月刊ボンジョルノ

ほとんどツイートの転載です。

甲州ワインに撃沈

2006-06-28 | Weblog
山梨公演。
普段とは違う劇場・ホールで歌舞伎を観ると、相対化と申そうか異化と申そうか、「ほほう、こんなに面白いものだったのか」と感心したり感動したりしてしまうことがある。
違う額縁に入れてみたら、絵がいつもより鮮やかに見えた。
私服で会ってみたら意外に大人っぽくてドキドキした。
そういうことである。
今回も二階の遠い客席から見ていて誠に面白かった。
お客さんは課外授業で来られる学生さんがほとんどなのであるが、大変熱心に観ておられたのに驚いた。

夜は昨年に引き続きK元さんのお宅に闖入。
昨年と違うのは、私に高脂血症が、K元さんに痛風が発症したことである。
奥様の絶品手料理をいただきながら、エビスビール→「春鶯囀」純米吟醸→「フジクレール」白ワイン→ウォッカを次々に飲む。
この「フジクレール」というのは、お豆さんのフジッコが経営しているワイナリー(その名も『フジッコワイナリー』)のブランドなのだそうだ。
昨年は「シャトレーゼ」という地元の洋菓子屋さんのワイナリーのを御馳走になった。
このように企業が地元のワイナリーを畑ごと買い取ってワイン業界に乗り出す、というパターンが増えているらしい。
確かに「自社のワイナリー」「自分のワイナリー」というのはなかなか魅力的な響きである。
同僚のM浦くんが「自分のワイナリー持つのが夢なんスよお。季節になるとある日友達の所に木箱が届くんです。『あれ、なんだろう』って開けるとうちで作ったワインがこう入っててね。『ああもうそんな季節かあ』なんて。ははは」と妄想を膨らませるぐらい魅力的な響きである。
その点「自分の酒蔵を持つ」となると、越後の杜氏さん(68歳ぐらい)に徹夜で働いてもらったりしないといけないのでちょっと話が大仰になってしまう。
そんなことはどうでもよい。

白ワインの2004年(当たり年)と2005年を飲み比べというのが今回のご趣向。
甲州種のワインは白がおいしい。
特にあっさりしてキリっとした酸味が特徴なので、キンと冷やして夏に飲むのには大変よろしい。
「ね。2004年はいかにも甲州、っていう感じでしょ、このキリっと感が。ごくごく」
「いやーでも2005年の方が複雑な味わいでワインとしてはこっちの方が。ぐびぐび」
すでにビールと純米吟醸でかなりの酔っ払いになっているのだが、爽やかでおいしいのでススイのスイと飲んでしまう。
さてもう帰らなきゃ、と座り直したところへ絶妙のタイミングでウォッカが出てきたので、つい二杯飲んでしまう(奥様、お酒を出す間が良すぎます)。
やあやあではまた、と至極機嫌よくホテルに帰ったのだが、翌日は廃人同様に一日中座り込んで物も言わずに過ごした。
翌々日は随分復活したが、夕方まで脳が微醺を帯びているのが分かった。
「三日酔い」というものが世の中にあると聞いてはいたが、経験したのは生まれて初めてである。
K元さん、またしても御馳走になりました。ありがとうございました。ぺこり。

「ガラスの仮面」とはまた違う方向で

2006-06-23 | Weblog
コミックの原作も書いていらっしゃるライターの方から取材を受ける。
お題は「歌舞伎役者の日常生活について」。
そういう家庭で育った人物を作中に登場させたいのだが、日ごろ一体どんな暮らしをなされているのかとんと想像もつかないので教えてもらいたい。
いや別にマル秘裏事情みたいな話ではなくて、ほんとにどういう生活パターンなのか見当もつかないものですから。
とのことである。
もちろん私とて役者さんの日常生活など把握しているわけではちっともないのだが、少なくとも勤務状況・労働環境については一般の方よりも知っていることが多いと思われるので、現在の興行システムや業界の慣習などをぽつぽつとお話申し上げる。

