おやしらずを一挙に二本抜いたせいで、上の歯並びにぐっと余裕ができたせいだろう。
今まで抑圧されていた歯たちが解放されて本来の位置に戻ったらしい。
しばらくの間、歯の浮くような感じがしたり微妙に痛かったり歯ぎしりすると歯の動くのが分かったり、それぞれ違う場所がゲリラ的に変動の兆しを見せていたのだが、ようやく皆さん所定の位置に落ち着いて一息ついているようだ。
歯に違和感があるせいだろう、変な夢を見た。
明るくて清潔そうな歯科の椅子に座り、青いマスクをした若い女医さんの治療を受けている。
いつもの男の歯医者さんに比べると明らかに細いのが分かる両手の人差し指を口に突っ込んで、ちょうど「イーだ」をするように口を左右に広げた状態で、口の中をなにやら掻き回している。
特に痛みはなく「ああ女の人の指だと少し口が楽なものだなあ」などと思ったりしているが、虫歯を削るようでもなく、なんの治療をしているのかはよく分からない。
しばらくして女医さんが人差し指をするりと抜いた。
抜いた後の口の中に、なんだかにちゃにちゃぶにゅぶにゅした物体が残っている。
物体に舌が触れると粘りがあって、薄ら甘いような、ダシ汁のような味がかすかにする。
その微妙な味と弾力と粘り気がとても気味が悪く、吐き気を催しそうだが、勝手に吐き出すのも悪いと思って我慢している。
女医さんが黙ったまま両手を胸の前で「お化け~」みたいな格好にしているのでよく見たら、両手の人差し指の先っぽは、第三関節から先の三角形に尖った白い骨が剥き出しになり、肉と骨の継ぎ目から玉子色の脂肪と神経のような白い糸がのぞいている。
口の中でにちゃにちゃしているのは脂肪で、気味の悪い弾力は指先の皮膚の感触だった。
女医さんは黙ったまんまで特に痛そうでもないし、私は「ああ、指先の肉がとれたのか」と分かったけれど、吐き出してよいものかどうか分からないので、やっぱり黙ったまんまゴムのような温かい指先を舌の上に乗せて、女医さんが次に何を言い出すかじっと待っている。
その口の中の味と感触ときたら非常にリアルで気味が悪かったが、こうして書いてみると存外つまらない。
人肉食願望にしても性衝動にしても、さほど興味深い寓意はなさそうだ。
今まで抑圧されていた歯たちが解放されて本来の位置に戻ったらしい。
しばらくの間、歯の浮くような感じがしたり微妙に痛かったり歯ぎしりすると歯の動くのが分かったり、それぞれ違う場所がゲリラ的に変動の兆しを見せていたのだが、ようやく皆さん所定の位置に落ち着いて一息ついているようだ。
歯に違和感があるせいだろう、変な夢を見た。
明るくて清潔そうな歯科の椅子に座り、青いマスクをした若い女医さんの治療を受けている。
いつもの男の歯医者さんに比べると明らかに細いのが分かる両手の人差し指を口に突っ込んで、ちょうど「イーだ」をするように口を左右に広げた状態で、口の中をなにやら掻き回している。
特に痛みはなく「ああ女の人の指だと少し口が楽なものだなあ」などと思ったりしているが、虫歯を削るようでもなく、なんの治療をしているのかはよく分からない。
しばらくして女医さんが人差し指をするりと抜いた。
抜いた後の口の中に、なんだかにちゃにちゃぶにゅぶにゅした物体が残っている。
物体に舌が触れると粘りがあって、薄ら甘いような、ダシ汁のような味がかすかにする。
その微妙な味と弾力と粘り気がとても気味が悪く、吐き気を催しそうだが、勝手に吐き出すのも悪いと思って我慢している。
女医さんが黙ったまま両手を胸の前で「お化け~」みたいな格好にしているのでよく見たら、両手の人差し指の先っぽは、第三関節から先の三角形に尖った白い骨が剥き出しになり、肉と骨の継ぎ目から玉子色の脂肪と神経のような白い糸がのぞいている。
口の中でにちゃにちゃしているのは脂肪で、気味の悪い弾力は指先の皮膚の感触だった。
女医さんは黙ったまんまで特に痛そうでもないし、私は「ああ、指先の肉がとれたのか」と分かったけれど、吐き出してよいものかどうか分からないので、やっぱり黙ったまんまゴムのような温かい指先を舌の上に乗せて、女医さんが次に何を言い出すかじっと待っている。
その口の中の味と感触ときたら非常にリアルで気味が悪かったが、こうして書いてみると存外つまらない。
人肉食願望にしても性衝動にしても、さほど興味深い寓意はなさそうだ。