ぼくは、昭和38年の大豪雪の後、母から髪の毛を伸ばすように言われた。クラスには髪の毛を伸ばした坊ちゃん刈りが何人かいたが、ほとんどいがぐり頭だった。そんな中就職組の頭が坊ちゃん刈りに変わって行った。
そして坊ちゃん刈り初体験で店に来た。髪の手入れをどうしたらいいかなんてことには全く気が行き届かない。やることが一杯あってそれどころの騒ぎではない。一つ終わったと思ったら次から次へとボス猿が仕事を言いつけてくる。
えー。そんなにやるの?。ちょっと勘弁してくれよ。と言えればいいのだが、ボス猿おっかないからそんなことは言えない。髪の毛ぼさぼさにして仕事していたら、よた老君、床屋代やるから床屋へ行ってきないさい。ラッキー!。床屋代もらったのも有難かったが、仕事中に堂々と床屋へ行けるのがありがたかった。
床屋へ行くと髪の毛を切ってポマードとチックを付けて綺麗にしてくれる。まだ液体整髪料が出ていない時代、店の先輩もポマードとチックで髪の毛を綺麗にしている。ぼくはお金がないからポマードやチックが買えなかった。
買えなかったというより、髪の毛より食い気の方が盛んだった。貧しさによって純粋培養されてきたぼくには買い食いという習慣がない。買い食いどころか食堂で飯を食べるという習慣もなかった。店に来て初めての休みに先輩に連れて行かれて飯を食べるのが新鮮な体験だった。
そんなぼくも給料が上がると自分用のポマードとチックを持つようになる。ポマードは手のひらに付けてべたべたこね回して髪の毛に付けるのだが、後で手を洗うのが面倒くさい。
ポマード付けた後、横にやった前髪をチックを使って垂れないようにする。男の髪の毛の手入れは、ご婦人方のペタペタパタパタほどではないが、それでも面倒くさい。そんなこんなでぼくの頭はいつも鳥の巣状態だった。
そんな頃資生堂が液体整髪料エムジーファイブを出した来た。ポマードがなくなったので化粧品屋さんに買いに行ったらいいのが入ったよと言って勧めてくれた。使ってみるとポマードより簡単でいい。こりゃいいや。
それからというものぼくの整髪料はエムジーファイブになった。化粧品屋さんは次々と出てくる値段の高い新製品を勧めるのでたまに高いものを買うこともあったが、そんなものに金かけても仕方がないと思うようになって、エムジーファイブ一本で通すようになった。
化粧品屋さんはすぐ近くにあるから最初の頃はこまめに買いに行っていた、その内に面倒くさくなって3本4本とまとめ買いをしていたのだが、段々と買いに行くのが面倒くさくなってきた。床屋さんに行ってそんな話をしたら、それなら業務用のやつを取り寄せてやろうかと言われて頼んだ。
1リットルの容器に入っている。業務用だからケバケバしいラベルが貼ってない。値段は少し安め。こりゃいいや。一箱3本入りを頼んだ。化粧品屋さんで買ったやつが無くなると、その容器に1リットルの容器から移して使う。
長いこと使っていると容器が壊れることがある。仕方がないから化粧品屋さんに行って探すのだが、エムジーファイブより高級なものばかりでお目当てのエムジーファイブがなかなか見つからなくなってくる。
整髪料ごときであっちへ行ったりこっちへ行ったりするのが面倒くさい。そんな思いをしながらもなんとか置いてある店を探して使う容器を手に入れている。ぼくの場合、化粧品屋さんで整髪料を買うのは中身もさることながら容器を手に入れるのが目的だ。
エムジーファイブが登場した時は、男性用整髪料としては画期的なものだった。その後メーカーも次々と商品ラインナップを揃えてきて、今ではエムジーファイブは一番下のラインナップに位置づけられたようで、下手すると置いてない化粧品屋さんもあったりする。
ハイライトは、ニコチンやタール分が多いタバコということで敬遠されているが、あれが出た頃は初めてのフィルター付きタバコで一番ニコチンやタール分が少ないタバコだった。
エムジーファイブが一番安いラインナップに位置づけられて、ハイライトが強いタバコに位置づけられても、それは今の世の中がそのように変わっただけの話で、世に出た頃を振り返って見れば両方とも画期的なものだった。
そういう訳でぼくは、エムジーファイブが世に出た時からずっと変わらず使ってきている。40年も変わらず使っているというのも珍しいが、化粧品業界でそれを売り続けているということは男性用整髪料だからだろう。
そんな訳で、あけましておめでとうございます。あまり頑張らずに気の赴くまま更新していきます。本年もよろしくお願い致します。