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そんな三津の背中に入江がそっと手を

2024-06-21 20:37:57 | 日記
そんな三津の背中に入江がそっと手を置いた。


「その土方も松子をしつこく追いかけ回す輩の一人です。それと松子は一度長州との繋がりを疑われて土方に拷問を受けてます。」


「ご……拷問……。」


栄太がごくりと唾を飲み込んだ。竜太郎は信じられないと言う顔で三津を見下ろしていた。そして生きているのだから大した事はないだろうとも思っていた。連帽衛衣


「えぇ,私は妻に二度とそんな怖い目に遭わせたくない。なのでどうか三津の存在は口外しないようにお願いします。」


入江も三津と同じぐらい頭を下げて懇願した。


「河島様!松子さん!どうぞ顔をお上げください!
松子さん,よう耐えはったんですね……。」


栄太の言葉に二人はゆっくり顔を上げた。入江はまっすぐ前を向いたが三津は俯いたままでいた。


「どの程度の拷問やったんですか。」


「こら!竜!」


失礼な言い方に栄太は竜太郎の後頭部を拳骨で殴った。


「酷いものですよ。肋骨を数本折り,顔面は腫れ上がるまで殴られて腕や足も痣だらけ。左腕なんかしばらく上手く動かないぐらいに痛めつけられて。
あちらに送り込んだ間者からの報告にあの木戸さんですら報復を企てたぐらいですから。」


その内容に栄太は顔を引き攣らせ,入江は思い出すだけで腹立たしいと渋い顔をした。


「よ……よくぞご無事で……。」


栄太が生きてて良かった良かったと三津に声を掛ける横で竜太郎は呆然と三津を見ていた。そしてぽろっと言葉をこぼした。


「ホンマによく生きてましたね……。」


「えぇ……でも一度死にかけた時より回復は早かったので……。」


「えっ二度目?一度死に損なった?」


「このど阿呆!!」


竜太郎の失礼な発言にまたも栄太の拳骨が後頭部に放たれた。


『竜太郎さんもちょっとクセのある人やな……。』


三津は苦笑いで死に損ないだからお気になさらずと言っといた。


「竜太郎さんにとっては言い訳に聞こえるかもしれませんが……その一度死に損なった時に私は大切な人を失いました。弥一さんから求婚を受けたのはその後なんです。
その時の私は失った彼の後を追う事ばかり考えていて……他の方と結婚やなんて考えられんかったんです。」


それを聞いた竜太郎は黙り込んでしまった。三津はそんな竜太郎をまっすぐ見つめた。


「竜太郎さん,きっと弥一さんから色々聞いてはるとは思います。私をどんな目で見ようと私は構いません。ですが,小太郎さんの足を引っ張りたくありません。
私の存在は置いておいて長州の為にこれからもよろしくお願い致します。」


そして頭を下げるのが三津に出来る事だった。「松子さん!松子さん!ホンマにもうよろしおす!絶対長州の皆さんが不利になるような事は致しません!
竜!お前が謝らんかっ!失礼な事ばっかいいよって!!」


栄太は竜太郎の頭を押さえつけるから今度は入江がそちらを止めた。


「大丈夫です,私らに不利な事は薫堂さんにも不利に働くのは承知してますから私もヘマはしないよう気を付けます。
松子,帰ろうか。」


入江の優しい声と背中を撫でてくれる手に安心感をもらい,三津はゆっくりと顔を上げた。


「松子さん,いつでも顔を見せに来て下さい。」


栄太が待ってますと微笑んでくれたので三津も分かりましたとやんわり笑みを浮かべてその日はお暇した。


外に出て少し店から離れた所で三津は盛大な溜息と共に崩れ落ちた。


「お疲れ様。何か色々と誤算が起きたな。」


だがかなり面白いと入江は他人事のように笑った。


「もう頭真っ白です……。帰ってからゆっくり整理したい……。」

実は壬生狼内にも妻に惚れて通っ

2024-06-21 20:36:37 | 日記
実は壬生狼内にも妻に惚れて通っていた者もおりました。なので竜太郎さん栄太さん,妻が宝月堂の三津だと言う事は内密に。」


