さいごのかぎ / Quest for grandmaster key

「TYPE-MOON」「うみねこのなく頃に」その他フィクションの読解です。
まずは記事冒頭の目次などからどうぞ。

TYPE-MOONの「魔法」(2):初期三魔法は循環する

2022年02月14日 03時27分43秒 | TYPE-MOON
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TYPE-MOONの「魔法」(2):初期三魔法は循環する
 筆者-Townmemory 初稿-2022年2月14日 03時27分43秒


 前回の直接的な続きです。前回を読んで内容をふまえないと意味がわからないはずです。

 これまでの記事は、こちら。
 TYPE-MOONの「魔法」(1):無の否定の正体

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●コペンハーゲン解釈

 ジーザスの観測まで、根源は、「存在は予見されているものの実際には観測されたことはない」「あったらいいなと思われているけれどあるのかないのかわからないもの」だった。

 ジーザスが世界の外側を「観測」した結果、そこに「根源」の存在を「発見」した。あるのかないのかわからなかった根源は観測によって「ある」ことになった。

 ちょっと不正確な言い方をあえてすれば、たぶん西暦20年だかそのころにジーザスが世界の外側を観測するまで、根源というものは「存在しなかった」。

 ジーザスが宇宙に穴を開け、その外側を「見た」ことで、はじめて根源は存在するようになった

 じゃあ、ジーザスが世界の外側を「見た瞬間」から、根源が存在しはじめたのか? というと、多分そうじゃないです。
 ジーザスが世界の外側を見る前は、「根源はある」と「根源はない」が重なり状態で不確定だった。
 ジーザスが見た瞬間に、「根源はない」という可能性が却下され、「根源はある」という真実が採用された。

「根源は存在する」が真になったので、時間をさかのぼって、それ以前の時代、それこそ宇宙開闢の瞬間から、根源はあらかじめ存在していたというふうに世界が書き換わった

 ……これはいわゆる、量子力学でいう「コペンハーゲン解釈」寄りの考え方です。私は、第一魔法はコペンハーゲン解釈でいいと思っています。
 なぜかというと……というのは後段でやりますけど、いま一言でザックリ言うなら、第二魔法がエヴェレット解釈だからです。


●存在する「ことになった」エーテル

 さて、ジーザスの観測行為によって、「根源が存在する」という真実が確定されました。

 根源は存在することになったので、根源が世界に対して照射している「存在力エネルギー」みたいなもの(物体や事象や物理法則をこの世に存在させるための力)も、これによって実際に存在することになりました。

 はっきりしませんけど、TYPE-MOON世界観において「エーテル」って呼ばれているものが、この根源由来の存在力エネルギーなのかなって推定しています。

 西暦以降の現代魔術師(遠坂凜や蒼崎橙子たち)の魔術の燃料が、このエーテルだとされてます。

『ロード・エルメロイII世の事件簿 マテリアル』の年表には、

20年頃(引用者注:西暦) 第五架空要素(エーテル)の証明。新世界、開始。

 とあります。

 おそらく西暦20年前後に、ジーザスは根源の観測に成功したのでしょう。
 それ以前には、根源は「あるかもしれない」し「ないかもしれない」し、「どちらとも決定していない」という重なり状態であったため、根源が放出するエーテルもまた「あるかもしれないし、ないかもしれない、重なり状態のエネルギー」でありました。だから、検出が不可能だった。

 しかし、ジーザスの功績によって「根源はある」ことになったため、「根源が発するエーテルもある」ことになり、エーテルの発見が可能になった。

 エーテルが発見され、それを利用することが可能になったため、現在、魔術協会で研究されているような現代魔術が可能になった。

 だからいうなれば、ジーザスはいわば現代魔術の始祖、ということになる。

 なぜ、エーテルの正体を「根源から発せられている、事象を存在させるエネルギー」だと(私が)主張するのかというと、「現代の魔術師がそれをエネルギーにしており」「現代の魔術師が根源に到達したがっている」からです。

「現代の魔術師の魔術の燃料・エーテルの正体は根源の力なので、魔術師たちは根源に到達して、もっと燃料を得ようとする」
 とすれば、これは単純明快にすじが通る。

 西暦20年ごろに突然エーテルが発見されたことにもちゃんと説明がつく。


●ジーザスはその力で何をしたのか

 ここまでの話を元にすれば、ジーザス・クライストは自分の魂から無限にエネルギーを取り出すことができるし、根源から無限のエネルギーをくみだすことができます(たぶん)。

 そんな力を手に入れて、ジーザスがいったい何をしたのかというと、それは「物語の現実化」なんじゃないかなあ……と私は想像します。

 根源を見つけたジーザス・クライストは、人々に対して、こんな物語を語りはじめたんじゃないでしょうか。

     ☆

 まず、かれは、根源というものを擬人化した。
「わたしが見つけた根源というものは、われわれすべてを生み出した父のようなものである」
(根源は文字通り万物の根源なので、喩えとして適切)

「この、われらの父神は、われわれすべてをくまなくご覧になっている」
(根源の視線がわれわれの存在を確定させているので、喩えとして適切)

