《第119回・脱原発市民ウォーク・イン・滋賀のご案内》
あけましておめでとうございます。
今年最初の脱原発市民ウォークを1月20日(土)におこないます
(JR膳所駅前広場:午後1時半)。
どなたでも、ご自分のスタイルで自由に参加できます。
寒い中ですが、ご都合のつく方はぜひ足をお運びください。
■■ 核廃棄物を地下深くに埋めて最終的に処分するという国の方針は誤りではないか? ■■
◆地質学の専門家ら有志300人余が、核廃棄物の「地層処分」に根本的な疑問を呈する声明文を発表
→→「世界最大級の地層の変動帯である日本に、核廃棄物の地層処分に適した場所は存在しない」◆
はじめに
原子力発電に伴う最大の問題は、言うまでもありませんが、大規模な事故が生じて人間を含む生物生息環境に取り返しのつかない大規模な被害を与える危険性が常に存在していることです。しかし、事故の問題以外に、たとえ事故が起きなくても、もう一つ、決して避けて通ることができない問題、解決が極めて困難な深刻きわまる問題が存在しています。それは、原子力発電を行えば必ず生じる危険な放射性廃棄物をどのような方法により十分な安全性を伴って最終的に処分するのかという問題です。たとえ原発が廃止されても核廃棄物の最終処分という難題は残ります。
原発を保有している欧米諸国で計画されている放射性廃棄物を最終的に処分するための方法の多くは、地下の深い場所(数百メートルの深さ)に処分場を設け、この処分場に放射性廃棄物が容れられた放射線を通さない容器に収容し、その後、人間が近づくことができないように処分場全体を埋め戻してしまうというものです。いわゆる「地層処分」と称されている方法です。
現在、日本は欧米における計画を見習って「地層処分」を行うことを前提に、使用済み核燃料を再処理した後に生じる高レベル放射性廃棄物の最終処分場を建設することを計画しており、このため政府は現行の最終処分に関する法律に基づき設けた機関が処分場候補地の選定作業を積極的に進めています。
政府が高レベル放射性廃棄物の最終処分の方法として「地層処分」という方法を採用していることの法的根拠としているのは「特定放射性廃棄物(注参照)の最終処分に関する法律」(平成12年法律第117号)(以下「最終処分法」と記す)における規定です。すなわちこの法律の第2条(定義)の2項において「この法律において『最終処分』とは、地下300m以上の政令で定める深さの地層において、特定放射性廃棄物及びこれらによって汚染された物が飛散し、流出し、又は地下に浸透することがないように必要な措置を講じて安全かつ確実に埋設することにより、特定放射性廃棄物を最終処分することをいう」と「地層処分」の定義が定められており、また第3条(基本方針)の1項において「経済産業大臣は、特定放射性廃棄物の最終処分を計画的かつ確実に実施させるため、特定放射性廃棄物の最終処分に関する基本方針を定め、これを公表しなければならない」と定められています。この法律の文言からは、最終処分に関する基本方針は「地層処分」を前提としたものであることが分かります。
(注:「特定放射性廃棄物」という用語は、正確には使用済み燃料の再処理後に生じる高レベル放射性廃棄物を溶融したガラスと混ぜ合わせた後に固体化したものを指します)。
しかしながら、地層処分という方法を核廃棄物の最終処分の方法として採用するためには、激しい地殻変動などにより地下深くに処分された放射性廃棄物を収容している容器が破壊されることなどにより、放射性物質が周囲に漏れ出て地下水により汚染が極めて広範囲に広がるという非常に危険な破局的な事態が生じることを確実に回避することが必要とされます。そのためには、処分場とされる土地の地質が少なくとも数十万年という長期にわたり激しい地殻変動が起きる可能性が極めて小さなものであることが必要とされます。ところが、日本は世界有数の火山国であり、地震の原因となる活断層が多数存在しているなど、日本の地質は欧米大陸などと比べて極めて地殻変動が生じやすいものであるという事実を考えるならば、日本に最終分に適した土地が存在するのか、日本が地層処分を計画することは果たして適切であるのか、疑問を抱かざるを得ません。
地質の専門家たちの中にも日本が地層処分を計画していることを疑問視している方々が少なからずいます。このため昨年の10月30日、日本地質学会会長の経験がある二人の人物を含む地質の専門家ら有志300人余りが、「世界最大級の(地殻)変動帯の日本に、地層処分の適地はない―現在の地層処分計画を中止し、開かれた検討機関の設置を」と題した、日本が高レベル放射性廃棄物の地層処分を行うことに根本的な疑問を呈し、現存の最終処分に関する法律を廃止し、原発政策の根本的見直しを求めるとする声明文を発表しました。この声明の呼びかけ人の代表者は赤井純治氏(元新潟大学)です。
この声明文は発表されたことは一般のメディアでは小さくしか報じられていませんが、呼びかけ人からの要請を受けて、「原子力資料情報室」がその全文を2023年11月21日付けのホームページで公表していました。このため以下に声明全文の内容と補足説明などを記します。ご一読くださり、放射性廃棄物の最終処分という、原発がある限り避けて通ることができない極めて厄介な問題について考え理解を深めてるための一助にして頂ければ幸いです。また、この声明に先立ち、日本学術会議と日本弁護士連合会も最終処分問題に関して、提言や決議を行っているため、その内容についても記しておきます。
【世界最大級の変動体の日本に、地層処分の適地はない。現在の処分計画を中止し、開かれた検討機関の設置を:2023年10月30日―地質の専門家ら有志】
以下に記す声明の内容は、より理解を容易にするために多少リライトして若干の説明を加えています。また、必要な個所に注釈を記しておきました)
