洗面所で歯を磨きながら鏡を見て「あ、わしってもうすぐ四十か」と思ったら、帯屋のことを思い出した。
義太夫に『桂川連理柵』(かつらがわれんりのしがらみ)というのがあって、主に京都の帯屋を舞台にした話なので通称を「帯屋」という。
帯屋の後妻おとせは、なさぬ仲の長右衛門を追い出して連れ子の儀兵衛を帯屋の主人に据えようと企み、儀兵衛と組んで大金横領の罪を長右衛門になすりつけようとしている。
ところが長右衛門は、旅先の宿で衝動的にお向かいの信濃屋のお半ちゃんとデキてしまい、一回で妊娠させるというすごいんだかすごくないんだかよく分からないドジを踏んでいる。
悪いことはできないもので、「長さまへ」と書いたお半ちゃんからの恋文がおとせの手に入る。
おとせが「こんな奴はうちには置けぬ」とカサにかかって責め立てるところに奥さんのお絹さんが割って入り、「いえいえこれは長右衛門あてではなく丁稚の長吉あて、大きな間違いでございます」と殊勝にも夫をかばってコトをおさめようとする。
隠居の繁斎も「店の金をいくら使おうが主人の長右衛門の勝手じゃ」と長右衛門をかばって一旦はおさまるのだが、実は長右衛門は大名から預かった刀を悪者にすり替えられるというドジも踏んでいる。
家の中はごじゃごじゃとモメる。
家の外では不倫と妊娠。なまじ貞淑な奥さんが心を砕いてかばってくれるだけになお辛い。
大事な刀も見つからない。
疲れ果てた長右衛門は、とうとうお半ちゃんと手に手をとって桂川で心中してしまう、という誠に情けない話である。
このときお半ちゃんは14歳のおマセさん。
長右衛門は「四十に近き身をもって」。つまり38~39歳という設定で、今の私とほぼ同じなのである。
私は14歳の女の子と不倫しているわけでもないし脇差の行方に苦悩しているわけでもないが、なんか世の中のそれこそ「柵」がいろんな形でかぶさってきて息苦しくなり、なんかのきっかけで魔がさして普段なら絶対やらないような素っ頓狂なドジを踏んでしまい、くたびれた挙句に捨て鉢になって派手に破綻する、というようなことが起きるのは、この辺の年代なのかもしれない。
客観的にみればこの長右衛門という男は、ダメ男オンパレードの世話物の浄瑠璃の中でも「ダメ男ベスト3」には必ずランクインしようというダメ男なのであるが、全くの同年代と思うとなんかちょっとご同情を感じないでもない。
田町の飲み屋とかで、あえてお半ちゃんやおとせ婆の話題には触れずに、帯地の良し悪しの見分け方かなんかをぽつりぽつりと話しながら酒を飲んでみると、意外に「こいつなかなかいい男だな」と思うようなヤツかもしれない。
義太夫に『桂川連理柵』(かつらがわれんりのしがらみ)というのがあって、主に京都の帯屋を舞台にした話なので通称を「帯屋」という。
帯屋の後妻おとせは、なさぬ仲の長右衛門を追い出して連れ子の儀兵衛を帯屋の主人に据えようと企み、儀兵衛と組んで大金横領の罪を長右衛門になすりつけようとしている。
ところが長右衛門は、旅先の宿で衝動的にお向かいの信濃屋のお半ちゃんとデキてしまい、一回で妊娠させるというすごいんだかすごくないんだかよく分からないドジを踏んでいる。
悪いことはできないもので、「長さまへ」と書いたお半ちゃんからの恋文がおとせの手に入る。
おとせが「こんな奴はうちには置けぬ」とカサにかかって責め立てるところに奥さんのお絹さんが割って入り、「いえいえこれは長右衛門あてではなく丁稚の長吉あて、大きな間違いでございます」と殊勝にも夫をかばってコトをおさめようとする。
隠居の繁斎も「店の金をいくら使おうが主人の長右衛門の勝手じゃ」と長右衛門をかばって一旦はおさまるのだが、実は長右衛門は大名から預かった刀を悪者にすり替えられるというドジも踏んでいる。
家の中はごじゃごじゃとモメる。
家の外では不倫と妊娠。なまじ貞淑な奥さんが心を砕いてかばってくれるだけになお辛い。
大事な刀も見つからない。
疲れ果てた長右衛門は、とうとうお半ちゃんと手に手をとって桂川で心中してしまう、という誠に情けない話である。
このときお半ちゃんは14歳のおマセさん。
長右衛門は「四十に近き身をもって」。つまり38~39歳という設定で、今の私とほぼ同じなのである。
私は14歳の女の子と不倫しているわけでもないし脇差の行方に苦悩しているわけでもないが、なんか世の中のそれこそ「柵」がいろんな形でかぶさってきて息苦しくなり、なんかのきっかけで魔がさして普段なら絶対やらないような素っ頓狂なドジを踏んでしまい、くたびれた挙句に捨て鉢になって派手に破綻する、というようなことが起きるのは、この辺の年代なのかもしれない。
客観的にみればこの長右衛門という男は、ダメ男オンパレードの世話物の浄瑠璃の中でも「ダメ男ベスト3」には必ずランクインしようというダメ男なのであるが、全くの同年代と思うとなんかちょっとご同情を感じないでもない。
田町の飲み屋とかで、あえてお半ちゃんやおとせ婆の話題には触れずに、帯地の良し悪しの見分け方かなんかをぽつりぽつりと話しながら酒を飲んでみると、意外に「こいつなかなかいい男だな」と思うようなヤツかもしれない。