「父なる神に祈り、あがめれば、願いがかなうこともあるだろうし、奇跡も起こるやもしれぬ」
(根源にアクセスすれば無尽蔵のエネルギーを利用可能なので現実を変更することすら可能。喩えとして適切)

     ☆

 つまり、根源を「神」とする神話と教義をつくりあげたのです、きっと。
 TYPE-MOON世界では、これはまるきり事実なので、なんとジーザスは「本当のことをいっている」。

 TYPE-MOON世界観では、「無尽蔵に近いエネルギーがあれば、現実を変更し、願いを自在にかなえることすら可能」という理屈があります。

 ジーザスは、無尽蔵のエネルギーを使って、こんなことを願ったのではないか。

「わたしのこの物語が、汎世界的に力を持ちつづけますように」

 そして、この物語を人類全体が信じ、人間の行為のすべてがこの物語に即して運行されるように「世界を書き換えた」

(ただし、なんかの都合で書き換えきれなかった部分もあるようで、あんまりこの物語が力を持ってない地域もあったりしたようですね。日本とかね)

 そういうふうに書き換えた結果、当時の世界のうち、ポテンシャルを持っている地域の大部分が「この物語に即して」運用されるようになった。
 一言でいうと、「キリスト教がめちゃめちゃ力を持ちますように」と願って、実際にめちゃめちゃ力を持つようになった。

 おそらくジーザス的には、「根源中心世界観」は何の疑いもなく真実なので、世界中が真実に即して運営されるように……という意図だったと思われます。

 これはいいかえれば、
「ジーザスがひねくりだした内面世界の物語が全世界に広がって、世界がそのルールで運行される」
 ということなので、

「世界レベルで広がる超巨大な固有結界」
 を、
「半永久的に」
 敷いたようなもの、という言い方ができそうです。

(説明不要と思いますが、固有結界とは、自分の周りの現実空間を、自己の内面世界で一時的に上書きするという魔術。エミヤさんの「アンリミテッドブレードワークス」など)

 固有結界が「魔法にかぎりなく近い魔術」といわれているのは、現実世界に汎的に通用しているキリスト教世界観というものが、じつはジーザスが第一魔法で実現した広大な固有結界だから……みたいな理屈は採用されていそうな感じだ。

 ちょっと話を脇道にそらしますが、『魔法使いの夜』に出てくる久遠寺有珠の使い魔「フラットスナーク」が、第一魔法と関連があるようなないようなほのめかしをされています。

「第一より別たれた、この世で最も大きな虚構」
『魔法使いの夜』



 フラットスナークは、「童話のなかのルールを、現実世界に強要する」というような方向性の魔術です。

 前述のように、ジーザスが「自分の世界観を、現実世界に強要する」という大奇跡を行った……という説をOKとする場合。
 ジーザスの奇跡と、フラットスナークの魔術は、構造がほとんど同じ

 また、フラットスナークには、「本体が月に擬態して、常に地上の状況を見守っていないといけない」という制約があります。
 これは「根源の目が、世界をじっと見つめているおかげで、世界はいまの形を保っている」という前述の説ときわめて構造が酷似しています。

 たぶん、フラットスナークは、ジーザスと第一魔法の事績をミニチュア的に再現する……という方法論で成立してんじゃないのかな、と想像しています。


●“普遍的な”とは何か

 TYPE-MOON世界観には、明らかにキリスト教を念頭に置いた世界宗教が存在しています。

 その明らかにキリスト教な世界宗教には、悪魔退治の部門があって、その部門は「聖堂教会」と呼ばれています(埋葬機関は聖堂教会のエリート部隊)。

『月姫読本』の聖堂教会の項目にはこう書いてあります。

聖堂教会【組織名】
“普遍的な”意味を持つ一大宗教の裏側。
宙出版『月姫読本 PLUS PERIOD』p.189



 TYPE-MOON世界観における、明らかにキリスト教を念頭に置いた世界宗教のことを、奈須きのこさんは「“普遍的な”意味を持つ一大宗教」と表現するのです。

 普遍的ってどういうことだ? ほかの宗教は普遍的でないのか?
 といった疑問が生じます。

 本稿の説ではこの疑問は容易に解消されます。
 本稿の説では、TYPE-MOON世界観におけるキリスト教の教えは、根源を父なる神と呼び変えている(擬人化している)こと以外は、「すべて真実」だからです。真実を真実のままに教えているので普遍的だといえる。

 そしてまた、本稿の説では、ジーザス・クライストはありあまるエネルギーを使って、「この教えが世界中に“汎的に”通用するように」
 という願望を現実改変によって実現した(しようとした)ので、その意味でも「キリスト教は普遍的な意味を持つ」という表現が通用します。


●第一魔法は個人の能力でなくてもよいのか?

