徒然日誌(旧:1日1コラ)

1日1枚画像を作成して投稿するつもりのブログ、改め、一日一つの雑学を報告するつもりのブログ。

理の月、旧世と懐古の町にて 6

2019-12-15 13:09:58 | 小説








 本文詳細↓



 『……』
 話し終えてもしばらく、エアリエルたちは口を開こうとはしなかった。緑の光は変わらず辺りを漂っていたから、いなくなったわけではなかったけど。
 『……』
 どうしたのか尋ねていいものか、迷っている間に沈黙は降り積もり、さらに声は出なくなっていった。
 『……《雲を歩き海を呑む放浪者》。貴方はなぜ何も言わないの?』
 ようやく発せられた声も、僕に向けられたものではなかった。
 「我がこやつと出会ったのは、もっとあとのことであるからな。知らぬものを知るとは言えぬし、分からんものは分からん。あと、我にはアダムという名があるゆえ、二度とその名で呼ぶでない」
 それはまるで、野生の獣があげる威嚇の唸り声に似ていた。なぜこれほど警戒心をあらわにするのか、僕には分からない。けど、僕に言わないってことは、聞くなってことだ。アダムの沈黙主義は昔からだから慣れた。
 「あの、それで何か『彼女』についてご存知ありませんか?」
 彼女たちの意味ありげな会話には気づかないふりを装い、僕の一番知りたいことを繰り返しぶつけた。
 光の粒を纏った緑の風は、しばらく辺りを音もなく漂っていた。やがて彼女たちはゆっくりと、厳かに、歌い出した。



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