そういうご家庭の子供にしてみれば、ごく小さい時から日本舞踊とか三味線とか鼓とかのお稽古が当然のように始まる。
お父さんの勤務先が一ヶ月単位で決まるので、地方公演のときはひと月まるまる家にいなかったり、休みの月はずっとブラブラしていたりする。
東京勤務のときでも月によって勤務時間帯が全然違う。
番頭さんとかマネージャーとかお弟子さんとか、家族以外の人が始終家を出入りしているし、初日や千秋楽にはロビーや楽屋に連れて行かれてご贔屓さんにご挨拶したりする。
なにしろお母さんはくるくると立ち働いていてお父さんより忙しそうである。
そうこうするうち男の子なら「初舞台」ということになって、学校半分・お芝居半分の生活になる。

というようにサラリーマンのうちの子供と事情の異なるところは多々あるだろうけれど、我々の想像を絶するような驚くべき奇習が行われているということはまあないと思う。
大昔はそれこそ芝居以外のことは本当に何にも分からない、例えば「お金がどんな形をしたものやら見たことがない」というような役者さんがいたそうだが、そんな浮世離れが許されたのは戦前まで。
当今ではまさかそういう風では生きていかれない。
役者子供という言葉があるくらいで、そりゃあ天真爛漫というか手前勝手で世間知らずで破天荒な言動をするひともいらっしゃる・らしいが、まあ基本的には21世紀の日本に生活する社会人としての常識の範囲内には収まるものと考えてよかろう。
さすればその日常生活だって「うひゃあ、すげえなー」「きっついなー、それは」ということがあったにしろ、我々の想像力の圏内には収まろうというものである。

しかしそれではドラマにならないので、「例えばこれこれこういう状況というのは起こったりしないのだろうか」「これこれこういう葛藤が生じたりはしないのだろうか」「これこれこういう可能性はないのだろうか」と、いろいろ刺激的なシチュエーションをお示しになる。
その辺は実際にはケースバイケースだろうが、フィクショナルな話は劇的なほど面白いので「そりゃそういうことも当然あり得るでしょうねえ」「おおいいですねえ、リアルですねえ」と焚きつけることにする。
いずれにしても伝統芸能業界は題材としてはものすごく面白いですよね、という話になったのであるが、その途中で提示された大変愉快な筋立ての断片については、当然ここでは秘密なのである。

レンタカー賛江

2006-06-18 | Weblog
電車での旅行は「座っていれば着くからいい」という人もいるけれど、実際にやってみるとそれ以外の歩く距離が非常に長くて荷物が厄介で時間のロスが大きい。
特に子連れのこちとらにとっては、大きなバッグをさげて子供の手を引いてだだっ広い駅の人ごみを延々と歩くなど苦行以外のなにものでもない。
電車に乗り込んだ時点でホッとしてヘトヘトになってしまう。
その点車は、渋滞さえ周到に避ければ、荷物はトランクに放り込んで、好きな時間に好きな目的地まで個室で好きな音楽を聴きながら楽ちんに移動できる。雨が降ったって平気である。
それにたまーに車の運転をすると大変に楽しい。独特の身体的高揚感が味わえる。
ということで、子供ができてからはどこへ旅行するのにもレンタカーを使っている。

フィット・マーチクラスのちっちゃい車での家族旅行なら、一日のレンタカー代が5,000~6,000円。高速代・ガソリン代を合わせても電車代とどっこいどっこいか、遠出するなら電車代より安いこともある。
こないだ法事で福島に一泊旅行したときは、両親も一緒の5人連れだったので、電車だと往復6万近くかかるところが、7人乗りミニバンを借りて何やかやで4万かからずにすんだ。
その分運転手の労力がコストとして支払われるわけだが、運転手は嬉々として運転に取り組んでいるので問題にならない。

こういう「旅行で二ヶ月に一回乗るかどうか」という車乗りにとっては、レンタカーは誠にありがたい。
「車持ってればもっと乗るようになるよ」という人もいるが、たぶん自分の車を買うと飽きてしまうと思うから買わない。マメにメンテナンスする自信もない。
ごくたまーに、色んなメーカーの色んな種類の車にとっかえひっかえ乗れて、後の色々な面倒のないのがよいのである。

ところで「車に対する考え方はその人の異性観を反映している」という説があるが、それがとんでもない妄説であることは、上の文章を読みなおかつ私をよくご存知の方には深く首肯していただけるであろうと確信しているのである。