 この論では、第一魔法は、個人に備わった特殊スキル的なものではないことになります。

 本稿の論における第一魔法は、「ジーザス・クライストがなしとげた上記の事績を全部ひっくるめたもの(一連の事象)」となります。

 そこのところに、違和感を持つ人もおられるかもしれません。
 第二や第三は、「並行世界をいじくる能力」だとか「魂を物質として存在させる能力」といったように、「~する能力」という言い方で表すことができますが、第一魔法は全然そうではないということになりますからね。

 でも、第一魔法はこの形でかまわないのです。なぜなら、『月姫読本』で、以下のようなもってまわった言い回しが使われているからです。

 第一魔法と呼ばれるモノを扱った魔法使いはとうに死去している。
宙出版『月姫読本 PLUS PERIOD』p.189



「と呼ばれるモノ」「扱った」……。

「第一魔法を取得した魔法使いは死去している」といったような簡潔な表現が避けられている。ふわっとした含みのある言い回しになっている。

 なぜ「第一魔法と呼ばれるモノ」という言い回しなのか。
 それは第一魔法が、多くの人が第二や第三からの類推でイメージするようなものとは大きく異なっているからだ。
 よりはっきり言えば、第一魔法は、個人が習得する特殊能力的なものではなかったからだ。

 第一魔法は「一連の事績・事象」というような、ひじょうに幅の広いものであって、「この幅の広いふわっとしたものを、ひっくるめて「魔法」と表現するのは、通常の感覚からするとちょっと違和感があるものですよ」というニュアンスをこめようとした結果が「第一魔法と呼ばれるモノ」という表現かもしれない。

 そして、それを「扱った魔法使い」と表現するのもたぶん同様。

 本稿における第一魔法は、能力というより事績・事象であって、第二や第三のように「獲得」や「習得」するような種類のものではありません。
 本稿の第一魔法は、一回性のものです。くりかえし再現できるという種類のものではない。

 だから、それは「扱った」くらいに言うしかない、ということになります。


●よくわかる冬木市の聖杯システム

 何度も同じことをくりかえすようですが、ここまでの議論で、

「ジーザス・クライストは、第三魔法『魂の物質化』によって生まれた超人だ」
「ジーザスは超人力を使って世界に穴をあけ、『根源』の存在を『観測』した」
「あるかもしれないし、ないかもしれないものだった『根源』は、その瞬間から『存在するもの』として振る舞い始めた」
「根源が存在し始めたので、世界のありかたはガラッと変わってしまった」


「こうした一連の事績すべてをひっくるめたものが『第一魔法』だ」

 という説を立ててきました。

 合ってるかどうかはともかくとして、「こういう考え方はできるよね」ということを提示してきました。

 上記の説をかりにOKだとすると、『Fate/stay night』で語られた冬木市の聖杯システムのことが、ものすごく理解しやすくなりそうです。
 というのも。

 冬木の聖杯システム(聖杯戦争)は、

・第三魔法の技術を応用して、過去の英雄の霊魂(英霊)を7名、実体化させる。
・英霊にバトルロイヤルさせる。
・勝ち残った一人は、何でも願いがかなえてもらえる。


 という建前になっておりました。

 どうして「何でも願いがかなう」のかというと、

・敗北した英霊の魂は「聖杯」という器にため込まれる。
・6名もの英霊の魂は、ひとまとめにすればものすごいエネルギーの塊になる。
・そのくらいすごいエネルギーを使えば、現実を変更することすら可能である。


 という理屈になっていました。

 が、話がすすむにつれ、このシステムの真の目的が明らかにされました。

・じつはこの儀式は、「根源」に到達することが目的である。
・聖杯にためられた英霊の魂が役目を終えて、もとの場所に帰るとき、ものすごいエネルギーで世界の外側にすっとんで行く。
・そのとき世界の殻に風穴があく。
・その風穴から手を伸ばせば、根源に手が届くはずだ。


 大まかな説明になりましたが、本当はこういうことが意図されていたのです。

 この儀式って、やってることが、(私が提唱している)「第一魔法」とまったくおんなじ。

「第三魔法で生じたスーパーパワーによって世界に穴をあけ、根源に手を届かせる」

 この儀式システムを作ったのは、第三魔法の研究者アインツベルンなのですが、「根源に至るための方法論」としては、まるきり第一魔法の再現です。

 聖杯戦争は、
「キリストが生まれて、すばらしいことをなしとげるまでの事績を再現する」
 ということがテーマになっていそうなんです。

 キリストの事績の再現だから、その名も「聖杯」戦争。
 キリスト伝説における聖杯とは、キリストがはりつけの刑になったときに流れ出した血液を受け止めた杯のことです。

 今ここで私が語っている仮説によれば、キリストは「魂が物質化」されており、無限のエネルギーを内包している存在です。
 だとすると、キリストから流れ出した液体を満たした杯なんてものは、とんでもないエネルギー量を持ったアイテムでしょう。
 それを手にした人に、「なんでも願いをかなえるほどの」現実変更力を与えたにちがいありません。

 だからこの儀式の開発者は、
「膨大なエネルギーをため込んで、願望機として機能する容器」
 を、
「聖杯」
 と名付けたんだと思います。


●地方英雄と世界英雄

 TYPE-MOON世界では、キリスト教は、ちょっと名前をぼやかして「世界宗教」なんて呼び方をされることがあります(と記憶しているがどうだろう)。

 世界宗教というのはようするに、「汎世界的に影響力を持つに至った宗教」くらいのことでしょう。

 ジーザス・クライストは汎世界的な宗教における大英雄なんですから、いわば、
「世界英雄」
 くらいの言い方をしてもおかしくない存在です。

 ところで聖杯戦争では、世界各地の英雄が7名選出され、最終的には聖杯にためこまれてひとかたまりになります。

 世界各地ということは、ようは「地方の」英雄です。

 アーサー王はイングランドという一地方の英雄ですし、ヘラクレスはギリシャという一地方の出身。クー・フーリンはアイルランドの地方英雄だ。
(クー・フーリンをアイルランドの地方限定英雄だみたいに言うのは微妙に抵抗感がありますけど)

