一客のコーヒーカップ


独立してインテリアのデザイン事務所をはじめたのは、ん十年前の春。
週1ペースで大阪出張が多かったその頃、帰りによく京都に寄りました。
清水寺の、三年坂にあるお土産屋さんの一番奥の一角に
回りの陶磁器とは一味も二味も違う、作家さんの作品があり
一目見た瞬間、私は“恋に落ちて”しまいました。




深見ちえさんと云い、ご夫婦で窯を持つ清水焼の前衛作家さんです。
ご主人はシャープでモダンな切れ味の良い作品にくらべ
ちえさんは、曲線を使い、やさしく包み込むような作品で
妻折りの小皿とコーヒーカップが展示されていました。
そのコーヒーカップを一目見た瞬間、
今まで経験した事の無いドキドキした気持ちになりました。

それまでの私は、しらけ鳥とよく云われ、何を見ても
感動が薄く、女性以外ドキドキした事なんて無かったのです。
そんな私が、清水焼の青白磁に恋をしたのです。
その当時、1客1万5千円のコーヒーカップを衝動買い出来るほど
裕福では無かったのでその日はそのまま帰りました。
しかしです、しかしその夜“夢”を見たのです。

次の大阪出張帰り、勿論京都で下車しました・・・。。。

そのちえさんの作品で、コーヒーを飲む時感じた事が、
私のデザイナーとしての生きかたを明確にしてくれました。
お茶を飲むように、コーヒーを飲むのです。
つまり、他のコーヒーカップと同じ様につまむところがあるにも関わらず、手にとった瞬間
器の下に左手を添え、右手で包み込むようにして、コーヒーと器を嗜んだのです。
欧米的なものを、日本の“こころ”で表現するという、
シンプルではありますが、初めて“モノ”の内側にある、作り手の気持ちを感じました。
“大切なものは、自分の手の中に包み込んで表現する”と云うメッセージと、
持てる力を8分で表現し、後の2分は作り手と使う人がこころで感じ合う、
侘び寂の世界のような、『日本の美』をです。
最初は、美しさに一目惚れし、使ってこころにふれた訳です。




この作り手のメッセージを感じた事が、デザイナーとして
自分の自信につながり、独立に不安を抱いていた私に、
決断をあたえたのは間違いありませんでした。
そして、自分も“モノに想いをこめて”メッセージを発信し続けていこうと
その年の春、自信をもって独立したのであります。

昨年久々に京都に行く機会があり、三年坂にあるそのお店に寄って
ちえさんの作品がないか聞いたところ、
残念な事に、現在作家活動はされていないとの事でしたが
ご主人の、深見陶治(ふかみ すえはる)さんは以前のような
男っぽい堅さがなくなりましたが、繊細でやさしい作品作りをされていました。

春の気配と共に、ちえさんの作品をもう一度見たいと想っています。。。

※最近青山にあるALESSIのお店で、これに良く似たコーヒーカップを見ました。
 多分、外国人のデザインだと想いますが、でもそれは似て非なるもので
 手にとった感触はまったく違うものでした。



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