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マイナーな話題を扱うことが多いかもしれません。

(米国大統領の)選挙対策としては、捕鯨より戦争ネタの方が有効な気がするけど

2011-12-23 21:25:17 | 捕鯨騒動
昨日の更新で、多々見苦しい点があったことをお詫びします・・・。


1970年代になって、商業捕鯨を中止することを日本政府に対し米国政府が求めた対応についてこんな説があるのを知った俺。

1972年の IWC(国際捕鯨委員会)総会や国連人間環境会議などで捕鯨モラトリアムを打ち出したのは、ベトナム戦争における枯れ葉作戦の隠ぺい工作だった・・・。


そもそも、なんでこの説が日本国内で広まったのか?
原因は色々あるけど、それに関与した人物としては「ミスター捕鯨」こと梅崎 義人(Yoshito UMEZAKI)氏が有名らしい。
この説について、梅崎氏は 自身の著書『クジラと陰謀』(ABC出版、1986年)で(おそらく書籍レベルで)初披露。
以降、いろんな場面で問題の説を繰り返し喧伝し、今ではこれが日本国内での「既成事実」となった模様。
実際、森下 丈二氏などもこの説を喧伝(+強化)する始末だし・・・。

この説の問題点については、真田 康弘(Yasuhiro SANADA)氏(現 法政大学サステイナビリティ研究教育機構リサーチ・アドミニストレータ(長い))が『捕鯨論争』(新評論、2011年)第2章で詳しく指摘している。
ちなみに、真田氏は 2006年に公表した論文(International Whaling Commission, Management of Marine Mammals , and the Transformation of U.S. Whaling Policy)の脚注で件の説を「扱えなかった課題」として指摘してるのだが・・・。
・米国捕鯨政策の転換 -- 国際捕鯨委員会での規制状況及び米国内における鯨類等保護政策の展開を絡めて(2006年10月24日? research.kobe-u.ac.jp;.pdfファイル)

以下、research.kobe.ac.jp『米国捕鯨政策の転換』から脚注 67 を(略

---- 以下引用 ----
(中略)
なおここで、本文では触れなかった問題に関して記しておきたい。
日本のとりわけ水産関係者の間ではストックホルム会議でのクジラ問題の提起がベトナム戦争を会議のアジェンダとして討議させないためのカムフラージュだった、あるいは大統領選挙を控えベトナム戦争で窮地に立たされていたニクソン大統領が窮地を脱するために捕鯨問題を持ち出した、という推論が存在している。
この説を一般に流布したのは、梅崎 義人氏の著作である(梅崎 義人『クジラと陰謀』ABC出版、1986年;梅崎 義人『動物保護運動の虚像』成山堂、2000年)。
但し、梅崎氏自ら国立公文書館所蔵の米国国務関関連文書のチェックをされているが、この説を裏付ける資料は紹介されていない(梅崎 義人「米 強引に多数派工作:『捕鯨』報道を時系列的に分析する(1)」『新聞通信調査会報』第494号(2003年)、4-6頁)。
信夫 隆司・日大教授も同様に資料を調査した結果、米国のポジションは「捕鯨問題は科学を無視し、他の問題では科学に依存するといった矛盾した対応」であると位置つけた一方、「ベトナム戦争への批判を回避するために米国が捕鯨問題を持ち出したわけではない」と結論付けている(信夫「米国反捕鯨政策の原点」前掲注3、203-204ページ)。
米国の行政文書の全てが公開されているわけではなく、非存在の証明は極めて困難であることから、唯一現段階で言い得ることは、米国政府が人間環境会議で捕鯨モラトリアム提案を主唱した一義的理由がベトナム隠しであるという説は、本小論でも紹介した議会や行政府部内の動きから鑑みて誤りであるという点である。
無論、ベトナム戦争カムフラージュ論が「定説となっている」(森下 丈二『何故クジラは座礁するのか』河出書房新社、2002年、159-165頁)を支持することは全く不可能である。
ともあれ、なぜこのような言説が日本国内で膾炙するに至ったかという点は極めて興味深い問題であり、検討を必要とする課題であろう。
(以下略)
---- 引用以上 ----

なんだろうな。
1972年当時、ベトナム戦争で枯葉剤とかを使っていた米国への非難が強かったってのが件の言説に信憑性を与えた一因なのかも。
後は、件の説の真偽に関する検証が早い段階でまともに行われなかったのもあるかと。
まぁ、当の梅崎氏ですら真偽を確かめるのが難しい以上、止むを得ないことなんだろうが・・・。


ちなみに、件の説には、 リチャード・ニクソン(Richard NIXON)米国大統領(当時)が大統領再選を目指すために IWC などで商業捕鯨禁止を打ち出した、なんてオマケもあるってのがなんとも。
↓はその説を記してる blog の一例。
・鯨保護はベトナム戦争のオレンジ作戦隠蔽工作(2008年4月21日 逝きし世の面影)

それを補強する根拠ってのが、対立候補である米国民主党所属 ジョージ・マクガバン(George McGOVERN)氏(ベトナムからの米軍撤退実現などを訴えていた)に追われていた NIXON 大統領が票集めのために云々、ってことだが・・・。
参考までに、2008年4月21日分 逝きし世の面影『鯨保護は~』から捕鯨モラトリアムに関する米国政府の行動について触れてる部分を(略

