進学した友人は親からもらう小遣いが少ない。ぼくは、給料日前になると金がなくなると言っても、自分で稼いだ金を使うから、越後の高校生から見たらちょっと派手すぎる金の使い方をしていたようだ。
帰省したある時、越後の真面目な高校生と一緒に昼間からビールを飲んだ。真面目な高校生は見つかったら退学になるのを覚悟で飲んでいる。ビール飲んだ後にタクシーに乗ってプールに行こうと言って、安物の海パン二つ買ったところで、真面目な高校生の方が付き合いきれなくなった。結果としてこれが大事な友人を一人無くしてしまうことになる。
それでも、その友人の所には、帰省のたびに訪ねて行った。親はぼくの顔をよく知っているからすぐに家に上げてくれる。真面目な高校生の部屋は二階だ。見ると部屋の四隅に蚊帳釣り金具付いている。まだ蚊帳釣って寝ているのか?。就職した年は蚊帳釣って寝たが、その後は、蚊取り線香だけでよかった。
上州では、夏の夜中に消毒車が廻って来て薬を散布しているから蚊帳を釣る必要がなくなっていた。山を一つ越えただけの違いが蚊帳という形になって現れている。雪国の越後は、蚊より雪の方が先だ。消雪パイプの方に予算が投じられていた。
真面目な高校生は、大学受験で山のお寺に合宿して勉強しているという。論文の書き方のような本がある。お前はこんなことまで勉強しているのか?。ぼくがガチンコで勉強している世界とは別の世界だ。ビール飲みに行こうと言っても誘いに乗ってこない。
そして、真面目な高校生は大学に進学した。ぼくは小学校の時に一緒だったあまり真面目でないが大学に進学したKN君を訪ねて上京した。KN君と駅で出会ったら、真面目な高校生だった友人の所へ行こう言う。
連れて行ってもらった部屋には誰もいない。大学へ行っているからだ。KN君は大学の講義さぼって、ぼくに付き合ってくれた。KN君が勝手にドアを開けて部屋の中に入った。お互いに同じ中学校で学んだ仲だからどっちが先にドアのノブに手を掛けるかの違いだ。部屋を知っているKN君の手の方が速かっただけだ。
部屋は四畳半。二段ベットのような作りがある。KN君があいつらは、この部屋で男二人で暮らしているという。コタツらしきものがあるから、そこに座りながら帰りを待つ。途中で小便しに行ったりして家の中の様子を見た。
かって就職列車に乗って集団就職で上京した金のタマゴ達が住んでいた鉄工所の従業員寮だった。炊事、トイレは共同。トイレは一応水洗になっていた。古い木造作り。鉄工所の音が聞こえる。男と女が同居していれば、神田川の歌の世界だが、そばに本物の神田川が流れていても、男二人では歌の世界にはならい。
やがて一人帰って来た。真面目な高校生だった友人とは別の友人だ。かって同じ中学校で勉強してきた仲だ。中に人がいるのを見て驚いたが、おおよく来たな。あいつもその内に帰ってくるから。お前ら、白湯を飲んでいるのか?。うん。お茶っ葉探したけど見つからなかった。先に帰って来た友人はお茶を入れてくれた。人の部屋でお茶飲みながらわいわいやり始めた。
やがて、真面目な高校生だった友人が帰ってきた。部屋の中に居る人数が多いからちょっと驚いたが、おお、良く来たな。ちょっと部屋から出て戻って来たら、隣の部屋の大学生が麻雀するというから一緒にやるか?。と誘って来た。おお麻雀するべ。一緒に隣の部屋へ押し掛けて行って、麻雀おっぱじめた。
聞けば50円麻雀だという。ぼくは10円麻雀で麻雀を覚えた。満貫以外の役を狙わない。大胆不敵にこれ通るか?。大体通るが、たまにロンを食らう。見るとしょぼい手だ。この時代の大学生は金がない。お客が来るとカモにするが、自分では絶対に振り込まないように安全パイ以外は出さない。上がることこと諦めて降りることに専念する術を心得ている。
ぼくがロンすると大体満貫。ぼくが振り込んでも向こうは、しょぼい手。ぼくがロンする回数より振り込む回数の方が多い。結果手元に残った点棒は、ぼくの方が少し少ない。隣の大学生に多少の所場代払って部屋に戻った。もう暗くなって来た。夕飯食べないと行けない。酒飲むべ。かって同じ中学校で学んだ友人達と一緒につまみを買いに出た。
何を買うのかと見ていたら、ポテトチップを大量に買い込んだ。ぼくは、そのお金を払って一升瓶買ったらそのまま部屋に帰ってどんちゃん騒ぎが始まった。この時代の大学生の酒の肴がポテトチップだったとは知らなかった。コタツの上に大量のポテトチップをばらまいて、ポテトチップを肴に酒を飲み始める。
ポテトチップを肴に酒飲むと腹が膨れるが、あまり美味くない。もっと美味い酒の肴をと思っても、もうどんちゃん騒ぎが始まっているから買いに行けない。
その晩、ぼくは四畳半に泊めてもらって、翌朝早く起きてまだ寝ている友人を尻目に駅まで歩いて行って汽車に乗った。店の開店時間は九時。それまでに間に合うかどうか。
真面目な高校生だった友人に会いに東京まで行ったのはこれが一回だけだった。その後も文通を続けていたのだが、彼が大学を卒業した後、文通が途絶えてしまった。
人づてに大手企業に就職したと聞いたが、今だに音信が途絶えたままになっている。普通の人より四・五年早く経験した大人の世界の顔を真面目な高校生に見せてしまったら、大事な友人一人無くしてしまった。まぁこれも人生か。かなかなかなー。