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カノンの絵文字

2016-01-19 | 典礼 トリエントミサ
十字架のキリスト
カール禿頭王ミサ典礼書挿絵
パリ国立図書館 870 年頃

 8世紀から9世紀にかけて、カロリング朝時代には、十字架に磔にされているイエスを描く図が多く描かれるようになる。それまで、荘厳のキリスト、勝利のキリストの図が親しまれていたのに対して、これは、中世の信仰心における関心のもち方の変化、イエスの十字架上での、人類を贖うための奉献の死に対する関心の高まりの影響と考えられている。ただし、この時代の十字架におけるイエス・キリストは、純粋に傷つき、苦しみ死んでいく者としてではなく、十字架上にあってもなお目を開け、生きているキリストを描くもののほうが主流であった。この表紙絵の作品においても、イエスの体はかなり写実的に描こうとしていているが、それでも、重力で下に落ちていくような姿ではない。(なお、この日の『聖書と典礼』の紙面で制作年を「780年」としたが、これは出典書M. Backes, R. Dölling “Art of the Dark Ages” , 1969.の解説そのものの誤り。正しくは870年なので、ここで訂正しておく。)しかし同時に同じ9世紀頃からは徐々に、目を閉じ、体が力なく下がり、死につつある十字架のキリストを描くものも現れてくる。そのように、キリストの死と復活の神秘という両面を描く手法が併存しているのがこの時代である。ちなみにイエスの足の下には蛇が描かれているが、これは罪・死の象徴である。
 この作品の興味深い点は、もう一つある。それは、描かれているのがミサ典礼書であり、その中でも、奉献文の冒頭を飾る挿絵であることである。ローマ典礼のミサでは、奉献文は「ローマ・カノン(典文)」(Canon Romanus)と呼ばれる(現在のミサ典礼書にも第一奉献文として収められているもの)。そこからこのような冒頭の絵は、カノン図とも呼ばれるようになる。その特徴は、この奉献文冒頭の語句の頭文字装飾という形で組み込まれている点にある。この絵でもイエスが架けられている青で彩られている十字架は、実は十字型ではなくT字型をしており、このTに始まり、イエスの体の(向かって)右下にはE IGITVRという文字が記されている。GI、TVは横に並び、またVはこの時代Uを意味する。続けると「Te igitur 」という語句になる。これは、この奉献文の最初の文章の冒頭の二語なのである。日本語版「ミサ典礼書」の第一奉献文の最初の文言で示すと「いつくしみ深い父よ、御子わたしたちの主イエス・キリストによって、いまつつしんでお願いいたします」のうち、「いま〔あなたに〕……お願いいたします」の「いま〔あなたに〕」に当たる。

http://www.oriens.or.jp/st/st131013.html

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