入江は笑みを浮かべながらも威圧感を醸し出した。その友人とやらは気になるが危惧すべき所はそこではない。
ここに居るのは三津じゃない。河島小太郎の妻の松子で別人としなければならない。


「えぇ勿論です。」 植髮


そこは長州贔屓の親子だけに理解が早かった。仰せのままにと頭を下げて受け入れてくれた。


「ありがとうございます。お二人には本当に感謝しております。
今回は以前と同じようにここで幕府の動向を探るのに加えて,松子に危害が及ばぬよう守る事が私の役目。
それにそのご友人の分まで妻を幸せにしないといけませんしね。」


入江から何度も妻と呼ばれるのがむず痒くも嬉しいのだが三津の頭の中はそれどころじゃない。


『帰って来て早々感情が処理できないし現状を受け入れられない……。』


何かと情報量が多過ぎる。


『お二人の事は信じてもええんやろうけど……。』


桂と入江が京に来てからの付き合いならば信用出来るんだろうと思っていたら竜太郎と目が合った。でも気まずそうに逸らされてしまった。


『多分嫌われたな,私。』


彼の友人がいつ来ていたのか分からないし自覚はないが,多分その友人の想いを無下にした可能性がある。竜太郎の態度に入江は長居はしない方がいいと判断した。


「今日は松子を紹介しに来たのと,松子にここを教えておきたかっただけなのでそろそろお暇します。竜太郎さんは栄太さんに用があったのでしょう?仕事の邪魔をして申し訳ない。」


「いえっ!お気になさらず!また河島様が戻って来られてうれしいのでっ!あと……松子さんにもお会い出来て良かった。」


『いやいやその顔歓迎してないでしょう……。』


竜太郎が入江に向ける目と自分に向ける目が違い過ぎて三津は顔を引き攣らせた。


『でもそのご友人とはホンマに仲がえぇんやろなぁ……。やから気持ちを無下にした私を嫌っても仕方ない……。』


そうは思うものの,その友人とやらが誰だか分からないからどんな対応をしたかも分からない。
それにさっきの言い方が気になり過ぎる。


「あの……帰る前に……そのご友人の名前を教えていただいても?」


名前を聞いたら何か思い出すかもしれない。


「えっと……中山弥一です……。」


「弥っ!!一さん……。」


思い出すも何も忘れるはずがない。


「どんな人?」


思わず入江も口を挟んだ。三津が動揺するほどの相手には興味がある。


「えっと……一度お話した事あると思います……。縁談を持ち掛けてくださった呉服屋の若旦那さんです……。」


「本当に世間は狭いな。その若旦那が竜太郎さんの友人?」


面白すぎるなと入江は喉を鳴らした。三津は笑い事じゃない。この事実により新たな心配事が出て来た。


『竜太郎さんがもし弥一さんに私の話をしはったら……。』


弥一の店の常連である土方に伝わってしまう可能性がある。それだけはあってはならない。またも三津の顔から血の気が引いた。


「竜太郎さん……どうか弥一さんには黙っておいてはいただけませんか……。」


三津は頭を下げて懇願した。


「それは弥一に後ろめたいからですか。」


さっきとは打って変わって竜太郎の声が冷たくて鋭い物に変わった。それが三津の上に降り注ぐ。


『やっぱりな……。弥一さんから私との事聞いてはるんや……。』


友達を傷付けた私が憎いんだと感じ取った。だがそんな事などどうでもいい。自分がどう思われてるか気にしてる場合じゃない。


「弥一さんのお店の常連に新選組副長の土方歳三がおります。私はそちらとも面識があるので私が三津だと知られたらここにも危害が及ぶ可能性があります。
それならば今日私に会った事を忘れて下さい。私の存在をなかった事にしてください。
ここで長州の道を潰す訳にはいかないんです。」