 地方の英雄たちが6~7人ひとかたまりになって、超エネルギーになる。

 だとするなら。

 たくさんの「地方」が集まってひとかたまりになったものが「世界」なのですから、
 たくさんの「地方英雄」を集めてひとかたまりにすれば、それは「世界英雄」と同等になるのではないか。

 つまり、地方の英雄をたくさんあつめて溶かせば、世界英雄キリストと同等になる。擬似的にキリストを再現することが可能になる……。

 というようなことを、奈須きのこさんやアインツベルンの当主は思いついたんじゃないか、と私は想像するのです。


●イングランドのキリストと現代のキリスト

 この物語の主役に、アーサー王と衛宮士郎が選ばれたのも、理由はそれだと思うのです。

 アーサー王伝説では、アーサー王は、「12人の円卓騎士をしたがえ」「竜(悪魔)を退治し」「仲間に裏切られて死ぬ」のです。
 これはまるっきり、キリスト伝説の語り直しです。キリストは「12人の弟子をしたがえ」「悪魔払いの達人であり」「ユダに裏切られて死ぬ」のでした。アーサー王は「イングランド人のキリスト」です。

 アーサー王は存在自体において「キリスト成分がめっちゃ濃い」のです。だから「かならず聖杯戦争に召喚される」のだと思います。
(物語上の設定では、もちろん別の理由になっています。が、「構造として」あまりにもアーサー王がふさわしいので、「聖杯戦争には必ずアーサー王が呼ばれるという設定をつけよう」と作り手は考えた)

 そして衛宮士郎が選ばれたのもたぶん同じ理由です。

 衛宮士郎(英霊エミヤ)は、「目に見えるすべての人々を救いたい」と考え、「自己犠牲のかぎりをつくした結果」「救おうとした人々の手にかかって死刑になる」という運命をたどる男です。これはキリストの事績にあまりにもそっくりです。

 この物語は、「6世紀ごろキリストのように生きた少女と」「近い未来にキリストのように死ぬことになる少年が」「キリストの事績を魔術的に再現しようという陰謀に巻き込まれる」話だというように読めるのです。


●エヴェレット解釈

 何度も繰り返してすみませんが、私の立てた説では、第一魔法の方法論は、
「あるかもしれないしないかもしれないという量子力学的重なり状態だった『根源』の観測に成功し、『根源はある』という事実を確定したこと」
(根源はない、という可能性を消滅させたこと)
 です。

 これは前述のとおりコペンハーゲン解釈。観測した瞬間に「根源はない」という可能性が消滅し、「根源はある」というほうだけが100%になるという考え方。

 ですが量子力学(およびそのSF)には、「エヴェレット解釈」という別の魅力的な解釈があります。

 シュレディンガーの猫。箱を開けて中身を観測するまでは、「猫は生きている」の可能性が50%、「猫は死んでいる」の可能性が50%あった。

 箱を開けて中身を観測したら、猫は生きていた。

 ……だとすると、さっきまで箱の中に入っていた「猫が死んでいる50%の可能性」は、いったいどこに行ってしまったのか

 という問いに対して、こういう変なことを言い出した科学者がいた。

「箱を開けた瞬間に、『猫が生きてる世界線』と『猫が死んでる世界線』への分岐が発生したのだ」
「パラレルワールドでは、箱を開けた瞬間に猫は死んでいる」
「そして、『さっきまで箱の中にあった猫が生きてる可能性はいったいどこに行ったんだ?』と思われている」


 この理論はパラレルワールド小説の理論的裏付けとしてぴったりなので、SFの分野でいっぱい使われるようになりました。ご存じ『うみねこのなく頃に』なんて、全編それがメインギミックです。


●第二魔法「つぎの二つは多くを認めた」

 さあ、TYPE-MOON世界観には「第二魔法」という設定があります。これの中身は「平行世界(パラレルワールド)の運営」だ、とすでに公表されてます。

 この世界観の「魔術師」は、世界の秘密が知りたくて、えんえん研究をしている人たちです。
 魔術師キシュア・ゼルレッチは、世界の秘密を知りたかったので、第一魔法の成り立ちやしくみについて、熱心に研究する。

 研究の結果、第一魔法が量子力学ベースで成立していることを理解する。
(つまりゼルレッチは、人類が20世紀に入ってようやく理解した量子力学を、数百年前か、へたしたら千年以上まえに、すでにして解明していたことになる)

 ゼルレッチさんは超天才なので、第一魔法がコペンハーゲン解釈的に理解されているのを見て、「ん? へんだな?」と思う。
「二択のいっぽうを選んだとき、もう片方が消えるのはおかしい」