---- 以下引用 ----
(中略)
1972年6月ストックホルムで開かれた第一回国連人間環境会議で、主催国スウェーデンのパルメ首相は、『枯葉作戦』問題を環境会議で取り上げると予告していた。
ところが会議が開催されると、アメリカは買収と脅しで反対工作をやり、ベトナム戦争の枯葉作戦問題ではなく、突然の鯨保護問題が議題とされる
この時決定されたのがモラトリアムで、商業捕鯨が出来なくなったのである。
それをやったのがニクソンの懐刀で当時大統領補佐官だったヘンリー・キッシンジャーだった。 
ニクソン大統領はこの年の11月に再選挙を控えており、ライバルの民主党ジョージ・マクガバン上院議員はベトナム戦争反対を訴えていた。

(中略)
このストックホルム国連人間環境会議で、のちに環境保護運動の象徴となる捕鯨のモラトリアム提案が、何の根回しもないままに電撃的に可決される。
商業捕鯨は、ベトナム戦争で評判を落としたアメリカのニクソンの選挙運動のために、当時のアメリカ人にとって利用価値(実害)のないために、禁止されたのである。
この国連人間環境会議直後の11月の大統領選挙で、ベトナム戦争反対、米軍の即時撤退、軍事支出の削減を訴えていた民主党候補のジョージ・マクガバン上院議員は、共和党現職大統領で「稀代の策士」ニクソンに対して歴史的大敗を喫する。
(以下略)
---- 引用以上 ----

選挙運動のために捕鯨モラトリアムを打ち出した、か。
でも、Robert MANN 氏の著書『A Grand Delusion:America's Descent Into Vietnam』(New York: Basic Books、2001年)によると、選挙運動の面で大きなインパクトを与えたのは、ベトナムにいた米軍の大半を1971年~1972年の冒頭に撤退させたことっぺぇ。
結果として、NIXON 大統領(当時)は McGOVERN 氏の面目を潰すことに成功したとか何とか。
正直、こっちの方が捕鯨モラトリアムより選挙運動としては効果的じゃね?

なお、McGOVERN 氏にとって誤算だったのは、一旦副大統領候補に選んだ トーマス・イーグルトン(Thomas F. EAGLETON)氏が鬱症状治療のために電気ショック療法を受けてたことで(メディアからの)攻撃対象になる →EAGLETON 氏は候補の座を降りる→サージェント・シュライバー(Sergent SHRIVER)氏を代役にする、なんて騒動があったことを記しておく。
この辺は EAGLETON 氏の追悼記事も参照(手抜き)
・T・イーグルトン氏死去 元米上院議員(2007年3月6日 47news.jp)
・Thomas F. Eagleton, 77, a Running Mate for 18 Days, Dies(2007年3月5日 nytimes.com)

ともかく、「捕鯨モラトリアムは NIXON 大統領が選挙対策として~」ってオマケは信用性に欠けるってこと。
それでも、この説や元の説を信じる人は信じるんだろうが・・・。


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2 コメント

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陰謀論 (赤いハンカチ)
2011-12-23 22:17:20
この「ベトナム戦争批判回避」説は米澤邦夫(ミスター天下り)が考え出したようです。
梅崎義人が『動物保護運動の虚像』の中でそう述べています。(頁64~65)



|「~環境会議の議題として提出してきたのは、ベトナムからクジラに焦点を移す作戦だったと見てよい」
|こう語るのは日本代表団の一員として七二年のストックホルム会議に出席した米澤邦夫である。


実は【捕鯨問題に関する国内世論の喚起】(□実施企業 日本捕鯨協会 □PR会社 国際ピーアール(株))では
“ベトナム戦争批判”が“核廃棄物の海洋投棄批判”ってことになっています。



|捕鯨問題が表面化したのは、ストックホルムの国連人間環境会議であった。
|米国が捕鯨問題を持ち出したのは、核廃棄物の海洋投棄問題から目をそらすためだった
http://d.hatena.ne.jp/Noro153+EN/20111108/1320713102

なおこの【捕鯨問題に関する国内世論の喚起】を書いたのは梅崎義人です、
本人が「民意偽装 最終回 鯨と世論(斎藤貴男)」(『世界』2010年12月号)でそう述べています。
http://www.iwanami.co.jp/sekai/2010/12/directory.html



↓(梅崎義人)ええ、あの報告書(捕鯨問題に関する国内世論の喚起)を書いたのは私です。捕鯨業界から仕事を取ってきたのも私。
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赤いハンカチ さんへ (flagburner)
2011-12-25 21:26:20
コメント&情報ありがとうございます(レス遅れ申し訳)。

>この「ベトナム戦争批判回避」説は米澤邦夫(ミスター天下り)が考え出したようです。
う~む。
すると、梅崎氏は米澤氏が打ち出した説に「根拠」を与えるための作業(情報の取捨選択など)を行う役割を担っていた、とも言えますね。
まぁ、米澤氏が梅崎氏に対して直接それを依頼したわけじゃないんでしょうが・・・。

>【捕鯨問題に関する国内世論の喚起】
国際PR社の自画自賛・・・では済まされないブツですね、それ。
日本国内で捕鯨問題に関する世論の喚起(捕鯨続行という意味で)に成功した理由を検証する上では、何気に重要かもしれませんし(その過程で自称「知識人」が果たした役割含め)。

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