臺灣と瀬田で數理生態學と妄想

翹首望東天, 神馳奈良邊. 三笠山頂上, 想又皎月圓(阿倍仲麻呂). 明日できることは今日しない

生態理論とは何か?――微生物生態学との関係

2017-08-21 10:17:48 | 研究

今月末の「環境微生物系学会合同大会2017」内の、企画シンポジウム「S11: 微生物生態系の仕組みの理解に向けた挑戦」で講演します。

企画S11 微生物生態系の仕組みの理解に向けた挑戦 8月31日 15:00-16:55 A200会場 企画学会: 微生物生態学会 春田伸(首都大) 座長: 春田伸(首都大)

S-058 合成生態学に期待できることとその限界 ー微生物の共存・生態系の恒常性機構を考えるー......二又 裕之 (静岡大学グリーン科学技術研究所)

S-059 生態学理論とは何か? ̶微生物生態学との関係 ..........三木 健1, 2 (1国立台湾大学海洋研究所, 2中央研究院環境変遷研究中心)

S-060 集団の挙動に大きな影響を及ぼす個体の変形性 ..........益子 岳史 (静岡大・工)

S-061 異分野連携のためのイロハと数学者の苦悩..........齋藤 保久1, 鈴木 研志2, 二又 裕之3 (1島根大院・数理科学領域, 2静岡大院・自然科学系教育部, 3静岡大・グリーン研)

 

生態学理論とは何か? ――微生物生態学との関係

生態学は,博物学(~菌の生態・~環境の群集組成記載・~生態系のモデルなど)・自然科学(観測・実験・モデリングにより一般理論の構築をめざすもの)・数理科学(数学・統計・情報学など)の3つのアプローチの融合分野である.狭義にはその自然科学部分だけが生態学であろう.博物学は自然科学の素材となりうる生命と生態系の多様性や驚異を知らしめ,数理科学は一般理論の構築を助ける技法と哲学を提供する.その二つのアプローチの助けにより,注目する生物群・生態系に拠らない生態学理論が構築されるはずだ.しかし,人は易きに流れやすいもので,生物好きは博物学に流れ,数学・計算機好きは数理科学に流れ,何時までたっても自然科学としての生態理論は不完全なままである.私自身は博物学には分析的興味が全くなく,自然科学と数理科学のあいだを行ったり来たりし生態理論構築への貢献は足踏み状態である.

本発表では第一に,生態学における「理論」とは何かについて定義する.この定義付けにより数理モデル(アプローチ)と理論(成果物)との関係性を明らかにする.第二に,生態学における理論のよりよい理解のため,主要な生態学理論の紹介と,生態学の問題解決に有用な「数学理論」との比較,を行う.

第三に,対象を限定しないはずの生態学が,実は実験材料に大きく依存した理論しか構築できておらず完全には程遠いこと(もしくは新たな発展フェーズに突入したこと)を論じる.生態学の理論は,対象を限定しないという理想(建前)の下,実際には目に見えるサイズの動・植物集団の振る舞いを理解を目指してきた.それにも関わらず主要な理論は,植物・動物プランクトンを含む広い意味での「微生物」の実験系を基に発展してきた.しかし近年,陸上生態系では,生物間相互作用において植物の「食べられても死なない」という特性や有性生殖に関わる事象に注目が集まっており,致死的な相互作用や無性生殖しか扱えない従来の「微生物」実験系に基づく生態理論の有効性に疑問が生じている.一方の微生物生態学においても,生態学における微生物実験系では扱われてこなかった,個体レベルの代謝機能の多様性や遺伝子の水平伝播などの「微生物らしさ」に注目が集まっており,従来の生態学理論は適用できないのが現状である.以上により,微生物を対象にした生態学において,新たな理論的枠組みの提唱の必要性があると言えるだろう.

 


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