「ひょっとして、この世界は、二択が発生するたびに、二つに枝分かれしてるんじゃないのか? つまりパラレルワールドは存在するのだ!」

 と、なんとまあ、エヴェレットさんとほとんど同じことを思いつく。

 われわれの世界が量子物理学的に成立しているものならば、平行世界というものも存在するはずではないか。
 平行世界にアクセスすることができるなら、二択や三択の答えをあらかじめ知ることができる。さまざまな可能性から好きなものを選ぶことができる。
 それどころか平行世界から魔力を集めることで、無限に近いエネルギーを手に入れることができるではないか。

「その無尽蔵のエネルギーがあれば根源に到達することすら可能だ」

 そんな「魔法」をゼルレッチは発見し、根源への到達をなしとげた……。

「パラレルワールドから魔力を集めて自分のものとして使う」はゼルレッチが設計した宝石剣の機能としておなじみ。『Fate/stay night』で遠坂凛がこれをつかって鬼神のような活躍をしていました。
 この宝石剣を実現している理論は、もとをただせば、「無限のエネルギーを集めて根源に到達する」ことを目的として開発されたものだと思います。

 この説のポイントは、「第一魔法の成果をふまえた結果、第二魔法が派生する」という流れです。こういう流れ、気持ちいい……。


●聖母マリアのコピー人間

 第二魔法を会得したゼルレッチは魔術界の大重鎮になります。

 かれは「パラレルワールドをひょいと見てくる」という反則技を持っている。
 このワザを使えば、「自分の世界よりも魔法の研究がすすんでいる平行世界」をちょっとのぞいてきて、ヒントをもらって帰ってくる、みたいなことができてしまう。

 ゼルレッチはこの力を使って、ほかの魔法を研究している研究者たちに助力を与えることを始めた……くらいに想定することにします。

 さしあたり有力なのは第三魔法「魂の物質化」だ。
 なにしろこれが実現可能であることは証明されている(これでジーザスを作ったから)。

 使い手は姿を消し、ノウハウも失伝しちゃっているが、さいわい、弟子筋のアインツベルン一族が師匠に追いつこうとして研究を続けている。
 これに協力して、第三魔法を復活させよう。

 が、いまのところ、復活できていない。第三魔法を限定的に再現可能な「ユスティーツァ」というホムンクルスの製造には成功したが、その先には進んでいない。ユスティーツア二号機の再生産も不可能。これが現在の状況です。

 私の説では、「第三魔法は、女の胎内から『物質化された魂人間』を生む技法」なので、第三魔法の使い手は女性です。
 女性の使い手が、魔法の成果としてジーザスを生み出すという流れなので、「第三魔法の使い手は聖母マリアとして知られる存在」としているわけですね。
(だから冬木の小聖杯の正体はイリヤや間桐桜といった「女の体」であり、そこにキリストに相当する「英雄の魂」が蓄積される構造になっている)

 そうなると、アインツベルンの方法論は、
「聖母マリアと同等の性能をそなえた人造人間を作成する」(ユスティーツァ)
 というものであっただろうといえます。


●久遠寺有珠とマインスターの魔女

 ところで唐突ですが、いったん「第三」のことは置いといて、久遠寺有珠とマインスターの話をします。

『魔法使いの夜』に久遠寺有珠という美少女が出てきており、いろいろと意味深な周辺情報がばらまかれています。まとめるとこんな感じ。

・母親は「純血の魔女マインスター」である。
・父親は人間・日本人。有珠は魔女と人間のハーフである。
・彼女の使い魔フラットスナークは「第一から分かたれたもの」とされている(詳細不明)。
・彼女の魔術系統(属性)は謎の分類「ユミナ」である。


 ここまでが彼女本人に関わる情報ですが、周辺にこんな情報が配置されています。

・魔術協会植物科の創始者の名前はユミナである。
・ユミナとは、魔術協会では「魔法使い」の名前として知られる。
・ユミナは第一魔法の成立に関わった「魔女」である。
・第一魔法の使い手の直系の子孫は、まだかろうじて生存している。


 このような情報を総合した結果、以下のような通説が大勢の人々に信じられているみたいです。

(1)「第一魔法の使い手の名前はユミナである」
(2)「ユミナの血族は『マインスターの純血の魔女』と呼ばれている」
(3)「久遠寺有珠はユミナの末裔である」
(4)「第一魔法の使い手の子孫とは久遠寺有珠のことである」


 うーん、なるほど。
 個人的には微妙に釈然としません。

 私の考えはどうかというと、上記のうち(2)(3)(4)には賛成します。
 でも、(1)については、採用しません

 え?
(4)「第一魔法の子孫は有珠」がOKなのに、(1)「第一の魔法使いはユミナ」がNGなの?


