っていうか働け

~誰からも愛されるエルニーニョ~

ファビョる(1)

2006-10-06 00:04:07 | Weblog
 その朝はいつもの電車に乗った。支線から本線にはいってきた電車は、本線からきてその後支線に入る電車を待っている。併走する地下鉄が完成し、客のほとんどを奪われた支線から来ているので、通勤時間帯とは思えないほど車内は空いている。私は余裕を持って座席に座ることができた。
 本線からの電車が向かいのホームに到着した。こちらは満員だ。この駅を出た後支線に入るので、本線に残る客は向かいの電車、私が乗っている電車に移動しなければならない。乗り換え時間は非常に短く、駅を降りて地下鉄に向かう乗客もおり、ホームは一瞬の混乱の中、向かいの電車に大勢の客が乗り込んでくる。
 私のとなりにひとつだけ空いていた席には、小学校低学年くらいの子供が座った。目の前には両親が立っている。20代後半くらいだろうか。子供はしきりに両親に話しかけるが、両親はあまり話そうとしない。飽きてしまったのかそのうち子供は後ろを向き、足をバタバタとさせ始めた。私は困惑の表情を露骨に母親に向けて見せたが、母親はその意味を解しようとはしなかった。子供はその後もあらゆる体位で座席上の自由を謳歌していた。
 終着駅まで5駅・10分。耐えられない時間ではないはず。そう思った私は、何度も降りかかってくる欲望、このまま席を立って他の場所にいけばいいという欲望をおさえ、ただ座りたい、できれば座っていつものようにウトウトしたい、それが私の朝の過ごし方であるから、そう易々と大切な時間を奪われたくはない、この変わりなき日常への憧憬により座り続けることとした。
 あと2駅、ポケモン(?)のカードで遊んでいる。遊ぶのは構わないが手が私の体に何度も触れている。両親へのアピールなのか、座席の上で全身をぴょんぴょんさせている。
 あと1駅、状況はなお理解不能。子供は私の方を向いている。私の肩に手が乗っている。後ろを向くための準備か、それならば早く後ろに向いてくれ。だが一向に体制は変わらない。私の感情を抑えていた朝のだるさが消えていき、禁煙の苛立ちが脳に達するその熱の移動を私は感じた。「ちゃんと前を向け!」そう声を出しながら、私の方を向いた子供の右肩を私の左手で抑え、通常座るべき体勢での右肩の位置に押さえつけた。
 そのとき、私の頭の後ろで、何か衝撃が起こった。