徒然日誌(旧:1日1コラ)

1日1枚画像を作成して投稿するつもりのブログ、改め、一日一つの雑学を報告するつもりのブログ。

至の月、階段と迷路の街にて 21

2019-11-30 22:37:17 | 小説










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人に望みの喜びあらば囁こう
月に隠れた木立の影から
燭火(しょっか)に隠れた部屋の隅から
心の奥の奥、裏の裏の裏の影
誘い込むのよ、そうここへ
飢えた欲こそ燃え上がらせよう
誰かではなく自分の為に
時来るまで、心ゆくまで
踊るといいわ、そうここで

祈りも途絶える真夜の樹下
冥(くら)い瞳の幽かな私
寄る辺無き者たちが惹かれ合う
立てば見渡す千里の彼方
座れば沈む甘い虚ろの夢の底
歩く姿は真っ赤な毒の花
口吸うように魅入られて
呼ばずとも小さな光は集い行く




 『お前の望みはなぁに?』
 これは耳からじゃない。頭の中に直接響く感じの甘い声だ。どれだけ頭を振っても消えてはくれない。
 『何を探しているのぉ?』
 こいつらの声は、僕にしか聞こえてないみたいだ。
 『手伝ってあげよぉか?』
 僕の右にも左にも、上にも下にも、どこにも悪魔はいない。何度も何度も確認した。遠くで腹が立つほど優雅に憩んでいるだけだ。
 『ほぉら、言ってみて』
 なのに、すぐ傍から剥き出しの心に触られる不快さと、奇妙に痺れる心地良さがある。
 『ねぇってば』
 危険だ。まずい。駄目だ。
 『我慢なんかしないでよ』
 聞いてはいけない。考えてはいけない。
 『どぉしたの?』
 蒼い月夜の彼女だけを探せ。
 『何か知りたいんだろぉ?』
 銀の髪、翡翠の瞳、風と遊んでいた青いドレス。
 『大変なんでしょぉ?』
 露よりも柔らかく、涙よりも澄んで、山中の泉よりも清らかだった声。
 『ほぉらぁ、照れないで』
 そうだ。この世の何よりも美しい。


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至の月、階段と迷路の街にて 20

2019-11-29 18:20:34 | 小説










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お山のたき火で踊るわ踊る
ひょっこりぽろぽろ産まれた私
コウモリ羽でバサバサ飛ぶよ
真ん丸お目めに尖ったお耳
やじるしっぽがキュートでしょ
さあさ、飲めや笑えや百年に一度の大祭

浮かれた風に呼ばれたの
そしたら野原に眠る双子がいたよ
あれあれまあまあ
どうしましょ
親切ないたずら心が疼いちゃう
離れぬように、解けぬように
二人の髪をひとつに編んじゃった

うだる真夏の夜に恋の罠
貴方の心を乱すのは何?
昼に照る太陽の熱?
月夜にこもる花の香?
それとも……
ベットで鳴く蝶の歌?
夢は果たして夢なのか
真はどこまで真なの
覚めれば現の憂きばかり


 ぐいっと強く髪を引っ張られた。さらにはべしべしと両手両足を使って頭を叩かれる。正気だとアダムの背を叩き返してやれば、大人しくなった。
 突き破って体の外へ飛び出してくるんじゃないかというぐらい大きく跳ねる心臓を抱えたまま、こっそりと移動する僕らの周りを、色んな姿形の悪魔が通り過ぎていった。
 建物の角からぬうっと出てきたやつは、僕たちの顔を順に眺めてニィと笑った。口は耳まで裂けていた。
 鷲の翼と獅子の頭を持つ人型のモノ。
 炎を吐く巨大な黒豹が、僕らの髪の動きまで見逃さぬとばかりにしつこく睨めつけてきた。
 谷底で嫣然と微笑む一糸まとわぬ緑の髪の美女。
 卵が腐ったときの匂いを纏わせた醜い一角の怪物。
 僕たちのすぐ頭上を何度も行き来する、羽に骨の模様を刻んだ巨大な虫。ブゥーンブゥーンという羽の音で全身にぞわぞわと鳥肌が立つ。
 燃える剣を握った巨大な鳥。
 三又矛を持って嗤う頭上のたくさんの小さなナニカとは、全力で目をあわせなかった。
 違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う
 僕が会いたいのはお前たちじゃないっっ‼‼‼‼‼‼


