在来種の菜種に含有されるエルシン酸の多量摂取は心臓障害を引き起こすとされ、
行政助成事業の菜の花畑作りでは、無エルシン酸種子という条件が設定されていると聞きました。
東北農試はキザキノナタネというエルシン酸を含有しない種子を品種改良しました。
日本の在来種が激減しているようです。
日清のHPをみると平成4年ごろより、低コレストロールのキャノーラ油のシェアが延びています。
エルシン酸は含まず、オレイン酸主成分の油です。
一方でエルシン酸は映画化もされた「ロレンツォのオイル」で有名な不飽和脂肪酸です。
これは副腎白質ジストロフィー(ALD)という、極めて珍しい遺伝性の難病があります。この患者は生まれつき体内の脂肪酸を分解する酵素を持っていないため、脳に長鎖脂肪酸(炭素数24~26)が蓄積し、これがミエリン(神経を包む「さや」のような器官)を溶かして神経の機能を失わせてしまうのです。5歳くらいに発病し、徐々に体機能が衰えて2年ほどで悲惨な死に至る非常な難病です。
「ロレンツォのオイル」は炭素数22のエルシン酸と、18のオレイン酸という2種の脂肪酸の1:4混合物です(注1)。これらはそれぞれ菜種油・オリーブ油の主成分であり、ミエリンに対して有害な炭素数24・26の長鎖脂肪酸によく似ていながら体に害を与えません。これを与えることによって「今は十分な長鎖脂肪酸がある」と酵素を「だまし」、それ以上有害な脂肪酸を合成させなくするというのが「ロレンツォのオイル」の原理です。
1984年、ワシントンに住むロレンツォ・オドーネ君という少年がこのALDを発症します。治療のすべを持たない医学に絶望した彼の両親は、生化学に何の知識もない銀行員の身でありながら必死に医学論文を読んで勉強し、試行錯誤の末についにこの病気の特効薬を発見してしまうのです。この薬は少年の名にちなんで「ロレンツォのオイル」と名付けられ、92年には同名の映画も公開されて大きな反響を呼びました。息子の治療に全てを捧げる両親の情熱は素晴らしく、薬作りに携わる者なら(もちろんそうでない人にも)必見の名作です。
エルシン酸の害についてどのように判断すべきなのでしょう?
多量摂取とはどの位の量なのでしょう?
品種改良は遺伝子組み替えという危険性はないのでしょうか?
油の酸化の速度とその害はどうなのでしょう?
ボランティアによる菜の花畑づくりでは、農家のような作物管理はできません。
菜の花はすぐ交配してしまいます。
搾油後、菜種油の組成をチェックした方がいいのかもしれません。
その迅速測定法が開発されています。
脂肪酸(R-COOH)には、
・アルキル基(R)のすべての炭素が水素で飽和されている飽和脂肪酸
・アルキル基(R)のすべての炭素が水素で飽和されておらず、不飽和結合 C=C結合(二重結合)をもっている不飽和脂肪酸 とがあります。
エルシン酸(erucic acid)はナタネ油、カラシ油に含まれるcis-13-モノ不飽和脂肪酸(Unsaturated fatty acid)です。
分子式はC22H42O2、二重結合の数は1です。
※C21H41CO2H、IUPAC組織名Z-docos-13-enoic acid。
分子量338.58、融点33-35 ℃。
CAS登録番号112-86-7。