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『……』
話し終えてもしばらく、エアリエルたちは口を開こうとはしなかった。緑の光は変わらず辺りを漂っていたから、いなくなったわけではなかったけど。
『……』
どうしたのか尋ねていいものか、迷っている間に沈黙は降り積もり、さらに声は出なくなっていった。
『……《雲を歩き海を呑む放浪者》。貴方はなぜ何も言わないの?』
ようやく発せられた声も、僕に向けられたものではなかった。
「我がこやつと出会ったのは、もっとあとのことであるからな。知らぬものを知るとは言えぬし、分からんものは分からん。あと、我にはアダムという名があるゆえ、二度とその名で呼ぶでない」
それはまるで、野生の獣があげる威嚇の唸り声に似ていた。なぜこれほど警戒心をあらわにするのか、僕には分からない。けど、僕に言わないってことは、聞くなってことだ。アダムの沈黙主義は昔からだから慣れた。
「あの、それで何か『彼女』についてご存知ありませんか?」
彼女たちの意味ありげな会話には気づかないふりを装い、僕の一番知りたいことを繰り返しぶつけた。
光の粒を纏った緑の風は、しばらく辺りを音もなく漂っていた。やがて彼女たちはゆっくりと、厳かに、歌い出した。