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至の月、階段と迷路の街にて 19

2019-11-28 20:06:14 | 小説








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 形も大きさも違ういくつものブロックに分かれて宙に浮く、階段と迷路の街の変わり果てた姿が待っていた。
 「⁉」
 反射的にのどを震わせた音は、口の中の布に吸い込まれて外に漏れることはなかった。呆然と街を見上げていると、ペロンと目の前に紙が垂れてきた。
 『どれぞの悪魔の仕業だろう。こうして街を浮かせて、谷底の泉への道を開いていたのだ。層ごと持ち上げるのではなく、バラして浮き島のようにするあたり、連中の美意識が窺えるわ』
 僕のポケットに入っていればいいのに、アダムは僕の頭の上で寝そべって、動こうとはしなかった。
 とにかく行くしかないと、目の前に浮いている階段を掴んで、懸垂の要領で体を持ち上げた。エクレアさんに手を貸しながら、ずいぶん見通しのよくなった谷を見下ろした。気のせいか星々の光も遠く、夜の世界はいつもの何倍も黒いように思えた。

    さあさ、寄れや歌えや祭の宴

 そのとき、オス・モルガーンに楽しそうな歌声が響き渡った。耳栓をしているのに、はっきりとその声は聞こえた。



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至の月、階段と迷路の街にて 18

2019-11-27 20:18:45 | 小説







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 「もちろん」
 僕の足の上でアダムが飛び跳ねていて地味に痛いけど、この決意を撤回するつもりはなかった。
 「……分かりました。では、私もご一緒します。私は、司祭様からこの『銃』を与えられ、手ほどきも受けています。これは司祭様の悪魔の知恵で創られたもので、私でも魔法が使えるようになっています。あなたがお持ちでない、悪魔に対抗できる武器です」
 僕が変わった形の棒だと思っていたものが、『銃』という武器らしい。使い方は想像つかないけど。
 「ずっと思っていました。この人は本当は、どんな世界の方なんだろうと。だから私もエクリプスの夜に参加して、知りたいと思います」
 「……ありがとう、心強いよ」
 僕はそう返した。緊張で固く強張った顔では、残念ながらうまく微笑めなかったけど。
 身支度を整えたところで、ふと僕は思い出した。悪魔がこの世界にやってくるならどこにいても危険だろうに、なぜ僕は今まで知らなかったのか。
 「ふん。悪魔どもは開いた世界の扉からこの谷底の聖地へのみ帰ってくるからよ。かつて連中がこの大地を闊歩していた時に身を癒したとされる泉だ」
 なるほど、けどどうやって底まで辿り着くのか? という僕の疑問はすぐに解消された。
 アダムが言って譲らなかったから、耳栓をして口に布を詰めた僕らが重い扉を開けた先に。


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至の月、階段と迷路の街にて 17

2019-11-26 18:59:58 | 小説









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 「クッハッハッ……! なんと愉快な……。本当にこの大地は、可笑しくて飽きない」
 司祭様だった。暗闇に笑いが全て吸い込まれると、司祭様は僕に改めて向き直った。
 「お好きなように、トルヴェール殿。悪魔しか参加できないという決まりはありません。誰も参加したがらないだけですから。……エクレア、あなたも気になっているのでしょう。手伝って差し上げなさい」
 これまで動揺も恐怖もなく、黙って成り行きを見守っていたエクレアさんがハッと息をのんだ。
 「ただし、私は引率しません。そんな親切心はありませんよ」
 獣人の顔を見慣れない僕でも分かった。このとき司祭様は笑っていた。
 とても気持ち悪く、笑っていた。
 そして山羊の悪魔は今度こそ、祭へ出かけていった。
 「……エクレアさん、君はあの人が悪魔だと知っていたのかい?」
 少しの沈黙のあと、僕はいつの間にかかいていた汗を拭ってエクレアさんに尋ねた。
 「はい。拾われてすぐぐらいには、教えていただきました。けど私は、忌み嫌われる悪魔の行為を、司祭様が誰かにしているところを見たことがありません。せいぜい、悪さをする子どもに説教をする時に迫力あるなあと思うぐらいでしょうか」
 彼女は空になったお皿を回収して重ね、今度は逆に僕に問うてきた。曰く、本当に参加するのかと。


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