現在、高レベル放射性廃棄物(以下、「核のゴミ」と記す)の最終処分場選定の第一段階である「文献調査」が北海道の寿都町と神恵内村で進められ調査結果の報告を待つ段階にあります(2023年5月現在)。文献調査の公募は2002年に開始され、その後2005年には「地層処分の適地・不適地」を示したとする「科学的特性マップ」を公表することにより候補地選定の働きかけを強めています。しかし、この「科学的特性マップ」は適地を示すというよりは、明らかな「不適地」を除外しただけにものに過ぎず、ただ処分地の選定を進めやすくすることを意図したものに過ぎないのではないかと思われる性質ものです。しかし、その後、政府は原発を積極的に推進するためにこれまでの原発政策を大幅に変更し、原子力基本法に原発推進の文言を盛り込むなど関連法規の改定案を国会で成立させており、そのため例えば原子炉の運転期間が延長され60年超の原発の運転が可能になっています。
このような原発推進政策の一環として、核のゴミの地層処分候補地をより広範に募集するために、これまでは「原子力発電環境整備機構」(NUMO:注参照)のみが行ってきた募集作業を、今後はより広範な地域を対象として、関連する政府の諸機関が一体となって主導し推進するとしています。このため今後、全国の様々な地域で核のゴミの処分を巡る議論が起きることが考えられます。
核のゴミは、その放射能が天然のウラン鉱石と同程度のレベルになるまでに10万年を要するとされており、このため、地下300mに10万年間埋設されることになるとされています。しかし、火山国・地震国とも言われ、地殻変動が活発に日本において、10万年ものあいだ核のゴミを地下に安全に埋設できる場所があるのでしょうか。私たちは地球科学を専門とする研究・技術・教育の現場に携わる立場から、以下に示す理由に基づき核のゴミを地層処分する計画の抜本的見直しを求めるものです。
〈理由1〉:日本の地質条件を無視した最終処分に関する法律
核のゴミを地層処分することは2000年5月に国会の議決により制定された「特定放射性廃棄物の最終処分」に関する法律」(以下「最終処分法」と記す)に基づいて決定されました。次いで2000年10月に、地層処分を行う事業主体として「原子力発電環境整備機構」が設立されました。政府がこの法律を国会に提出したのは、1980 年代からの地層処分政策の延長として、1999 年に核燃料サイクル開発機構(現日本原子力研究開発機構)が作成した「我が国における高レベル放射性廃棄物地層処分の技術的信頼性─地層処分研究開発第2次取りまとめ─」が総理府原子力委員会(2001 年からは内閣府)に提出され、そこに地層処分が技術的に実現可能であると述べられていたことによるものです。その根拠は、1984 年に出された総理府原子力委員会放射性廃棄物対策専門部会中間報告書の「放射性廃棄物処理処分方策について」において、「地質条件に対応して必要な人工バリア設計で、地層処分システムとしての安全性を確保できる見通しが得られた」というものです。つまり未固結(注参照)の堆積物だけを除き、岩石の種類を特定しなくても、地質条件に対応した人工バリア技術で安全性が確保できるというものでした。人工バリア(人工の障壁)とは、以下のようなものです(注:未固結=土粒相互間の結合力が弱く、土粒子の分離が比較的容易である状態)。
まず、使用済み核燃料を直径40cm、高さ130 cmの円柱状のガラス固化体に封じ込め、それを厚さ20 cmの金属(炭素鋼)で覆い、さらに70 cmの粘土(ベントナイト)で覆います。これが「人工バリア」です。ガラス固化体は、製造当初は人が1メートル離れた場所に数10秒いるだけで死に至るほどの強い放射線を出します。最終的には、合計4万本を地下300m以深の処分地に置く計画であるとされています。しかし、人工バリアの安全性は実験段階であり、安定状態での仮説でしかありません。極めて長期に渡り強い放射線を浴び続けるものが日本のような地質条件の中で強い放射線のバリアとして機能し続けることは誰も保障できません。
日本の地質条件は果たして地層処分に適したものでしょうか。現在、地下の岩盤に核のゴミを貯蔵・処分する地層処分は、世界の国々で検討されています。フィンランドは世界で唯一処分場を建設中であり、スウェーデンでは処分場の場所が決定されています。北欧の地質条件は、楯状地(注1参照)である原生代(注2参照)の変成岩・深成岩であり、地震活動がほとんど起こらない安定陸塊(注3参照)であるのに対し、日本列島は複数のプレート(注4参照)が収束する火山・地震の活発な変動帯です。そのような地質条件の違いを無視して、北欧の地層処分と同列に扱い、人工バリア技術で安全性が保障されるとみなすのは論外と言わねばなりません。
(注1:楯状地=一般的に、構造地質学的に安定している、先カンブリア時代の結晶質火成岩と高度変成岩が露出する広い地域を指す。先カンブリア時代=地球上で研究できる最古の岩石の年齢である38億~40億年前に至る約34億年が「先カンブリア時代」と称されています)
(注2:原生代=真核単細胞生物から硬い骨格を持った多細胞生物 の化石が多数現れるまでの25億年前?約5億4,100万年前の時期を指す)
(注3:安定陸塊=長い間地殻変動を受けなかった地帯)
(注4:プレート=地球の表面を覆う、十数枚の、厚さ100kmほとの岩盤のこと)
〈理由2〉地殻変動の激しい、安定地塊でない日本列島