●「魔女」とは何なのか

『FGO』の第2部6章に「垢溜まりの魔女」という人物が登場しました。彼女が「魔女とはこういうものである」という設定を開示してくれました。魔女はいわゆる魔術師とは完全に別物だそうです。
 まとめますと、

・魔女は妖精であり、子供など産まない。
・「私の娘は私」である。
・魔女は恋をすると血が混じり、魂が腐って死ぬ。
・垢溜まりの魔女は人間と性交して子供を産んだ結果、ヒキガエルのような姿になってしまった。
・垢溜まりの魔女はマインスターを恨んでいる。「魔法使いユミナの直系は何をしてもいいというのか?」


 これをさらに噛み砕くと、どうやら魔女は、人間のように性交によっては繁殖しないものらしい。無理にそれをしようとすると死んだりヒキガエルになったりする。

 じゃあどうやって魔女は世代をつないでいくのか。

「私の娘は私」って書いてあるので、「死んだら自分のコピーを残していく」くらいに考えればよさそうです。
 セーブポイントからやり直すようになってるのかもしれないし、ディストピアTRPG『パラノイア』みたいに、「死んだらどこからか自分のクローンが運ばれてくる」のかもしれない。

 けどまあ、わかりやすい喩えとしては、「ピッコロ大魔王」みたいになってる、くらいのイメージでいいんじゃないでしょうか。
 ドラゴンボールのピッコロ大魔王は、自分が死ぬとき、巨大なタマゴを口から吐き出して残していきます。そのタマゴから生まれるのはピッコロ大魔王本人なんです。
(ピッコロ大魔王の種族、ナメック星人も、性交による繁殖をしない種族です)
 そういうシステムで世代をついでいく生き物というのもありうる。

(ただし、記憶が継承されるのかどうかはわかりません。TYPE-MOON世界観の魔女においては、「記憶は継承されない」としておいたほうが整合しやすそうですね)

 魔女がおそらくそういう特殊な生き物だということはわかりました。
 ところでユミナは魔女だそうです。おそらく純血の魔女マインスターの初代です。

 となるとユミナは性交すると死んでしまう生き物ってことになります。
 彼女は性交による繁殖をせず、自分のコピーを残していくような形で世代継承する生き物だということになります。

 マインスターの一族は「純血の魔女」って呼ばれています。純血って何なのか。ふつうに考えるとその意味は「混血をしない」
 魔女は性交による繁殖をしないので、当然、混血は発生しない。どんなに代替わりしても血が混じらず魔女の純血が継承される。

 なのでマインスターの魔女は、ユミナから数えて、ずーっと自己複製で代替わりしてきた一族だ、という想定ができます。

 ところが最近になって、つい先代のマインスターが日本人の男性と結婚して出産した。久遠寺有珠が生まれた。有珠はユミナの子孫なので当然魔術系統はユミナである。

 ふつう、魔女は性交して出産するとヒキガエルになって死んでしまうが、ユミナの一族はものすごく特殊で力があるので例外的にそのルールが適用されない。有珠の母はヒキガエルにもならず死にもしなかった。だからその事例を見た垢溜まりの魔女は、あまりに不公平だから嫉妬で狂いそうになっている。垢溜まりの魔女の恨みとはたぶんそんな事情でしょうか。

 さて、なぜこんな話をしてきたのかというと。
「魔法使いユミナは魔女なので性交による繁殖をしない」
 というのがすごく重要だと考えるからです。


●ユミナの正体

 本当くどいけどもう一回、第三魔法からの第一魔法発生の話をしますね。

 本稿の説によれば、第三魔法の使い手は聖母マリアである。聖母マリアは、第三魔法「魂の物質化」の産物としてジーザス・クライストを産んだ。ジーザスは「魂の物質化」による無限エネルギーを使って第一魔法を実現した。

 キリスト教伝説で、聖母マリアといえば、真っ先に思い浮かぶキーワードがありますよね。
 それは「処女懐胎」

 聖母マリアは「性交によらずに」ジーザスを妊娠し、出産したのです。

 こうなるともう、「リンクがつながった」としかいいようがない。こういう想像をするしかない。

「第三魔法の使い手、聖母マリアの本名はユミナである」
「聖母マリア=ユミナは性交によらずに繁殖する魔女の種族であり、性交によらずにジーザスを出産した」


 つまりユミナは第一魔法の使い手ではなく、第三魔法の使い手だと私は考えるのです。

 多くの人が、ユミナを第一魔法の使い手だと考えている理由は、「ユミナは第一魔法の成立に関わった」という文言が『FGO』に出てくるからです。
 でも第一魔法を成立させた張本人でなくとも、第一魔法の成立に「関わる」ことはできる。

 この説ではユミナは、第一魔法の使い手の実の母親であり、第一魔法を成立させるためのエネルギーを与えた存在なので、密接すぎるくらい密接に「関わっている」。

 そしてもうひとつ。
 本稿の説では、「魔女は自己複製によって代替わりする」。

 第一と第三の使い手の出現/消滅は、以下のようなタイミングになっています。

・第三魔法の使い手は、AD(西暦)前夜にこの世から去った。
・第一魔法の使い手はAD前夜に誕生した。


 一言でいうと、「第三の使い手が消えて、入れ替わりに第一の使い手が現れる」

 これ、もしミステリー小説だったら、素人読者でもこう考えるでしょう。「二人は同一人物だ」

 言い換えるとこうなる。

・第三魔法の使い手は魔女なので、死に際に自分の複製を残していく。
・その複製には第三魔法がかけられており、物質状態の魂を持つ超人として生まれた。
・なので超人は魂としては魔女のコピーである。つまりかれは魔女本人のようなものである。


