通称「援デリ」“出会い系”売春店を摘発「サクラなしで本番」 2億円を荒稼ぎ
2012年12月24日(月)20:02
産経新聞
それは、出会い系サイトとは名ばかりの売春クラブだった。東京・新宿歌舞伎町のマンションを拠点に売春を斡旋(あっせん)していたとして、11~12月、実質的経営者の男ら8人が警視庁に売春防止法違反(周旋)容疑で逮捕された。グループは女性になりすましたサクラの男が言葉巧みに男性をメールで勧誘し、本物の女性を派遣する手口で、約2年間で2億円超を売り上げていた。なかなか実態がつかめずにいた援助交際デリバリー、通称「援デリ」の正体とは…。(荒船清太)
■「別2ゴムあり」…暗号文は売春の誘い
10月のある日の午後、出会い系サイトにアクセスした30代の男性が見つけたのは、「独身女性」の寂しい独り言だった。
「新宿で会える人いませんか」
早速、メールを送ると、数分後に返信があった。「今、何やってるの?」。メールが数回往復するころには、男性がひそかに期待していた返信が届いた。
「別2ゴムありでどう?」
一見すると暗号のようだが、分かる人には分かる。「別2」は「ホテル代とは別に2万円」、「ゴムあり」は「避妊具付き」の意味。売春の誘いだ。その後間もなく、男性は新宿区内の待ち合わせ場所にやってきた女とわいせつな行為をし、2万円を支払った。
警視庁保安課によると、男性に誘いのメールを送っていたのは、歌舞伎町のマンションの一室にいた「打ち子担当」の従業員の男数人のうちの一人だった。
従業員は7つの出会い系サイトを使い分けながら女性名義で登録し、男性客の誘いが来ると女性を装って売春に誘っていた。
女性が受け取った2万円のうち1万円は売春した女性、8千円は店に入り、残る2千円は“出会い”を成功させた「打ち子」の懐に入る仕組みだった。
■「手口はデリヘル」…1人5役で「営業活動」
こうした出会い系サイトで素人を装う売春派遣業は、風俗業界では援助交際デリバリー、通称「援デリ」と呼ばれている。過去にも摘発例はあるが、届け出がなく、出会い系サイトに匿名で登録しているため、なかなか実態がつかめなかった。
警視庁保安課は11月、歌舞伎町で援デリを2店舗経営していたとして、店長と従業員の男計7人を売春防止法違反容疑で逮捕。さらに12月、実質的経営者のイベント会社「エンパワー・ピープル」社長、腰高康生容疑者(26)を逮捕したことで、その全貌が明らかになりつつある。
捜査関係者によると、腰高容疑者らは歌舞伎町のマンションを2部屋借り、従業員の男5人がそれぞれ携帯電話5台を駆使して出会い系サイトで「営業活動」。各部屋には常時、女性2人を待機させ、男性客との「契約」がまとまれば現場に派遣して性行為をさせていた。
捜査関係者は「手口はデリバリーヘルスと全く同じ。売春婦派遣業そのものだ」と指摘。男性客の一人は「サクラなしで本番ができる出会い系とウワサを聞いて利用した」と話しているといい、同課は客も相手が「プロ」だと認識していたとみている。
■憧れは織田信長…「女はカネ、男はセックス」
腰高容疑者は憧れている戦国武将、織田信長にあやかって「オダマナト」を名乗り、グループにノウハウを伝授。昨年1月に始めた最初の店舗で月1000万円を売り上げると、今年7月には2店舗目を設け、さらに月600万円の売り上げを手にしていた。
売り上げは約2年間で約2億1000万円。腰高容疑者は容疑を認め、「女はカネを稼げるし、男はセックスができる。被害者がいないからもうかると思った」と供述している。
援デリが魅力的に映ったのは、客だけではない。派遣されていた20~30代の女にとっても「割のいい仕事」だった。グループは当初、ソープランドなどで女を勧誘していたが、売り上げが上がるにつれ、口コミだけで女が集まるようになっていったという。
「サービスも尽くさなくていいし、客とのかかわり合いもなくて楽」。9月に体調を崩してソープランドを辞めたという女性(22)は捜査員にそう話したという。この女性は約2カ月の間に男性客160人を相手にして160万円を手にしていた。
■「名を知らしめたい」…逮捕時の貯金は200万円
女性の大半は、ソープランドやデリバリーヘルスなど性風俗店の元プロだった。捜査関係者は「ソープランドは時間制であることから時間いっぱい、サービスを尽くさないといけない。援デリでは20分間でさっさと終わらせる玄人もいたようだ」と話す。
性風俗店の元プロたちを従えて、腰高容疑者は次の目標に向けて着々と準備を進めていたようだ。
腰高容疑者がイベント会社を立ち上げたのは援デリの2店舗目を開いたのと同じ今年7月。資本金300万円には援デリでためた資金を充てたとみられる。だが、イベントを手がけることなく逮捕され、腰高容疑者の運も尽きた。逮捕時の貯金は200万円ほどしか残っていなかった。
「事業を興す資金をためたくてやった。『腰高』という名前を世に知らしめたかった」と供述しているという腰高容疑者。メディアに踊る自分の名前を見て、その胸にどんな思いが去来するのか。