ガーデニングというよりは粛清だな

2006-06-15 | Weblog
初夏を迎えて玄関先の植え込みがボウボウになってきたので、見るに見かねて粛清を決意。
この家に前住んでいた方(おしゃれな編集者夫婦)が庭いじりが大好きで、今植わっている木や草はすべてその方のご趣味によるもの。
残念なことには、細かく伺った植物の名前をきれいに忘れてしまった。
というぐらい植物に無関心で、ましてや土いじりの趣味はまるでなかったのだが、これがやってみると大変に面白い。
まずはお隣さんに侵蝕している木の枝を問答無用容赦なく切り落とす。ばきばき。
門柱灯を覆い隠している枝もばしばし。
全体のバランスがイビツになったので、三歩引いて眺めながら、見た目に重い枝を次々に切っていく。
きゃあ、一挙にスカッとしてすってきいー。
日当たりも風通しもぐっと良くなった。よしよし。
次に枯れて見苦しくなった下草をきれいに取り除き、アンバランスに繁茂している部分の草をわしわしと引き抜いていく。
意外なほどダンゴムシやハサミムシがわらわらと出て来るので「ああごめんなさいごめんなさい」と謝る。
そういえばこの植え込みではカマキリやチョウチョや芋虫も目撃したことがある。
放置してあったのが幸いしたのか、玄関先のこんな狭い場所でも虫には結構住み心地が良いようだ。
虫さんのためには茂り放題にして差し上げたいのだがそうもいかぬ。ぜひもなき世のならいじゃなあ。わしわし。
夢中になってゴミ袋二杯分の枝と草をとったら見違えるようにさっぱりした。
しかも久しぶりに湿った土や枯れ草や木の枝の感触を味わって、なんだか気分が高揚した。
「自然とのふれあい」なんていうと「ケッ」という感じだが、こうして土や木と身体的に接触することにはものすごく意味があることよ。と身をもって実感したことであることよ。
こんなにせいせいするんならもっと早くやりゃあよかった。

しかし植物いじりが楽しく感じられるようになったということは、動物の世界よりも植物の世界の方に一歩近付いたということではなかろうか。
人はそれを「老い」と呼ぶのではないのか。もしかして。

してますよ、しごと

2006-06-09 | Weblog
歌舞伎の登場人物のイラストが必要になったので、なけなしの人脈を振り絞って漫画家のK上弥生さんにおすがりする。
なにしろモノがモノなので、絵描きなら誰でもいいという訳にはいかない。
例えば資料の写真を提供して首っ引きで描いていただいても、「いや写真では確かにそう見えますけどそうじゃなくてですね」というピント外れの絵になってしまう可能性が高い。
ある程度お芝居の分かる、土地勘のある人でないと。
その点K上さんは文楽・人形浄瑠璃をネタにした劇画。といっても作品の翻案ではなくて芸人さんが主人公の。を執筆中という稀有な人材で、当然歌舞伎・文楽はお好きでいらっしゃるので、お芝居のキャラクターはきちんと描きこなしてくれるはずである。

若干の心配は画風。
彼女は少年誌のざくざくとした劇画を本領としているのだが、今回は学生・生徒・お子様向けにお芝居を分かりやすく解説しよう、という目的に使うイラストなので、それなりの「シンプルさ」と「かわゆさ」が求められる。
だからといって変に注文をつけて、彼女の本来の力が発揮できないようなことになっては申し訳ない。
しかも舞台関係の仕事の常として、納期は短くギャラは安い。
まあとにかく相談して懇願してみるしかない。

ということで先月末に無理言って引き受けていただいたイラストを、早くも本日お届けいただいた。
いやー素晴らしい。
ほぼ毎日のように「着物はこれでいいですか」「ここんとこの色はどうしましょう」などとマメにお問い合わせいただいた甲斐あって、一発OK。
見事に当方の意図を酌んでくださったイラストが出来上がった。
では特別に当ブログにて先行公開しましょう。

もちろん嘘です。
7月、ぜひ観に来てくださいね。ふふ。

しかしここ数年殺伐とした仕事ばかりやっている中で、K上さんの下描きのFAXを受け取る瞬間だけは本当に久しぶりにクリエイティブな喜びを味わうことができた(遠い目)。
K上さん、どうもありがとうございます。