火山国とも地震国とも言われる日本は、地殻変動が極めて活発です。世界最大級の変動帯(注1参照)の日本において、今後10万年ものあいだ、核のゴミを安定的に保存できる場所を選定できないことは地球科学を学ぶ者にとっては、容易に理解できることです。変動帯であるがゆえに、構造運動の影響も受けやすく、岩盤も不均質で亀裂も発達し、脆弱な個所もみられ、割れ目に地下水が存在しやすくなります。火山活動と地震活動は、太平洋プレート、北米プレート、ユーラシアプレート、フィリピン海プレートがそれぞれ衝突・沈み込むことによる巨大で複雑な力を背景に発生していますが、日本はこれらの四つのプレートの境界という地球上で最も地殻変動が活発な地域に位置しています。活断層は、このような構造運動を原因とする上部地殻のひずみの集中域で発生する地震活動の現れと考えられます。その分布については研究がかなり進んでいるにもかかわらず、活断層が確認されていないところでも、しばしば大きな地震が発生しています。たとえば、2018 年の北海道胆振東部地震(M6.7)は、活断層である石狩低地東縁断層帯の東側約 15km、しかも 20~40 km の上部マントル(注2)に達する深度で発生しました。地下深部の地下水は、一般的にはきわめて流速が遅いと言われていますが、もしこのような地震が処分場を直撃したら、周辺の地質条件の変化で、いかようにも流動・流速に変化を生じ、人工バリアに亀裂が発生し、周囲の岩盤の無数の割れ目や断層に沿って地下水とともに放射性物質が漏れ出すことは避けられません。激しい変動帯の下におかれている日本列島において、今後 10 万年間にわたる地殻の変動による岩盤の脆弱性や深部地下水の状況を予測し、地震の影響を受けない安定した場所を具体的に選定することは、現状では不可能といえます。
(注1:変動帯=活発な地殻変動や火山活動がみられる帯状の地帯。プレートの境界に沿ってみられるとされている)
(注2:上部マントル=地表から5~60kmに位置する「地殻」の下方に位置する、「マントル」と称される地層における上部の部分)
〈提言3〉最終処分法の廃止と原発政策の見直しを
以上に述べた理由から、核のゴミを地下300メートル以深に埋設する最終処分法は、プレート境界域である活発な変動帯の地質条件を無視した、人口バリア技術を過信した法律に基づくものであると言わざるを得ず、このため抜本的な見直しが必要です。
日本学術会議は2012年9月に、原子力委員会からの審議依頼に対する回答を公表しています。その中で、超長期にわたる安全性と危険性に対処するにあたり、現時点での科学的知見には限界があるとして、核のゴミを地層処分することを前提とした従来の政策の抜本的見直しを求め、暫定保管と放射性廃棄物の総量管理を柱として、政策の枠組みを再構築することを提案しています。暫定保管というのは、一定期間地上で保管することを意味しています。この地上での保管の期間中に、核のゴミの最終処分の方法を確立する必要があります。総量規制とは、放射性廃棄物の量をこれ以上増やさないために、厳しく量の規制を行うことを意味しています。
これらの検討経過を見るならば、科学的根拠に乏しい最終処分法を廃止し、地上での暫定保管を含む原発政策の見直しを視野入れ、地層処分ありきの従来の政策を検討しなおすべきです。再検討にあたってはて、地球科学にたずさわる科学者、技術者、専門家の意見表明の機会を、日本学術会議などと協力しながら十分に保障することが欠かせません。さらに、中立で開かれた第三者機関を設置し、広く国民の声を集約して結論を導くことが重要だと考えます。
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以上が地学の専門家ら有志300人による声明の全文の内容です。この声明は、一言で要約すれば、「日本は世界有数の火山国・地震国であり、このため欧州大陸などとは異なり、地震などにより地殻変動が生じる確率が高いため、十万年もの長期にわたり核廃棄物を安全に保管することが可能な処分場の適地が日本に存在しているとは考えられない。このため地層処分という国の従来の方針を撤回し、暫定的な地上での保管を視野に入れ、地上保管の間に、地球科学の専門家などをはじめとして各方面の協力を得て、地層処分ありきという従来の方針の見直しを行うべきである」というものです。
この地学の専門家らによる声明文において、日本学術会議が核廃棄物の最終処分に関する提言を過去に(2012年9月11日)行っていると記されていますが、学術会議だけではなく、昨年9月には、日本弁護士連合会も地層処分に関する決議を行っています。このため、以下に日本学術会議の提言(原子力委員会からの審議依頼に対する回答)ならびに日本弁護士連合会の決議について、その概要を紹介します。なお、日本学術会議は上記の提言を行った後、2015年4月に、2012年9月の原子力委員会に対する回答に関してより具体的方策を提言としてとりまとめ公表しています。
日本学術会議の原子量委員会に対する回答(提言内容)は詳細な内容を伴った長文のものであるため、冒頭の「要旨」として示されている部分を中心に、その概要を以下に記します。(出典:日本学術術会議のホームページ)
【日本学術会議の高レベル放射性廃棄物の処分に関する原子力委員会への回答:背景と提言、2012年(平成24年)9月11日:日本学術会議】
回答作成の背景: 2010 年9月、日本学術会議は、内閣府原子力委員会委員長から日本学術会議会長宛に、「高レベル放射性廃棄物の処分に関する取組みについて」と題する審議依頼を受けた。高レベル放射性廃棄物の処分に関しては、「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」に基づく基本方針と最終処分計画に沿って、関係行政機関や原子力発電環境整備機構(NUMO)などにより、文献調査開始に向けた取組みが行われてきているが、文献調査開始に必要な自治体による応募が行われない状態が続いている。原子力委員会委員長からの依頼は、「高レベル放射性廃棄物の処分に関する取組みについての国民に対する説明や情報提供のあり方について審議」を求めたものであった。
この依頼を受け、第21期の日本学術会議は、2010 年9月 16 日に課題別委員会「高レベル放射性廃棄物の処分に関する検討委員会」を設置し、設置期限の 2011 年9月末日までに、内閣府原子力委員会に対する回答を作成することを目標とし た。しかし、委員会発足から約半年後の2011 年3月 11 日、東日本大震災が発生し、これに伴う東京電力福島第一原子力発電所事故により、わが国では、これまでの原子力政策の問題点の検証とともに、エネルギー政策全体の総合的見直しが迫られることとなった。そこで同委員会は、このような原子力発電所事故の影響およびエネルギー政策の方向性を一定期間見守ることが必要と考え、それまでの審議を記録「中間報告書」として取りまとめて第 22 期の「高レベル放射性廃棄物の処分に関する検討委員会」に審議を引き継いだ