三津は畳に額を擦り付けて頼み込んだ。

店主は笑顔でうんうんと相槌を

2024-06-21 20:32:23 | 日記
店主は笑顔でうんうんと相槌を打っている。
三津は何とか笑顔を保っているが不自然に作った表情だから顔が痛い。


「河島様が選んだなら間違いないでしょう。」


『この人小太郎さんの事めっちゃ気に入ってはるんやな。』


それとも商売人の性なのか。やたら持ち上げるし褒めちぎる。


「河島様のような方なら是非うちの婿にと!」


『やっぱり娘さん居てる!?修羅場!?』


三津はビクッと肩を跳ね上げ周りを見渡して警戒した。


「……言いたい所ですがうちには倅しかおりませんのでね。残念,残念。でも跡継ぎとして養子の手も残っておりますね。」


「倅っ!」


娘じゃないんかいっ!と言う心の声は押し留めたが,紛らわしい言い方に突っ込む事は抑えきれずに声に出してしまった。


「急にどうした松子。」


「いえ……すみません……。」


顔を真っ赤にして何でもないですと口ごもった。


『それにしても養子にしたいぐらいいい仕事してるの?この人……。』


本当に職人を目指してるのではと横目で疑いの眼差しを送ってしまった。


「いやいや,私はここに潜んで幕府の動向を探ってるだけなんで香に関して何の知識も技術も持ってないじゃないですか。」


『何だ……職人やってるんじゃなかったのか……。』


じゃあ入江の何がこの店主の心を掴んで離さないのだろうかと謎が謎を呼ぶ。


「知識と技術はうちの倅に任せとけばええんです。河島様が店に出て微笑むだけで飛ぶように売れますんでね。」


『お客さんへの色仕掛け要員!!』


こりゃ想いを寄せて足を運ぶお客が多そうだ。結局女の相手してるのかと思うと三津はまたモヤモヤしだした。
そこへ噂の倅が顔を覗かせた。


「父さんちょっといい?あっ河島様戻られてたんですか!それに来客中で……。失礼致しました。」


綺麗な所作で頭を下げる彼に三津はお邪魔してますと深く頭を下げた。


「ちょうどいい,紹介致します。こちら息子の竜太郎です。竜,こちら河島様の奥様の松子さんや。」


「妻の松子でございます。」


改めて自己紹介をして頭を上げると竜太郎は瞬きもせずに三津をじっと見つめている。


「あ……あの?」


何か失礼でもしたのかと思って戸惑っていると竜太郎はさらにずいっと三津に顔を寄せた。


「松子さん?貴女……宝月堂のお三津さんではありませんか?」


「えっ!何で……。」


三津だけでなく入江も栄太も驚きが隠せない。


「ですよね?不躾にすみません。友人に連れられて何度も貴女様を見に行った事があって……。そうか……河島様の奥様かぁ……。」「見……見に来てただけですか……?」


お客ならある程度覚えている。だが彼の顔に覚えはない。店に入って来てないのなら分からなくて当然だ。


「えぇ,私は見に行ってただけです。私は。」


やけに気になる言い方をするじゃないか。


「えっと……私は……と言う事はそのご友人さんは何度かご来店いただいてる……?」


すると竜太郎はちょっと気まずそうに入江に目をやってから頷いた。ならばその友人とやらは面識があるに違いない。三津は単刀直入に聞いてやった。


「では私はそのご友人が誰か分かると……。」


竜太郎はまた入江に視線を向けてからゆっくりと頷いて一度深呼吸をして口を開いた。


「知らないはずがない。だってあいつは貴女様に……その……。」


竜太郎はそこまで言って口を閉ざした。


「すみません,そこまで言われると気になって仕方ないです……。」


三津がそう言うと入江と栄太も力強く頷いた。だが竜太郎はこの話を入江に聞かせていいものかと悩んでいた。
竜太郎が言い倦ねている隙に入江が口を開いた。顯赫植髮


「それにしても世間は狭いものですね。うちの妻は看板娘で引く手数多だったのは存じております。まさか竜太郎さんのご友人もとは。

