほとんど焼死)で、幸区の鹿島田付近の人までが火傷を負うという結果となった。
原発の放射能も恐ろしいが、液化天然ガスの殺傷能力もなかなか大変なものなのである。

参考図書は「LNGの恐怖-凍れる炎」
http://www.amazon.co.jp/LNGの恐怖―凍れる炎-1981年-リー・ニードリングハウス・デービス/dp/B000J7YFI2

自然エネルギーには力がないという決めつけ

さて第二章「熱エネルギーの有効利用が日本の活路を拓く」は人間が使っているエネルギーの3分の2は「熱」だということで、これは私も講演で行なっている話だ。ただ私は「だから太陽熱を使おう」となるが、広瀬さんは「エコウィル」と「エネファーム」の話となる。前者は家庭用コジェネで後者は家庭用燃料電池。どちらも天然ガスを使うがエネルギー効率はすこぶる良く、私も推奨しても良い。まさに分散型の仕組みであり、天然ガス火力を使うよりははるかに良い。液化天然ガスで流れてくるわけではないので、安全性も高い。問題があるとすれば、おおもとのタンクの中に液化天然ガスがつまっているということくらいだ。

第三章「化石燃料の枯渇説は崩壊した」にはびっくりだった。天然ガスの埋蔵量は500年、石油は1000年、石炭は2000年という。あと40年とか30年というのは「可採埋蔵量」のことで、新たな技術が開発されれば伸びるのだと。シェールオイルやシェールガス革命で天然ガスの埋蔵量も一気に伸びたのだという。さらに深層ガス説(石油や天然ガスが古代のプランクトンからできたのではなく、地球中心部の層にもともとあるものという説)が証明され、メタンハイドレードの活用が実現すれば、埋蔵量はもっと大きくなる。
つまりこれからは「ガスの時代」なのであり、原子力の代替が自然エネルギーだなどと言っているから原発が止められないのだという解説である。その背景には、「そもそも自然エネルギーなんか力がない」という強固な信念があるように見える。

その信念の根拠は見えないが、第四章「自然エネルギーを普及する真の目的」では、東日本大震災後の日本で「自然エネルギーは登場しなかったじゃないか!」という表現がある。自然エネルギーは「あの緊急時」に何の役にも立たないことが実証された。そのときの電気の0.03%しか供給できなかったじゃないかと。
まず、あのときが「電気の緊急事態」でなかったことは冒頭に広瀬さん自身が述べている。そして、あのとき原発以外にあった発電所は石炭、石油、天然ガス、そして大型水力だけである。その後に石炭や天然ガスは急増するほど伸びてはいないし、伸びる必要性もなかった。

「あのとき」に自然エネルギーの発電所がなかったのは、必要がないからではなく自然エネルギーを伸ばすための仕組みがなかったからだ。頭を押さえつけられて、諸外国の10分の1ほどにも伸びることをできなくしていた仕組みのことを棚に上げ、「あのとき」の数字だけで議論するとは広瀬さんもらしくない。まるで原子力ムラと同じ論理だ。
だから仕組みを変えるべきだ、という意見が大勢を占め、FIT(自然エネルギーの電気の優先買取制度)がスタートした。これ自身、問題だらけではあるが、諸外国に10年以上遅れてやっと日本も道が作られたのが「今」である。いま歩きはじめたものが普及できていないのは当たり前で、それを「普及していないからダメだ」という論理では全く説得力がない。

自然エネルギーにどれほどの力があるかはeシフトブックレット「日本経済のための東電解体」の76ページにさらりと書いている。広瀬さんはそんな数字がなんぼのものかと言うかもしれないが、ゆうにアベノミクスを上回る244兆円という内需がある。きちんと政策的に開発すれば大きな経済政策となるものが日本では打ち捨てられているのだ。

eシフトブックレット購入はこちら
http://www.amazon.co.jp/日本経済再生のための東電解体-eシフトエネルギーシリーズ-eシフト編/dp/4772611118


写真は自然エネルギーで被災地の人々を支援した「東日本大震災つながりぬくもりプロジェクト」。200を超える避難所に太陽光の照明や太陽熱のお湯などを届けた。被災地の人には、インフラ不要の自然エネルギーの力が見直された。

地球温暖化は起こっていないのか

第五章「地球の気温と電力コスト予測」では、最近の記録的高温は地球温暖化ではなくヒートアイランド現象だという。1997年から2012年では世界の平均気温はむしろ下降しており、このような世界的な気温の変化は二酸化炭素ではなく太陽の黒点活動が原因であるという。
黒点活動が気候変動の原因という説はヘンリク・スベンマルクやナイジェル・コールダーという人たちが唱えている説のようだ。もう一つは海水温の自然循環が原因というライプニッツ海洋科学研究所のモジブ・ラティフで、彼によれば地球は氷河期に向かっているらしい。
広瀬さんは、だから天然ガスだろうが石炭だろうが、原発を終わらせるためにはどんどん使うべきであり、それこそが原発を終わらせる近道だと主張するわけである。

