徒然日誌(旧:1日1コラ)

1日1枚画像を作成して投稿するつもりのブログ、改め、一日一つの雑学を報告するつもりのブログ。

理の月、旧世と懐古の町にて 5

2019-12-14 13:40:36 | 小説









 本文詳細↓



 それは僕が、旅立つきっかけとなった出会いだった。
 10年以上前、故郷の家の裏手にある山で美しい女性から僕は、一つの問いをもらった。
 「君は、この世界の《名前》を知ってる?」
 丸くて大きな蒼い月を背に、おおぶりの木の枝に『彼女』は腰掛けていた。
 どんな辺境の地といえど、自分が住んでいる国の名前を知らない奴はいない。僕は素直にメトロポリスだと答えた。だけど『彼女』は笑って違うと答えた。
 「それは国の前。世界の名前じゃない」
 『彼女』が枝の上に立ち上がると、足首まであるような長い銀糸の髪がふわりと広がった。濃紺色の羽衣のようなドレスが軽やかに宙を舞った。それは千年紡がれた詩のように、幻想的だった。
 「人は営みを繰り返し、国を作り、記憶の塵にそれを埋めてしまった。この鳥籠の、愛おしき箱庭の名を」
 僕は『彼女』から目が離せなかった。

 「人だけが忘れてしまったこの世界の名と生まれを、君は知ることができるかしら?」

 はっと我に返った時、『彼女』はどこにもいなかった。もう一度『彼女』に会いたい、そして叶うならば答えを聞いてみたい。だから僕は今、旅をしている。

コメント
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