《原子力委員会への提言》
提言の内容:本委員会は以下の6つを提言する。なお、これらの提言は、原子力発電をめぐる大局的政策についての合意形成に十分取組まないまま高レベル放射性廃棄物の最終処分地の選定という個別的課題について合意形成を求めるのは、手続き的に逆転しており手順として適切でない、という判断に立脚している。
提言1:高レベル放射性廃棄物の処分に関する政策の抜本的見直し
これまでの高レベル放射性廃棄物処分に関する政策は、2000 年に制定された 「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」に基づき進められてきたが、今日に至る経過を反省してみるとき、基本的な考え方と施策方針の見直しが不可欠である。これまでの政策枠組みが、各地で反対に遭い、行き詰まっているのは、説明の仕方の不十分さというレベルの要因に由来するのではなく、より根源的な次元の問題に由来することをしっかりと認識する必要がある。また、原子力委員会自身が 2011 年9月から原子力発電・核燃料サイクル総合評価を行い、使用済み核燃料の「全量再処理」という従来の方針に対する見直しを進めており、その結果もまた、高レベル放射性廃棄物の処分政策に少なからぬ変化を要請するとも考えられる。これらの問題に的確に対処するためには、従来の政策枠組みをいったん白紙に戻すくらいの覚悟を持って、 見直しをすることが必要である。
提言2:科学・技術的能力の限界の認識と科学的自律性の確保
地層処分をNUMO に委託して実行しようとしているわが国の政策枠組みが行き詰まりを示している第一の理由は、超長期にわたる安全性と危険性の問題に対処するに当たって、現時点での科学的知見には限界があるということである。安全性と危険性に関する自然科学的、工学的な再検討にあたっては、自律性のある科学者集団(認識共同体)による、専門的で独立性を備えた、疑問や批判の提出に対して開かれた討論の場を確保する必要がある。
提言3:暫定保管および総量管理を柱とした政策枠組みの再構築
これまでの政策枠組みが行き詰まりを示している第二の理由は、原子力政策に関する大局的方針についての国民的合意が欠如したまま、最終処分地選定という個別的な問題が先行して扱われてきたことである。広範な国民が納得する原子力政策の大局的方針を示すことが不可欠であり、そのためには、多様なステークホルダー(利害関係者)が討論と交渉のテーブルにつくための前提条件となる、高レベル放射性廃棄物の暫定保管 (temporal safe storage)と総量管理の2つを柱に、政策枠組みを再構築することが不可欠である。
提言4:負担の公平性に対する説得力ある政策決定手続きの必要性
これまでの政策枠組みが行き詰まりを示している第三の理由は、従来の政策枠組みが想定している廃棄物処分方式では、受益圏と受苦圏が分離するという不公平な状況をもたらすことにある。この不公平な状況に由来する批判と不満への対処として、電源三法交付金などの金銭的便益提供を中心的な政策手段とするのは適切でない。金銭的手段による誘導を主要な手段にしない形での立地選定手続きの改善が必要であり、負担の公平/不公平問題への説得力ある対処と、科学的な知見の反映を優先させる検討とを可能にする政策決定手続きが必要である。
提言5:討論の場の設置による多段階合意形成の手続きの必要性
政策決定手続きの改善のためには、広範な国民の間での問題認識の共有が必要であり、多段階の合意形成の手続きを工夫する必要がある。前述の暫定保管と総量管理に関する国民 レベルでの合意を得るためには、様々なステークホルダーが参加する討論の場を多段階に設置すること、公正な立場にある第三者が討論過程をコーディネートすること、最新の科学的知見が共有認識を実現する基盤となるように討論過程を工夫すること、ならびに合意形成の程度を段階的に高めていくことが必要である。
提言6:問題解決には長期的な粘り強い取組みが必要であることへの認識
高レベル放射性廃棄物の処分問題は、千年・万年の時間軸で考えなければならない問題である。民主的な手続きの基本は十分な話し合いを通して合意形成を目指すものであるが、とりわけ高レベル放射性廃棄物の処分問題は、問題の性質からみて、時間をかけた粘り強い取組みを実現していく覚悟が必要である。限られたステークホルダーの間での合意を軸に合意形成を進め、これに当該地域への経済的な支援を組み合わせるといった手法は、かえって問題解決の過程を紛糾させ、行き詰まりを生む結果になることを再確認しておく必要がある。また、高レベル放射性廃棄物の処分問題は、その重要性と緊急性を多くの国民が認識する必要があり、長期的な取組みとして、学校教育の中で次世代を担う若者の間でも認識を高めていく努力が求められる。
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以上が高レベル放射性廃棄物の最終処分に関する、日本学術会議による原子力政策の決定過程の現状に関する問題点の指摘と今後の取り組みに関する具体的提言の内容です。一方、先述の地学の専門家らによる声明は、「質学的に観て日本の最終処分場を設けるための、近くが十分に安定している適地は日本には存在していない。このため現行の人工バリア技術で安全性が確保できると見なすのは論外」という地質学的観点に前提とし、現行の最終処分法の廃止し「地層処分ありき」とする従来の政策を再検討すること、ならびに再検討にあたっては「地上での暫定保管を行うこと、放射性廃棄物を総量規制すること」(この「暫定保管」と「総量規制に」に関する部分は上述の学術会議による提言を踏まえたものであると推測されます)を視野に入れて、広範な関係者(科学者、専門家、技術者など)の意見表明の機会を保障すること)、中立的な第三者機関を設け国民の声を集約して結論を導くことなどを求めたものです。このため、学術会議の原子力委員会に対する回答の内容は、大筋において、「日本には最終処分場の適地は存在していない」とまでは言い切っていないものの、地学の専門家らによる声明の内容と共通している部分が多いのですが、学術会議による提言内容の底流にあるのは、これまでの様々な原子力政策と政策を実行するための方針を決定する過程に対する本質的な厳しい批判です。すなわち、「東日本大震災により2011年3月11日に東京電力福島第一原発が大事故を起こしたことにより、わが国ではこれまでの原子力政策の問題点の検証と共に、エネルギー政策全体の総合的見直しを迫られることになった」という現状認識と真摯な反省に基づき、「原子力発電をめぐる大局的政策についての合意形成に十分取組まないまま高レベル放射性廃棄物の最終処分地の選定という個別的課題について合意形成を求めるのは、手続き的に逆転しており手順として適切でない」と厳しく批判したうえで、「超長期にわたる安全性と危険性の問題に対処するに当たって、現時点での科学的知見には限界がある」という認識を明確に示しています。
また、提言内容は地質の専門家などによる声明におけるよりも一段と具体的かつ明確なものであり、広い視野に立ったものです。たとえば、暫定保管(最終処分の方法が適切に決定されるまで、一定期間、地上の暫定的に地上で保管すること)と放射性廃棄物の総量規制を行う必要があることがより明確に示されており(注参照)、一方において、現存の科学的知見では限界がある超長期にわたる安全性と危険性に関して検討することを目的として自律性のある科学者集団による開かれた討論の場を確保することの必要性を指摘しています。それだけではなく、最終的な合意に形成に関しても、これまで政府が行ってきた手法の問題点を極めて具体的に指摘したうえで提言を行っています。すなわち、これまで最終処分問題だけでなくその他の原発問題に関して政府が行ってきたような限られた関係者のみによる合意を軸に合意形成を進めるという手法は、問題解決の過程を紛糾させ、行き詰りを生む結果に終わるだけであるため避けるべきであると厳しく批判したうえで、最終処分の方法が決定されるに至るまでの合意形成の具体的な手法と過程が極めて重要であること、討論の場の設置により多段階を経ての合意を形成するが必要であることを強調しています。
(注:日本学術会議は上記の原子力委員会に対する回答を行った後、2015年4月24日に、「高レベル放射性廃棄物の処分に関する提言―国民的合意形成に向けた暫定保管」と題された提言を公表しており、その中で「(地上での)暫定保管の期限は原則50年とし、最初の30年までを目途に、最終処分のための合計形成と適地の選定、さらに立地候補地選定を行い、その後20年内を目途に処分場を建設する」という具体的内容を有する方策を示しています。この文面からは、いかなる科学的条件・手段によるのかは別として、結局のところ、場合によっては「地層処分」という方法を選択することもあり得るのではないか
とも考えられます。そうであるとするならば、先述の地質の専門家らによる「地層処分は、日本には適地が存在しないため認められない」とする声明と学術会議の提案の内容は異なっていることになります。ただ、日本学術会議が指している「適地」が「地層処分」のみを意味しているものであるの否かは定かではありなせん。大地震などにより放射線が漏れ核汚染が広範囲に及ぶなどの重大な事態が生じることが懸念される場合に人間の手で対応するため、人間が近づくことができるように、地下深くではなく、地上あるいは比較的浅い地下に処分場を設けるという方法など、将来的に搬出があり得ることを視野にいれた処分場も考えられるからです)。
次に、20239月30日に、日本弁護士連合会が現行の地層処分という方針の見直しを求める決議を行っているため、先述の地質の専門家らによる声明と日本学術会議による原子力委員会への回答・政策提言と内容的に重なりあう部分が多いのですが、その概要を紹介しておきます。
【高レベル放射性廃棄物の地層処分方針の見直し、将来世代に対し責任を持てる持続可能な社会の実現を求める決議:2022年9月30日、日本弁護士連合会】(出典:日弁連のホームページ)
〈決議文の概要〉
必然的に放射性廃棄物を生み出す原子力エネルギーの利用や地球温暖化による気候危機は、いずれも将来世代に対しリスクや負担をもたらすものであり、持続可能な社会とは相容れないものである。
当連合会は、すでに1967年に原子力エネルギーの危険性について懸念を表明したが、2011年に福島第一原子力発電所事故が発生した後、2013年の第56回人権擁護大会において、既設の原子力発電所についてできる限り速やかに全て廃止することを決議し、2014年の第57回人権擁護大会において高レベル放射性廃棄物の地層処分方針を撤回することを求めるなど、一貫して人の生命・身体の安全や環境に対する重大な脅威をもたらす原子力エネルギーの利用に反対してきた。
原子力発電に関しては、その危険性もさることながら、処分困難な高レベル放射性廃棄物をこれ以上生み出し続けることは到底容認できない。長期にわたり強い放射能を有する高レベル放射性廃棄物は、現在の科学的・技術的知見では、日本において将来にわたり安全性を確保できる地層処分を行うことは困難である。高レベル放射性廃棄物の処分方針については、科学的・技術的知見の進展と世代間倫理を踏まえ、国民的議論を経て決める必要がある。
1 国及び地方自治体は、気候危機問題、エネルギー政策及び原子力政策において、世代間の公平性と将来世代の人権に配慮し、短期的な利益追求や課題への対処にとらわれずに政策決定をすべきである。
2 国と原子力発電事業者・核燃料の再処理業者等は、使用済み核燃料を含む高レベル放射性廃棄物について、以下の方策をとるべきである。
(1)再処理施設等の核燃料サイクルを速やかに廃止すること。
(2)使用済み核燃料については、原発をできる限り速やかに廃止してその総量を確定させ、また、再処理せず直接処分すること。
(3)地層処分を前提とする現行の最終処分に関する法律を一旦廃止し、一時的な保管を含む廃棄物の処分方針について、
以下の内容を踏まえた新たな枠組みを持つ法制度を設け、処分方針は同制度の下で合意した内容を基本とすること。
①新たな法制度に基づく会議体等は、高い独立性を有し、多様な意見や学術分野の知見を反映するような人選とし、
その人選については公開性・透明性が確保されること。
②十分な情報公開の下、市民が意見を述べる機会が保障され、話合いの過程を公開・記録し、後日、意思決定過程が
検証できるようにするなど、市民の参加権・知る権利を保障すること。
③会議等の議論においては複数の選択肢及びそれぞれの選択肢のリスクと安全性を示すこと。
④将来世代の利益・決定権を不当に侵害しないよう、一定期間ごとに処分方針の見直しをおこない、
いつでも従前の方針を全面的に変更することができる制度とすること。(以下省略)
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以上が日弁連の決議の概要です。上記の内容から分かるように、日弁連は当初から原発技術が有する危険性を懸念しており、福島第一原発の事故後、2013年に既存原発の全廃、2014年に高レベル放射性廃止を地層処分するという方針に対する反対を表明しており、このように「一貫して人の生命・身体の安全や環境に対する重大な脅威をもたらす原子力エネルギーの利用に反対してきた」ことを踏まえて、さまざまな提言を行っていますが、その内容は大筋において前述の地質学の専門家らによる声明、日本学術会議の提言と実質的に大差がないものであると考えられます。ただ、日弁連の場合は、再処理施設などの核燃サイクルを廃止し、使用済み核燃料は、再処理は行わずに、そのまま直接処分(注:核燃料を一回使用したきりにして、再利用を行わずに最終処分に供するという、いわゆる「ワンスルー」方式での処分)すべきであると明言しています。この「直接処分」か「再処理を経ての処分か」という問題点に関する三者の見解の差異は必ずしも明らかではありません。日弁連は再処理を否定していますが、学術会議は「全量再処理という方針は問題である」と指摘するに留まっており、一方、地質学の専門家らによる声明はこの問題点には特には触れていません。しかし、核廃棄物の最終処分問題を考える場合、一番のポイントが「地層処分か否か」という問題であることは言うまでもないものの、「直接処分か再処理後の処分か」という点も、今後の原発政策に極めて大きな影響を与えるため、その意味で非常に非常に重要な問題点であり、今後議論が積み重ねられることが必要であると考えられます。
おわりに
以上、高レベル放射性廃棄物の最終処分に関する、政府が進めつつある使用済み燃料の再処理により生じる高レベル廃棄物を地下深くに埋設するという処分方法に対する地質の専門家ら、日本学術会議、日本弁護士連合会の見解と提言を紹介しました。日本において「地層処分」を行うことの致命的な欠陥は、万一激しい地殻変動などにより処分場そのものや廃棄物が収容されている容器が破壊されたならば、大規模な核汚染を防ぐために対応策がなく、そのため原発の大事故をはるかに上回る破局的事態にいたりかねないということですが、「地層処分」関するこれら三者の見解は、その方向性に関してほぼ一致しているということができるのではないでしょうか。すなわち、1)政府は現行の最終処分に関する法律に基づいて「地層処分」を行うことを決定し、計画を推進しつつあるものの、十万年もの想像を絶する長期にわたり「地層処分」を行っても安全であるとする政府の見解は科学的根拠を欠いたものであるため、「地層処分」を前提としている現行の最終処分法を廃止し、高レベル廃棄物の最終処分の方法を一から検討しなおすこと、2)新たな処分方法に関する十分な合意が得られるまでは暫定的に廃棄物を地上で保管すること、3)合意に達するためには、国民的合意を視野に入れて、一部の関係者のみによる合意の場を設けるのではなく、十分に中立的で開かれた広範な討論・審議の場を制度的に保障する必要があること、これらの3点において、上記の三者の見解は一致していると考えられます。
しかし、政府は、2023年4月28日、前述の現行の最終処分法の第3条における基本方針の策定に関する規定に基づき、地層処分を前提とした最終処分の基本方針の改定案をすでに閣議了承しており、この了承に則って、今後はNUMOのみに任せるのではなく、政府が前面に立ち、交付金などの金銭的手段を含めた様々な形で最終処分地選定の作業を押し進めようとしています。このことは最終処分の方法を決定するに際して政府関係者、大手電力会社や原子力関係の事業者、政府の方針に賛成している専門家・学者らなど、直接的な利害関係を有する狭い範囲の利害関係者だけでによる審議を行うのではなく、広く市民も含めた利害関係者による公正で丁寧な議論を積み重ねることが必要であるとする、前述の地質学の専門家ら、日本学術会議、日本弁護士会による提言・要請を全面的に否定するものであることを意味しています。しかし、政府の計画に基づいても、最終的に処分場の場所を決定し建設に着手するまでには、候補地の地質などの調査だけでも20年を要し、処分場の場所が決定されるに至るまでに、さらにかなりの年月を要します。まだ時間はあります。その間に、私たち市民は専門家などと協力して、政府に「地層処分」を断念させることに向けて活動を積み重ねていかなければなりません。
2024年1月10日
《 脱原発市民ウォーク in 滋賀 》呼びかけ人の一人:池田 進
〒520-0812
大津市木下町17-41
電話:077-522-5415
メールアドレス:ssmcatch@nifty.ne.jp
