伊澤屋

歴史・政治経済系同人誌サークル「伊澤屋」の広報ブログ。

ジオン第八連隊記  報告書11 『それまで、国があれば』

2012年02月12日 19時30分00秒 | Weblog
機動戦士ガンダム0079 ジオン第八連隊記 復興(あす)への咆哮


報告書11 『それまで、国があれば』



「んんっ…んっ、はぁ、はぁ、あああっ…あああぁぁ~~ッ!!あっ!凄い。凄いッ!!あああっ、あああぁ~~~!!凄いわ!凄いわッシモムラ和尚、いいっ!あ!ああぁあ~ッ凄い!凄いッ!凄く気持ちいいっ!気持ちいいのぉっ!ああっ!ああッ!!」


「あの身障カップル、お盛んねェ」


「…ったくよォ、腰と背中もんでやってるくらいで気持ち悪い喘ぎ声出すなよ。やるのが嫌になるぜ。ってゆーかそれにしてもオマエ本当変な凝り方してやがるな」
「だってぇ、気持ちいいんだもんさ。ま、『変な凝り方』って両脚があった頃に比べて筋肉の使い方が偏ってるからどうしても…ね。やだ。なんか泣けてきたよ」

「泣いたって新しい脚は生えねーよ。そうだ、チビ助共。俺が来ないときは時々姉ちゃんの背中乗ったり足の裏踏んだりしてやれよ。あと右脚の切断面は間違っても絶対に蹴っ飛ばすんじゃねーぞ」
「了!」

「軍隊用語かよ…こういうネタは本ッ当よく覚えるもんだな」


オオサ・カ都内。被災者用仮設住宅。俺が「かかりつけ」か?自殺を思いとどまらせ面倒でも義足を造ってやったバカ女の為に、製品の義足のアフターサービスと診察っつーのか全身マッサージしてやる面倒な作業工程。近所のおばちゃんに色々噂されたってもう別に気にもならんな。


「ああ、こいつぁクリスマスイブの前日23日にやるお楽しみ会の案内だ。暇なら観に来ればいい」
「ん!お笑いもあるのかぁ。右脚無くなったのも忘れて楽しめそうだわ」

「そんなとこだ。 ん…そうだ。お前の為にジオン軍として公式の通り名を俺から授与してやる。
『かかし女』 でどうだ」
「何だよそれーー!?やだよカッコ悪ぃー」


兵士としては限り無く無能な俺がこんな、脱線した分野だけでも人の役に立ってるのかと考えると例え自己満足でも少しは気が安らぐ。少しは、な。もう部隊に戻らんと。


「和尚さん、あのコとはお熱いのかい?でも何であれウチの近所から自殺者出さずにしてくれたのには感謝するさね。でもさ…あの娘が自殺一歩手前まで追い詰められてたのも一種解るんだよ」
「オバチャンおだてるなよォ。 でも舞妓や芸者ってそもそも前借金に縛られた労奴で最後は性病に罹って使い捨てとかヒサンなんだろ?なら片脚と引き換えでもそうならねー方がまだいいわな」

「えぇ~ッ?情報古いよ。ここじゃ舞妓って医者や弁護士になるよりもっと難関の超エリートよぉ。準公務員って言っていいんじゃない?連邦軍は官官接待も全部官費で気前良かったからねェ」
「! 俺だったらそれだけの将来失って絶望したら自殺してるよ。…何であれ、あの小さな妹と弟だけじゃやれる事には限界がある。もし俺がくたばったり捕虜になったりしたらオバチャン頼むわ」

「あいよ」


人心を掌握したつもりで全然出来ていない。修行が足らんな。俺。



「シモムラ上等兵は、戻りました」
「おぉ、戻ったか。すぐにカ・ンサイ空港に行け。お楽しみ会の出演者達が揃ったから打ち合わせだ。MIN以外に凄い大物が来るから失礼の無いように、な」

「凄い大物が!…って中隊長、私のような問題兵を行かせたら不味いのではないでしょうか」
「大丈夫。『大物』っていっても…ある意味お前の『兄弟』だから。解ると思うが内務班や近所でベラベラ自慢して話すなよ」

「了」



「座席は足りるかー?どうも予想より人出が多いぞ」
「会場側の予備のパイプ椅子出せばどうにか足りるんじゃないですか?」


12月23日1700。開演を1時間前に控えてお楽しみ会の会場の公設演芸場は熱気を帯びていた。
残念ながら俺は客じゃなくて舞台の裏で後方支援部隊だよ。便所よく済ませて手筈を確認して
どこかでしくじったら復旧策は…ああ~頭痛くなるぜ。何でもいいから上手く行け!

