倉俣史朗


少し前の日経アーキテクチュア11-13号、巨匠の残像に
一般の方にはなじみがないと思いますが、今は亡き日本が誇る
インテリアデザイナー倉俣史朗さんの記事が出ていたので、
初めて会った(面識は無いので正確には、見ただけ)時の事を思い出しました。




インテリアデザイナー内田繁さんがデザインした
六本木のBAR(名前は忘れました)で飲んでいたら、三人連れが座りました。
ビッグテーブルの隣り合わせだったので話がよく聞こえ、
『イスラエルの仕事を頼まれているけど、
最近行き詰ってどうしたら良いかわからなくなってきてねぇ』
顔を見ると雑誌でしか知らない倉俣史朗さんでした。

インテリアデザイナーの仕事を始めて5年、私はデザインする事に
悩んでいました。でも、こんな偉大な人でも私と同じ様に悩んだりするのか
と思うとすご~く気が楽になった事を思い出したのです。

商業施設のデザイナーの作品は建築などと違い、
長くて10年、短ければ3年位でリニューアル、
又は商売にならなければ半年でなくなる場合もあります。
倉俣さんの作品も現存するものは数店舗。
といっても淋しい事ですが、家具を除いて倉俣さんらしいのは皆無です。

一般の人に知られているのは、家具だとMOMAの収蔵品にもなった
代表作「ミス・ブランチ」や映画「スニーカーズ」に登場する、
エキスパンドメタルで製作した「ハウハイザムーン」の椅子です。
店舗だと昔のイッセーミヤケなどですが
特に西武B館1Fにあった黒に塗装したエキスパンドメタルで店全体を作った
イッセーミヤケの店は谷崎潤一郎の“陰翳礼讃 ”を思わせ、
それはそれは美しかったです。

そんな歴史に残るようなインテリアデザイナーなのに
倉俣さんの明確な著作は無く、作品が掲載された雑誌も
全てインタビューして編集したものなので、
何を表現したかったのかほんとのところは分かりません。
只、浮遊感とかトーメイアクリルを多用したので、
モノの存在感を消す事で自由に対する願望を
表現したかったのではといわれています。

私は初期の「ミルクボーイ」から晩年最後の作品「ラピュタ」
迄で実際店を見て感じた事があります。

トーメイガラスやアクリルを使うのは、モノの形を消す事で、
主役はデザインされたモノそのものではなく、
あくまでそれを使う人である事を表現したかったのではと思ったり、
建築部材の安価なエキスパンドメタルや壁面の下地材に
使用するOSBを仕上材に使うのも、
普段目にする表層の内側に隠れているモノも
大切である事を伝えたかったのではとかです。

そして、ポストモダンの旗手イタリアのデザイナー、エットーレ・ソットサスに
誘われデザイン運動であるメンフィスに参加した後、
強化ガラスを両側にはさみ、3層の中間に入れたガラスにひびを入れた
“クラックガラス”は、割れた瞬間を表現して
はかない命の美しさを感じさせてくれました。

又「ミスブランチ」ではバラの花をトーメイアクリルの中に埋め込んだのは
形よりそのモノの内側に潜んでいる”こころ”を
表現したかったのではないかと思っています。

同時期フランスのデザイナー、フィリップ・スタルク
(アサヒビールスーパードライのホールの屋上に火の玉がのっかっている
建物をデザインしたので、一般の人にもなじみが深いと思います)
がNYのホテル”ロイヤルトン”で壁面に穴をあけ、
そこにバラの花を挿して表層を華やかに装飾したのとは対象的に
何かを足していくのではなくバラの花をトーメイアクリルの中に内包する事で
日本人独特とでもいうべき”引き算”の表現を実現しました。

つまり人のこころと云うか、“精神”をデザイン
モダンデザインのもつミニマムで冷めたいイメージを
禅のこころでもあり、茶のこころでもある“あたたかな静けさ”を感じさせ
こころに響くデザインを具現化させてくれたのです。

理屈を超えたところに到達した感がある倉俣史朗さんの事を
私ごとき凡人が解説するのはおこがましいし、そんな単純な事でないと
お叱りをうけるかも知れませんが、そんな風に感じていました。

又、気が付く人はほとんどいませんが、恥ずかしながら私のBLOGの
右上にある卵から薔薇の花の代わりに♡がヒラヒラ舞っているのは
「ミスブランチ」に対する私からのオマージュでもありました。。。

ミスブランチの収蔵美術館は、
ニューヨーク近代美術館(MoMA)、パリ装飾美術館、
ヴィトラデザインミュージアム(ドイツ)、サンフランシスコ近代美術館などですが
興味があるお方は是非、美しすぎて儚くもある
“あたたかな静けさ”を一度感じてください。
日本ではミスブランチの肘掛の曲線が違うプロトタイプが
事務機のメーカー「コクヨ」の本社に置いてあるそうです。
ちなみに、「ハウハイザムーン」はhhstyle.comで販売してますが
値段は約88万円だそうです。ちょっと手がでませんねぇ。。。

下の写真はミスブランチと私が持ってる倉俣史朗さんのスケッチ集
「スターピース」です。この他にクリスマスプレゼントで友人M氏から
絶版になった自筆のサイン入り初期の作品集を貰う事になっています。






コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )