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「…全く、山南君は本当に素

2023-11-29 23:24:29 | 日記
「…全く、山南君は本当に素晴らしい人です。心から信頼に足る人物だと、は改めて実感致しましたよ」

「突然どうしましたか。私は何も素晴らしい事など申していませんよ」

「いえ、經痛 近藤局長がの入隊を心から望んでおられる事を存じているでしょう。それでも、山南君はの話のみをしてくれている」


伊東はそっと山南の手を取る。すると、着物の袖がするりと肘まで落ちた。
山南の左腕には痛々しい傷が浮かんでいる。
伊東は視界の端にそれを捉えると、更に目を細めた。


「山南君は誠義の人ですね。その様な貴方が居るというだけでも、新撰組に箔が付くでしょう」


明らかに褒めすぎだと思ったが、それでもそこまで言われて不快に感じる人間は居ないだろう。
山南は照れ笑いを浮かべた。


「そこまで言われると、むず痒いですね…。実質、隊を切り盛りしているのは土方君ですから。凄いのは私では無く、土方君ですよ」

「土方副長ですか…。どうやらは彼には良く思われてなさそうです。おいおい仲良くなるとしますよ」


伊東はそう言うと肩を竦める。
やはり、馬が合わないのかと山南は予想を的中させたことに苦笑いをした。


「伊東君が役者のような男前ですから、妬いているのでは無いですか。大丈夫ですよ、土方君も良い男だから何時かは分かり合えます」


山南は軽く笑いながらそう言う。この男は冗談も言えるのか、と伊東は涼し気な目元を伏せた。

「ハハ…。山南君がそう言うならそうなのでしょう。有難う、貴方のお陰で心が軽くなりましたよ」


それは本心だった。この柔和な山南が居る隊ならば、噂で聞き及んでいた残虐で酷い集団では少なからず無いだろう。


「そうですか、それなら良かったです」


山南は安堵の笑みを浮かべ、小窓へ視線を向けた。秋が終わりを告げるように、葉の落ちた枝が見える。その奥には星がその存在を主張するように煌めいていた。


幾らか失望している箇所があったとはいえ、山南は新撰組が好きだった。
若く新しい力を持つ子達が、良い方向にきっと変えていってくれる。

また、知識も志もある伊東が加盟してくれれば、その子達の力になってくれるはずだ。


──そう信じている。後日、新撰組一行は島原に繰り出していた。

絢爛豪華な見世、その前を癒しを求めて行き交う男たちでひしめきあっている。
男と女の欲望が渦巻くここにまた来てしまった、と桜司郎は肩を竦める。

決して遊女達を卑下しているのではなく、むしろその逆で彼女達の美しく堂々としたそれに、女として引け目を感じてしまったのだ。

まるで気高く咲く花のような彼女達が眩しかった。


もはや新撰組御用達と云っても過言では無い、に躊躇なく近藤らは入っていく。


「し、島原…。私、この雰囲気苦手なんですよ…」

「まごっちゃん、何を言ってんだ。男に生まれたからにゃ、避けては通れぬ道だぜッ」


桜司郎の横では馬越と山野の燥ぐ声が聞こえた。桜司郎は入り口で立ち止まると建物を見上げる。


『…泣くのは何時の時代も女子どす。待つのも、置いていかれるのも、女子どっしゃろ…!』


その脳裏には、前に廊下で盗み聞いたは大丈夫だったのだろうか。


暫く立ち止まっていると、それに気付いた山野が戻って来て、桜司郎の腕を取った。

「何してんだよ、置いていかれるぞッ」

「わ、ちょっとぼんやりしていただけだよ」


前のめりになりながらも、山野に手を引かれて隊士達の後を着いていく。
入り口で刀を預けると、二階の前回と同じ部屋へ通された。何処からか三味線の音が聞こえる。


やがて、豪華な膳が目の前へ運ばれた。前は訳も分からずに一人で居たが、今回は友がいる。そして仲間として堂々と此処に居られる。
それだけで食事の味が全く違った。


「八十八君、この煮物美味しい!」

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