1800幕が上がり、開演すると一番手は公国の誇る女性歌手のMIN。
宇宙、地球を問わず 「漫画の主題歌のお姉さん」 と言った方が通りが良いと思う。
ほぼ一曲終える毎繰り返される衣装の早替わりはMSの帰投弾薬補給、再出撃よりも忙しい。


「次!ロ・クメイカ・ン時代ドレスから女将スタイルに換装! はぁぁ~忙しい。まるでタ・カラヅ・カの早替わりみたいね」
「その『早替わり』も元は寺院の仕事の流儀、仏教文化ですぜ。はい!女将スタイル準備完了」

「MIN、出る!」
「いなせで惚れますぜ!赤紙来たらウチの八連隊に配属希望頼みますよッ!」


狂って死ぬほど忙しかった。 MINの衣装早替わり要員が終わってから俺は照明係や空調係ももれなくしてやっと観る側に回れたのは催しもほぼ終盤に差し掛かった頃になった。

堂々最後を締めるのはグラナダ基地駐留の総帥府特殊宣伝部長を務めるミノル・トリハダ中将。
無所属廃人、モッズ系。年齢は42歳厄年で兵科はMS操縦将校及び芸能将校。

通り名は 「グラナダの道化師」。

実は「大物」とはこのトリハダ中将だ。アースノイドで地球のキョ・ウト大学法学部大学院を卒業して地球連邦軍士官学校への入校が決定していたにも関らずその栄達の道を蹴って密航でサイド3ズムシティに渡り苦学の末進んだ公国軍士官学校を首席で卒業。極めて異色の軍人だ。

大学院で後輩だったイオシダ区議が水面下で調整を取って今回の地球での演説会が実現した。
演説会が始まるや否や、その「毒」はこれまで連邦政府が唱える生命や友愛といった弱体化プロパガンダで骨抜きにされてきたヤープト人達を異常なフィールドに嫌でも引き込んだ。


「生活保護を、受けております!」
「自己破産して、選挙権も無い…」
「もっと連邦にマークされたいんです」


こちらの言葉で言えば、正しく 「ドッカンドッカン」 と観客が笑った。観客席が笑いの渦とはこの事だな。正直これほどの笑い声を聞いたのは震災発生以来というか独立戦争開戦以来だった。


「それではッ、質問タ~イム!!自由質問なので、ね。遠慮無く♪」


予想外の好反応を得て、中将もノリにノッているのが肌で判った。


「はい。中将はアースノイドなのに何故連邦軍士官学校を蹴り公国軍士官学校へ進まれたのですか」


会場の空気が凍りついた。トリハダ中将の腰の弾帯にはレーザーガンが吊るされている。
この質問を被占領民の挑戦、反抗と受け取れば今ここで 「この無礼者!!」 とキレて質問の主の青年を射殺してしまう事だってできるのだ。観客全員が脂汗を流し推移を見守った後中将は


「ん!この質問は…良くぞ聞いてくれましたッ!! 御存知の通りそもそも連邦はヤープト人をアースノイドだなんて思っていませんよ。 『お前等ヤープが同じアースノイドだって?笑わせるな!』 で終わりです。 現に私が連邦軍士官学校に受かったからお祝いにト・ビタシ・ンチの『ちょんの間』で●春しようと向かっても…『ポマード臭い。帰ぇんな』ですからね。女までもが露骨に私を見下した態度を取りやがるんですよ。全く!」


俺は、我ながら肝っ玉小さいが…ほっと胸を撫で下ろした。冗談抜きで一触即発の状況だった。それを固い同盟関係を再確認させる最高の材料に変えてくれた中将に深く感謝する他無い。