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あけましておめでとうございます。
今年最初の脱原発市民ウォークを1月20日(土)におこないます
(JR膳所駅前広場:午後1時半)。
どなたでも、ご自分のスタイルで自由に参加できます。
寒い中ですが、ご都合のつく方はぜひ足をお運びください。
■■ 核廃棄物を地下深くに埋めて最終的に処分するという国の方針は誤りではないか? ■■
◆地質学の専門家ら有志300人余が、核廃棄物の「地層処分」に根本的な疑問を呈する声明文を発表
→→「世界最大級の地層の変動帯である日本に、核廃棄物の地層処分に適した場所は存在しない」◆
はじめに
原子力発電に伴う最大の問題は、言うまでもありませんが、大規模な事故が生じて人間を含む生物生息環境に取り返しのつかない大規模な被害を与える危険性が常に存在していることです。しかし、事故の問題以外に、たとえ事故が起きなくても、もう一つ、決して避けて通ることができない問題、解決が極めて困難な深刻きわまる問題が存在しています。それは、原子力発電を行えば必ず生じる危険な放射性廃棄物をどのような方法により十分な安全性を伴って最終的に処分するのかという問題です。たとえ原発が廃止されても核廃棄物の最終処分という難題は残ります。
原発を保有している欧米諸国で計画されている放射性廃棄物を最終的に処分するための方法の多くは、地下の深い場所(数百メートルの深さ)に処分場を設け、この処分場に放射性廃棄物が容れられた放射線を通さない容器に収容し、その後、人間が近づくことができないように処分場全体を埋め戻してしまうというものです。いわゆる「地層処分」と称されている方法です。
現在、日本は欧米における計画を見習って「地層処分」を行うことを前提に、使用済み核燃料を再処理した後に生じる高レベル放射性廃棄物の最終処分場を建設することを計画しており、このため政府は現行の最終処分に関する法律に基づき設けた機関が処分場候補地の選定作業を積極的に進めています。
政府が高レベル放射性廃棄物の最終処分の方法として「地層処分」という方法を採用していることの法的根拠としているのは「特定放射性廃棄物(注参照)の最終処分に関する法律」(平成12年法律第117号)(以下「最終処分法」と記す)における規定です。すなわちこの法律の第2条(定義)の2項において「この法律において『最終処分』とは、地下300m以上の政令で定める深さの地層において、特定放射性廃棄物及びこれらによって汚染された物が飛散し、流出し、又は地下に浸透することがないように必要な措置を講じて安全かつ確実に埋設することにより、特定放射性廃棄物を最終処分することをいう」と「地層処分」の定義が定められており、また第3条(基本方針)の1項において「経済産業大臣は、特定放射性廃棄物の最終処分を計画的かつ確実に実施させるため、特定放射性廃棄物の最終処分に関する基本方針を定め、これを公表しなければならない」と定められています。この法律の文言からは、最終処分に関する基本方針は「地層処分」を前提としたものであることが分かります。
(注:「特定放射性廃棄物」という用語は、正確には使用済み燃料の再処理後に生じる高レベル放射性廃棄物を溶融したガラスと混ぜ合わせた後に固体化したものを指します)。
しかしながら、地層処分という方法を核廃棄物の最終処分の方法として採用するためには、激しい地殻変動などにより地下深くに処分された放射性廃棄物を収容している容器が破壊されることなどにより、放射性物質が周囲に漏れ出て地下水により汚染が極めて広範囲に広がるという非常に危険な破局的な事態が生じることを確実に回避することが必要とされます。そのためには、処分場とされる土地の地質が少なくとも数十万年という長期にわたり激しい地殻変動が起きる可能性が極めて小さなものであることが必要とされます。ところが、日本は世界有数の火山国であり、地震の原因となる活断層が多数存在しているなど、日本の地質は欧米大陸などと比べて極めて地殻変動が生じやすいものであるという事実を考えるならば、日本に最終分に適した土地が存在するのか、日本が地層処分を計画することは果たして適切であるのか、疑問を抱かざるを得ません。
地質の専門家たちの中にも日本が地層処分を計画していることを疑問視している方々が少なからずいます。このため昨年の10月30日、日本地質学会会長の経験がある二人の人物を含む地質の専門家ら有志300人余りが、「世界最大級の(地殻)変動帯の日本に、地層処分の適地はない―現在の地層処分計画を中止し、開かれた検討機関の設置を」と題した、日本が高レベル放射性廃棄物の地層処分を行うことに根本的な疑問を呈し、現存の最終処分に関する法律を廃止し、原発政策の根本的見直しを求めるとする声明文を発表しました。この声明の呼びかけ人の代表者は赤井純治氏(元新潟大学)です。
この声明文は発表されたことは一般のメディアでは小さくしか報じられていませんが、呼びかけ人からの要請を受けて、「原子力資料情報室」がその全文を2023年11月21日付けのホームページで公表していました。このため以下に声明全文の内容と補足説明などを記します。ご一読くださり、放射性廃棄物の最終処分という、原発がある限り避けて通ることができない極めて厄介な問題について考え理解を深めてるための一助にして頂ければ幸いです。また、この声明に先立ち、日本学術会議と日本弁護士連合会も最終処分問題に関して、提言や決議を行っているため、その内容についても記しておきます。
【世界最大級の変動体の日本に、地層処分の適地はない。現在の処分計画を中止し、開かれた検討機関の設置を:2023年10月30日―地質の専門家ら有志】
以下に記す声明の内容は、より理解を容易にするために多少リライトして若干の説明を加えています。また、必要な個所に注釈を記しておきました)