それに対して、電力会社各社が原発代替の化石燃料の価格負担を理由に電力値上げを行なっているため、この章に「電力コスト予測」が入ってきた。第五章の半分くらいはこちらに割かれ、天然ガスの買い付け価格を高止まりさせた「総括原価方式」の問題点や、日本の買っている天然ガス価格が諸外国に比べてどれほど高いか、そして今後シェールガス革命でどれほど天然ガス価格が下がり得るかについても言及されている。
地球温暖化問題については、広瀬さんは、とるべきは寒冷化対策でありCO2排出量削減ではないと主張する。しかし、世界の平均気温のことは触れているが、超巨大台風の発生とか最近の日本への過去に例を見ない集中豪雨とか竜巻発生とか、誰もが深刻な現象と実感していることに対して何の説明もない。

まあ『二酸化炭素温暖化説の崩壊』という本に書かれているのかもしれないので、ここではこれまでにして私のスタンスを述べる。気候変動の原因がCO2であるという断定も、ではないという断定もまだできない。そうであれば「予防原則」としては、まだ「である」を前提とした対策が必要であると思う。
また、かりに地球温暖化説が間違っていても、いま人間が化石燃料の使用を押さえ、地球の地下資源ではないものをエネルギー源として社会を構築できるのであればそれにこしたことはないと考える。

脱原発と脱化石は将来世代へのプレゼント

かりに石炭が2000年、石油が1000年、天然ガスが500年まだ使えるのであれば、それを将来世代にそのまま残せば良いと思う。排出する有害ガスや、取扱い上の危険という問題があり、それらが十分に解決された時に将来世代がそれを使えば良い。
脱原発も将来世代に対するプレゼントであると同時に、いま私たちにとっての必須の課題でもある。液化天然ガスも危険だが、いまあるものについて直ちに撤去せよとは私も言わない。当面の原発代替として必要であるし、少なくとも日本のエネルギー産業はここまで液化天然ガスを事故なく使ってきた。ただ、できる限り早く、分散型の自然エネルギーにシフトすべきだ。広瀬さんがことあるごとに原発に対して発してきた東海・東南海・南海地震の時期は確実にせまっている。東京湾や伊勢湾、大阪湾に液化天然ガスの巨大基地が存在していることは危険すぎるのである。

これからの社会は地方の巨大発電所から超高圧送電線で都会の大消費地に電気が送られるという時代ではなくなるべきだ。広瀬さんも分散型は推奨していて、自然エネルギーの中でも小型風力や屋根型の太陽光発電や太陽熱利用は応援すると書いている。小水力も良いと。少なくとも分散型の社会をめざしているのではないだろうか。それなのにどうして巨大な天然ガス火力やサハリンからのパイプラインが「解」になるのだろう。
思慮深い広瀬さんのことである。脱原発を本当に実現して行くために、まだまだこれから進化を遂げるに違いないと信じたい。私自身も、自然エネルギーなら何でも良いというわけではない。環境への配慮や、地域経済や文化や健康への影響は当然配慮しなければいけないものだ。そういう配慮を積み重ねて行くならば、広瀬さんと私との距離はそんなにないようにも思えるのだが・・。



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1 コメント

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過去の疑問 (憂国烈士)
2013-10-15 03:58:39
 ところで、外相をしていた前原某が朝鮮人から献金を受けて辞任したとき「朝鮮人も税金を払っているんだから、参政権がないのはおかしい」とおっしゃってましたよね。

 ではあなたが事故か病気で半身不随となり、介護が必要になって税金を払えなくなったら、あなたは参政権を返上するんですね? 僕はそういった方々にも政治に参加してほしい。税金を払っていなくても、誰にでも政治に加わってほしいと思います。あなたは僕の意見に、反対ですわね? 普通選挙法が施行される前の、大正時代に日本を戻したいんですね?

 シナ人が沖縄県石垣市に大量に移り住み、議会や市役所を独占し「尖閣はシナの領土」と言いだしたときの対応について、完璧な対応策をお持ちですわね。どうか具体策をお聞かせください。皆を納得させられれば、支持者も増えますよ(苦笑)。

 あなたの言う通りに物事が進めば、我が国の平和な社会は木っ端微塵になります。そして二度と、元には戻りません。
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