「どうかお顔をよく見せて下さい。ん、今舞台を降りてそちらに行きますので、ね。」


中将は「ストライクゾーンど真ん中」の質問主と固い握手を交わした後、予定には無かったヤープト旧国歌を熱唱。暫定州と都、区、軍が総力を結集したお楽しみ会は最高の夜となって幕を閉じた。

終演後出演者や作業員、地元民代表が集まってのレセプションでは俺も連隊長もMINもトリハダ中将もイオシダ区議も呑んだ。喰った。騒いだ。 おそらく、場合によっては緩慢な死を前にして一種やけくその高揚感みたいな気持ちがあったんだと思う。その位でないとやってられないもんな。
勿論「不謹慎だ」なんて下らないケチを付ける輩は一人もいなかった。連邦の報道は除いて、だ。



「めく●の女が杖を突く~輪●しようそうしよう~●姦しようそうしよう~~♪
つ●ぼの女の喘ぎ声~~●姦しようそうしよう~輪姦しようそうしよう~~♪」

「連隊長!鼻歌でも何て下品な歌を歌われるんですか!味方の報道ももうかばいませんよ!」
「何だと?地球連邦軍の体育会系の精神の素晴らしさを朗々と歌い上げた名曲だぞ。ニワビト、ササキ、貴様等も一緒に歌わんか!」

「連隊長は…そうやって連邦もジオンも全部敵に回して戦争をやり続けるお考えなんですね」

「獣●ーー!!」


「レイ大佐。本官の地元だから言うんじゃないがヤープトは良い土地だ。マ・クベにも言って早い所完全な独立まで行かなきゃな。ギレン総帥は硬派だからすんなり認めるかどうか微妙だが」
「内政権はもう完全に付与していますよ!あとは外交権も含めた完全な主権の確立です。」

「お話中すみません!本国からトリハダ中将とMINさんに特別緊急のテレックスが来ております」

「ん…地球での任務を終えたら速やかにグラナダに帰還しゲルググへの機種転換課程を履修した上で総帥府特殊宣伝部長から最終防衛線囮部隊長に異動と?レイ大佐。僚機やらないか」
「私は旧ザクと旧ザクイェーガーしか操縦できませんが当該機種が調達できれば喜んで」

「MINさん。公演大成功で本国からお褒めの言葉とかですか。 って悲しそうですね」
「和尚…本当残念だわ。赤紙来ちゃった。ズムシティの首都防空大隊に年明けにも出頭って」

「気を落とさないで。歌手生命終わりって意味じゃないし生きていればまた舞台に立てますよ」


悲喜こもごもだ。 悲しいけどつくづくこれって戦争なんだと感じるよ。


「あれ、かかし女じゃねえか。レセプション招待されてたのか。和服似合うなぁ、お前。ちゃんと雪駄履けるように義足の親指分けておいたのは正解だったな」
「その呼び方縁起でもないから止めてよ。 軍に命を救われた被災患者代表ってことでね」

「ん…義足で歩くのも舞を舞うのも大分慣れただろ。何かの間違いで俺が偉くなったらジオン軍としてマジな仕事で正式に官官接待の御座敷に呼ぶぜ。俺はシンショーでも差別しない方針だ」
「それまで、国があればね」

「国って、ヤープトか?ジオンか?」
「両方」


                                  報告書11 『それまで、国があれば』 完  



次回予告

甘いんだよ。本当甘過ぎるんだよ。手前ェらにそれだけの胆っ玉と人徳でもあるとチョーシこいてやがったかそれとも只の救い難い馬鹿が権限行使して最終判断下したのか。
一旦喧嘩売ってやり始めたら、殺り始めたらどんなに正々堂々戦ったなんて理屈並べても降参したらもうノーサイドなんてフェアプレーの精神なんざ通用するかよ。手離さなくていいカードも全部相手を信用して喜んで手離してその後の結果を見るか?てめぇ死にやがれ。
 

次回 報告書12 『白旗』

駄目な商人が決まって言う泣き言だ。 「そ、それじゃあ話が違う」 ってな。



                                       (C)伊澤屋/伊澤 忍  2671  
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