 もっとくだいていうと、「聖母マリア=ユミナは死に際に《自分自身を》出産した。よって聖母マリア=ユミナとジーザス・クライストはほぼ同一人物である」

(すごいことになってきた)

 一人の人間が、ふたつの魔法を同時に持ってていいのか? という疑問が生じますが、マリア=ユミナの消滅とジーザスの誕生がほぼ同時に発生するので、マリア=ユミナとジーザスは同時に存在していません。
 おそらくユミナに第一魔法の行使は不可能でしょうし、ジーザスは第三魔法を使うことができないと思われるので、問題はなさそうだ。

 ジーザスは、のちにゴルゴダの丘ではりつけになって死亡するのですが、キリスト教の教義によれば、「ジーザスは死後、復活した(生き返った)」とされます。ジーザスの復活こそ、キリスト教の神髄です。

 本稿の説では、ジーザスの正体は魔女ユミナの代替わりです。魔女の一族は死のきわに自分のコピーを生成するので、はりつけになって死んでも、すぐに次のユミナが出現します。(前述のとおり、記憶は継承してないかもしれない)

 この再出現、ハタから見れば、「死人が復活した」ようにしか見えないでしょう。

 おそらくここで再出現したジーザスのコピーは、ジーザスではなく「ユミナ」であり、魂が物質化していない状態に戻っていると思います。

 元のニュートラルな状態に戻った(この代の)ユミナが、魔術協会に入って、「植物科」を創立した……というような流れだと思います。

・第一魔法の使い手の直系の子孫は、まだかろうじて生存している。

 という情報がありました。第一魔法の使い手ジーザスの正体はユミナであり、ユミナの子孫・久遠寺有珠は存命なので、「第一の子孫は生存」の条件は成立しています。


●追記・駒鳥ロビンは死んで生き返る(20240509)

 FGOの『魔法使いの夜』コラボを読んでいて、「ああそういえば」と思ったことがあったので追記しておきます。
 まほよコラボに、久遠寺有珠とプロイキッシャー・ロビンが登場しました。

 ロビンは初登場シーンで、有珠にはたき落とされて即死し、その場で即座に生き返るという愉快な芸を見せていました。ぐだとマシュが絶句していました。

 蒼崎青子
「有珠の言う通りロビンの事はスルーして。
 ソイツ、勝手に死んで勝手に生き返るのが日課だから。」
『Fate/Grand Order 魔法使いの夜アフターナイト 隈乃温泉殺人事件~駒鳥は見た!魔法使いは二度死ぬ~』



 死んで生き返る……。

 本稿の話の流れでお察しとは思いますが、人類が語り継いできた伝説・伝承のうち、最も有名な「死んで生き返るパーソン」がジーザス・クライストです。

 ロビンはマインスターが作り出した魔法生物のひとつ。どの代のマインスターがロビンを作ったのかはさだかではありませんが、ともあれ、

「マインスターの魔女は、死んだら生き返る存在を創造した」

 これ、

「聖母マリアが、死しても復活するジーザスを出産した」

 という伝説の語り直しとして見ることはとても容易だなと思ったのです。ようするにマインスターがマリアに、ロビンがジーザスに相当しそうだ。

 この構造の一致は、
「二千年前のマインスター・ユミナは聖母マリアとして知られる存在だ」
 とする本稿の説の傍証となりそうです。

 そういえば、ロビンの能力は、「有珠が殺されそうになったときに身代わりに死ぬ」というものです。
 そしてジーザスさんは、「全人類の罪を背負って全人類の身代わりに死ぬ」という事績を行った人なのでした。そういう点でもきわめて強力に響きあうので、

「ロビンがジーザスに比定できるということに気づいた者は、そこからの類推でマインスターの正体を推定できる」

 というようなことが意図されてる可能性はあるかもなというのがふと思ったことです。

 これまで私は、「ああマザーグースだからコマドリ死ぬんすね」くらいにしか思ってなかったのですが、上記のようなことは考えうるなと思いましたので書き留めておきます。


●アーサーが女性なのはジーザスが女性だからだ

 上記の説を繰り返しますが、聖母マリアは「自分自身を出産することができる」魔女だったので、のちにジーザス・クライストと呼ばれる人物を「自分自身として」生んだ。

 ジーザス・クライストも自分自身を生むことができる魔女なので、ゴルゴダではりつけになって死ぬきわに、自分自身を生成した(これが復活に見えた)。

 ジーザス・クライストが生成した次なる自分自身は、のちにユミナという名前で魔術協会に入って植物科を創立した。
(余談ですがなぜ植物科なのかといえば、ここでいう魔女が、ケルトのドルイドなどのイメージを下敷きにしているからだと思います)

 上記の前提をOKとするならば、ジーザス・クライストは性交による繁殖をしない魔女であり、自分のコピーを生成することで世代交代する種族なのですから、すなおに考えるなら、

「ジーザス・クライストは女性だった」
 という、なかなかびっくりな真相が発生します。すてき。

 ところで。
 奈須きのこさんたちが仲間内で構想していたころの「プロトタイプFate」では、アーサーはふつうにイケメンの男性だったそうです。

 しかし『Fate/stay night』を商品として開発する際、相棒の武内崇さんが、
「アーサー、女の子にしたらよくない?」
 と提案されたのです。

 奈須さんは「俺のセイバーを女子にするだとう?」という反応だったそうですが、実際に書いてみたところ、皆さんご存じのとおりしっくりはまって、美少女アーサーは超人気。作品は大ヒットしたのでした。このエピソードは有名ですよね。