人前に出る時につける物ではない

2024-06-21 20:30:49 | 日記
人前に出る時につける物ではないと思って使わなかった。そんな紅を引いて相手の女に会う勇気など微塵もない。


「駄目,塗って。今のままやと顔色悪く見える。」


入江は勝手に三津の化粧道具をがさごそ漁って紅を取り出すと,それを器用に塗ってやった。easycorp


「ほら綺麗。あーでもこんな綺麗な三津連れて歩いたら目を引きそうやなぁ。他の男に見せるのは惜しい。でも自慢の妻やけぇいいか!よし行こう。」


入江は満足気に頷いて三津の手を取って外に出た。


「あの……どこまで行くのでしょうか……。」


「御所の近く。道覚えてね。」


入江は何故かご機嫌でそんな言葉を投げてくるが今の三津には道を覚えるどころの話じゃない。


「多分無理です……。」


「まぁ何処へ行くにも基本私と一緒やから覚える必要もないか。」


「小太郎さんは私なんかとずっと一緒に居ていいんですか?」


「当たり前やん。それが私の任務よ?」


『何でまた急に自分の事を“私なんか”って……。』


自分を卑下する三津の発言を入江は不思議に思った。


『もしかして三津は何か勘違いしてる?』出逢った頃は卑下ばかりしていた三津だが,長州へ身を移してからはその発言はだいぶ減っていた。
そしてその発言が出る時は大抵自分を誰か別の女と比較した時だ。


『まさか?もしかして?』


自分の推測が正しければ三津は何て可愛い勘違いをしてるのだろうと笑いそうになった。
そして自分が盛大に勘違いをしてると気付いた時にどんな表情をするのだろう。


『いけんっ!考えただけでも可愛いっ!』


だから入江はあえて何も言わずに三津を目的地まで連れて行った。


「ここ。私の仕事場。」


「薫……堂……?」


二人はとある店の前で立ち止まった。店先に掲げられた立派な看板の名前を三津はゆっくり読み上げた。


「そう,おいで。」


入江は三津の手を引いて中へと入った。


「ただいま戻りました。」


「おかえりなさいませ河島様。」


入江に気付いた店主の男がにこにこしながら声をかけた。そしてその背後に隠れるように佇む三津に気が付いた。


「おや,そちらのお方は?」


「昨日お話した妻の松子です。」


「あぁ!この方が!何とも可愛らしい奥方様で。」


三津は慌てて姿を見せて頭を下げた。


「妻の松子でございますっ!」


「松子,こちら栄太さんだ。私が京に来てからずっとお世話になっている。」


入江の声も喋り方も貫禄を醸し出していて三津は変に緊張した。


「ここでは何ですから中でお話を。」


栄太は二人を奥の座敷へ通した。三津はガチガチに緊張したまま二人について行くしかない。
お茶を出してもらって入江はすぐに喉を潤したが三津は手を太ももの上に重ねたまま微動だにしなかった。


「松子,栄太さんは長州を贔屓になさってくれていて潜伏先としてこの場を使わせてくれている。
私は商いと香の技術を学びに来た近江の商人してこの店で働いてる事になっている。」


「そう……でしたか……。」


だから嗅覚が鈍るのかと合点がいった。
一日この店に居たらそりゃあ香の匂いも染み付くわなと理解した。


「それにしてもいい方を見つけましたねぇ。」


にこにこと頭から全身隈なく見られて三津は目を伏せた。何だか品定めをされてるようで落ち着かない。


「でしょう?禁門の変で避難した先で出逢いましてね。私の一目惚れです。今に至るまで献身的に支えてもらって……ようやく婚姻にこぎつけました。」


にっこり微笑む入江は横目でちらりと三津を見た。あからさまな作り笑顔と目配せに三津は黙って頷いた。


『そう言う設定なのね。』


長州贔屓と言えど,三津が桂の妻である事は秘密事項なんだなと理解した。