二宮正治の短編小説 高校生物語 太郎の青春 第２回

　昭和四十四年六月の衣替えの季節ぐらいから、太郎は高校生ではなしに大人の女性に恐ろしいまでに人気が出始めた。
「百七十センチを超す身長の男性が珍しかった当時に、太郎はすでに百七十五センチあったのだ」
　元来内気な太郎にとって女性に人気が出ると言う事は、苦痛以外の何物でもなかった
二十歳を過ぎた女性がやたらに騒ぐのである。
「背は何センチある」
　この言葉を耳にタコが出来るほど聞いたのだった。
この質問を受ける時心の底で、
「背が高ければいいってもんじゃあないだろう」
　と叫んだ。
太郎は好むと好まざるとに係わらず、
「大人への階段」
　を歩き始めたのである。
太郎は女性にうつつを抜かしてはおれなかった。
「進学校の高校生活は予想以上に辛かった」
　これが太郎の実感だったのだ。
「高校生になったら素晴らしいばら色の生活が始まると思ったが、甘かった」
　太郎は自分に言い聞かせるように呟いたのである。