 さて武内崇さんは奈須さんの相棒なんですから、当然、六つの魔法の内訳をご存じだ。

 ジーザスに関する上記の説を仮にOKとする場合、武内さんは「ジーザスは実は女性」という真相を知っていた。
 それを知っていたから……。

「Fateにおけるアーサー王は、いわばキリストそのものだ」
(アーサー王はイングランド人のキリスト。事績と運命がほぼ一致)

「TYPE-MOON世界観におけるキリスト(ジーザス)は、実は女性だ」

「じゃあアーサー王も女性にしたほうが、世界観にしっくりなじむんじゃないか?」

 ……という発想になっていったんじゃないだろうか。そのような想像は可能だな、と思っています。


●第三魔法「受けて三つは未来を示した」

『Fate/stay night』のヘブンズフィール・ルートの中で、イリヤは第三魔法について、
「魂そのものを生き物にして、生命体として次のステップに向かうもの」
 だと言っています。

 たとえば人類全体が、不老不死・不滅になり・無限のエネルギーを行使できるようになれば、それはまさしく生命体としての次のステップ……どころか、一気に十段階くらい進化したようなものでしょう。

 それに、「人類全体」などではなくても。
 たった一人でいいのかもしれない。

 ジーザス・クライストがたった一人で世界のあり方をがらりと変えたように、たった一人、魂を物質化させた超人が、この現代に新しく現れたのなら……。

 その一人が救世主として人類を導き、人類社会が新しいステージに立つかもしれない。

 一言で言うならば、第三魔法の意義は、
「人類には次のステップがある、ということを示した」
 というところにある。

『魔法使いの夜』の地の文のなかに、魔法の内訳について、こういうほのめかし的な文句があります。

……はじめの一つは全てを変えた。
……つぎの二つは多くを認めた。
……受けて三つは未来を示した。
……繋ぐ四つは姿を隠した。

そして終わりの五つ目は、とっくに意義(せき)を失っていた。

三つ目で終わっていれば良かったのに、と誰かが言った。
『魔法使いの夜』



 第一魔法は世界の成り立ちをがらりと変えました。「根源中心世界観」が導入され、それが「キリスト教の物語」として周知されました。エーテルが発生し、エーテル魔術文明が勃興しました。「第一魔法は全てを変えた」のでした。

 第二魔法は平行世界が存在することを確定しました。世界はすさまじい勢いで分岐しつづけており、人類の物語の結末はひとつではないということを証明しました。「第二魔法は多くを認めた」のです。

 第三魔法は、人類がこれから先も進歩可能であることを示しました。人間は、人類社会は、もっとすぐれた存在になることができるのです。「第三魔法は未来を示した」のです。

 そして第一から第三は、サイクル構造になっています。

 第三魔法が、第一魔法を生みました。第三魔法の力が、第一魔法成立のためのエネルギー源になったのです。そこでなしとげられたのは「救世主の誕生」でした。

 第一魔法が、第二魔法を生みました。「第一魔法の理論を改良すれば、平行世界を感知できる」ことに気づいた者がいたのです。第一魔法が「天井に穴をあけて星を見る」ようなものなら、第二魔法は「壁に穴を開けて隣の部屋を見る」ようなものです。

 第二魔法が第三魔法を生む予定です。第二魔法が手に入れてくれる情報で、第三魔法の研究が進む予定だからです。第三はいわば「自分自身に穴をあけて魂の世界をのぞき見る」ようなものです。

 そして、いずれ第三魔法が完全に再現されたとき、「新たな第一魔法」が実現するのです。「魂の世界から、新たな救世主が到来する」という形で。

 第一から第三は、このようにぐるぐるとめぐりながら、人類全体をよりよく前に進めていく「人類の車輪」なのだと言えます。

 このように、第一から第三が、正の効果で循環していく構造こそが、私がいちばん指摘したかったことです。この構造を美しい、と思う私がいるのです。

 このサイクル構造のことを、以後、「初期三魔法循環説」と呼ぶことにします。今後の投稿でこの用語が出てきて意味に迷ったら、本稿の本節に戻ってきて確認してください。
 また、本稿の説を修正したり展開したい方は、できればこの語を使い、リンクを張っていただけると助かります。


●三つ目で終わっていれば

 さて、先ほど引用した『魔法使いの夜』の地の文に、なにやら不吉そうなほのめかしが書いてありました。

三つ目で終わっていれば良かったのに、と誰かが言った。
『魔法使いの夜』



 前から三つは確かに、「人類に対して正の方向で寄与するすばらしいもの」でした。どうやら、第四魔法以降は、必ずしもそうじゃなさそうだ。

 ということで、続きます。次回は第四魔法以降の中身について。頭の中にはもう全部ありますが、書いてないので、当分先になります。


(続く)

 続きはこちらです。TYPE-MOONの「魔法」(3):第四魔法はなぜ消失するのか

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