Seiji Ninomiya (二宮正治)

Let me tell "JAPAN NOW"

二宮正治の短編小説 秀樹のクラリネット 第20回

2011-04-27 02:36:47 | 日記
 秀樹は頼まれればテレビでもラジオでも出演してクラリネットを吹いた。
「自分のクラリネットで少しでも被災地の人々の心が癒されれば」
 と思ったからだ。
田村秀樹の名前は、
「被災地を救うクラリネトの少年として有名になっていった」
 だが秀樹の心が晴れる事はなかった。
「一向に故郷福島から良い便りが聞こえてこない」
 この苦しみがあったのだ。
「人々は日々の生活に苦しんでいて、その生活はぜんぜん改善されていない。今すぐにでも福島に戻りぼくのクラリネットで人々の心を慰めたい」
 この思いが強かった。
「だけど、今ぼくが福島に戻っても人々がぼくに気を使って迷惑になるだけかもしれない」
 秀樹の心には、
「福島に戻りたい」
「東京の江戸川での新しい生活を大事にしたい」
 この相反する気持ちがあり、その心は揺れ動いていた。
そんな秀樹の心を愛子は痛いほど分かるのか、
「二人ぼっちよ」
 と秀樹の顔を見ると声をかけてくれたのだった。

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