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これは流石に止めなけれ

2024-04-30 21:42:53 | 日記
これは流石に止めなければまずいと思った三津は桂の側に寄って着物の袖をくいくい引っ張った。


「小五郎さん,貴方が手を汚す事はありません。お奉行様にお任せしましょう。それよりセツさんの手当てを早急に。」


眉尻を下げてそう言えば桂は渋々首に当てていた刀をのけた。それからその男の腕を捻り上げて奉行人に引き渡した。伊藤も同じ様に渾身の力を込めて腕を捻り上げておいた。激光生髮帽


セツは駆け付けた町医者からすぐに手当てを受けた。冬で厚手の羽織を着ていたのと,相手が短刀で当たったのが先の僅かな部分だけだったから大事に至らずに済んだ。


連行される二人に町人達は好き勝手な言葉を口にした。


「こりゃ有無言わさず斬首じゃなぁ。」
「木戸様の妻にあんな事しでかしたんだ。当然やろ。」
「お女中さんも斬りつけたんや。当たり前や。」


そんな声を聞きながら先鋒隊の二人は青ざめた顔で奉行人に連行された。


「あのっ!」


三津は駆け寄って奉行人を引き止めた。


「何でしょう奥方様。」


「この人達が先鋒隊だから罰が軽くなるとか私が木戸の妻だから罰が重くなるなど無いよう,公平な裁きを求めます。罪のない女性を斬りつけた事に対して相応の裁きを。
誤った判断で命を奪う事もなきようお願い申し上げます。」


三津は深く頭を下げて頼み込んだ。奉行人達は頭を上げてくれと慌てふためいた。


「そう言う事だ。よろしく頼むよ。」


桂は困り顔で奉行人達に笑みを投げた。それから三津の肩を抱いて顔を上げさせた。君が頭を上げないと奉行人達が困り果てると喉で笑った。


「配慮致します!」


奉行人達は姿勢を正して三津と桂に礼をして二人を連行して行った。


「本当に君は……。あーあ……綺麗な御髪が……。」


桂は三津の手に握られていた切り落とされた髪に手を伸ばした。渡してくれと言われて三津は桂の手のひらにそれを乗せた。


「髪は生きていれば伸びますから。」


「それはそうだが……。これは御守りとして私が貰っておく。」


桂が懐から取り出した懐紙に髪を包んで懐にしまった。
三津は何してんだ気持ち悪いと思ったが町民の面前の手前,言いたい言葉をぐっと飲み込んだ。


「高杉さんこっちじゃ!こっち!」


奉行人達と入れ替わりに,高杉を呼びに行った町民が戻って来た。
息を切らして駆けて来た高杉と山縣,入江はすぐに散切り頭の三津に目が行った。


「酷えな……。」


それしか言葉が出なかった。
事情はここに来るまでに聞いていたが,実際目にすると言葉が出ない。代わりに怒りだけが湧いてくる。高杉は目を真っ赤にして下手人はと桂に詰め寄った。桂は奴らを引き渡しておいて良かったと思った。怒り狂った高杉ならあいつらを殴り殺したかもしれない。三津があんな奴らでも死んでほしくないと思うのならそれは避けたい。


「奉行所に連れてかれたよ。正当な裁きが下るように口添えはしてある。」


それぐらいで高杉の怒りが収まる筈はないが,怒りの矛先がこの場にいないのなら無駄な体力を使うだけだ。それは高杉本人が一番分かっている。どうにか自力で呼吸を落ち着けた。


「すまん……。二人で出たのを分かっとらんかった。」


入江は護衛につくべきだったのにと短くなってしまった三津の髪を撫でた。長かった黒髪は耳の下でぷつりと途切れて肩までも届かない。

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