現在、高レベル放射性廃棄物(以下、「核のゴミ」と記す)の最終処分場選定の第一段階である「文献調査」が北海道の寿都町と神恵内村で進められ調査結果の報告を待つ段階にあります(2023年5月現在)。文献調査の公募は2002年に開始され、その後2005年には「地層処分の適地・不適地」を示したとする「科学的特性マップ」を公表することにより候補地選定の働きかけを強めています。しかし、この「科学的特性マップ」は適地を示すというよりは、明らかな「不適地」を除外しただけにものに過ぎず、ただ処分地の選定を進めやすくすることを意図したものに過ぎないのではないかと思われる性質ものです。しかし、その後、政府は原発を積極的に推進するためにこれまでの原発政策を大幅に変更し、原子力基本法に原発推進の文言を盛り込むなど関連法規の改定案を国会で成立させており、そのため例えば原子炉の運転期間が延長され60年超の原発の運転が可能になっています。
このような原発推進政策の一環として、核のゴミの地層処分候補地をより広範に募集するために、これまでは「原子力発電環境整備機構」(NUMO:注参照)のみが行ってきた募集作業を、今後はより広範な地域を対象として、関連する政府の諸機関が一体となって主導し推進するとしています。このため今後、全国の様々な地域で核のゴミの処分を巡る議論が起きることが考えられます。
核のゴミは、その放射能が天然のウラン鉱石と同程度のレベルになるまでに10万年を要するとされており、このため、地下300mに10万年間埋設されることになるとされています。しかし、火山国・地震国とも言われ、地殻変動が活発に日本において、10万年ものあいだ核のゴミを地下に安全に埋設できる場所があるのでしょうか。私たちは地球科学を専門とする研究・技術・教育の現場に携わる立場から、以下に示す理由に基づき核のゴミを地層処分する計画の抜本的見直しを求めるものです。
〈理由1〉:日本の地質条件を無視した最終処分に関する法律
核のゴミを地層処分することは2000年5月に国会の議決により制定された「特定放射性廃棄物の最終処分」に関する法律」(以下「最終処分法」と記す)に基づいて決定されました。次いで2000年10月に、地層処分を行う事業主体として「原子力発電環境整備機構」が設立されました。政府がこの法律を国会に提出したのは、1980 年代からの地層処分政策の延長として、1999 年に核燃料サイクル開発機構(現日本原子力研究開発機構)が作成した「我が国における高レベル放射性廃棄物地層処分の技術的信頼性─地層処分研究開発第2次取りまとめ─」が総理府原子力委員会(2001 年からは内閣府)に提出され、そこに地層処分が技術的に実現可能であると述べられていたことによるものです。その根拠は、1984 年に出された総理府原子力委員会放射性廃棄物対策専門部会中間報告書の「放射性廃棄物処理処分方策について」において、「地質条件に対応して必要な人工バリア設計で、地層処分システムとしての安全性を確保できる見通しが得られた」というものです。つまり未固結(注参照)の堆積物だけを除き、岩石の種類を特定しなくても、地質条件に対応した人工バリア技術で安全性が確保できるというものでした。人工バリア(人工の障壁)とは、以下のようなものです(注:未固結=土粒相互間の結合力が弱く、土粒子の分離が比較的容易である状態)。
まず、使用済み核燃料を直径40cm、高さ130 cmの円柱状のガラス固化体に封じ込め、それを厚さ20 cmの金属(炭素鋼)で覆い、さらに70 cmの粘土(ベントナイト)で覆います。これが「人工バリア」です。ガラス固化体は、製造当初は人が1メートル離れた場所に数10秒いるだけで死に至るほどの強い放射線を出します。最終的には、合計4万本を地下300m以深の処分地に置く計画であるとされています。しかし、人工バリアの安全性は実験段階であり、安定状態での仮説でしかありません。極めて長期に渡り強い放射線を浴び続けるものが日本のような地質条件の中で強い放射線のバリアとして機能し続けることは誰も保障できません。
日本の地質条件は果たして地層処分に適したものでしょうか。現在、地下の岩盤に核のゴミを貯蔵・処分する地層処分は、世界の国々で検討されています。フィンランドは世界で唯一処分場を建設中であり、スウェーデンでは処分場の場所が決定されています。北欧の地質条件は、楯状地(注1参照)である原生代(注2参照)の変成岩・深成岩であり、地震活動がほとんど起こらない安定陸塊(注3参照)であるのに対し、日本列島は複数のプレート(注4参照)が収束する火山・地震の活発な変動帯です。そのような地質条件の違いを無視して、北欧の地層処分と同列に扱い、人工バリア技術で安全性が保障されるとみなすのは論外と言わねばなりません。
(注1:楯状地=一般的に、構造地質学的に安定している、先カンブリア時代の結晶質火成岩と高度変成岩が露出する広い地域を指す。先カンブリア時代=地球上で研究できる最古の岩石の年齢である38億~40億年前に至る約34億年が「先カンブリア時代」と称されています)
(注2:原生代=真核単細胞生物から硬い骨格を持った多細胞生物 の化石が多数現れるまでの25億年前?約5億4,100万年前の時期を指す)
(注3:安定陸塊=長い間地殻変動を受けなかった地帯)
(注4:プレート=地球の表面を覆う、十数枚の、厚さ100kmほとの岩盤のこと)
〈理由2〉地殻変動の激しい、安定地塊でない日本列島
火山国とも地震国とも言われる日本は、地殻変動が極めて活発です。世界最大級の変動帯(注1参照)の日本において、今後10万年ものあいだ、核のゴミを安定的に保存できる場所を選定できないことは地球科学を学ぶ者にとっては、容易に理解できることです。変動帯であるがゆえに、構造運動の影響も受けやすく、岩盤も不均質で亀裂も発達し、脆弱な個所もみられ、割れ目に地下水が存在しやすくなります。火山活動と地震活動は、太平洋プレート、北米プレート、ユーラシアプレート、フィリピン海プレートがそれぞれ衝突・沈み込むことによる巨大で複雑な力を背景に発生していますが、日本はこれらの四つのプレートの境界という地球上で最も地殻変動が活発な地域に位置しています。活断層は、このような構造運動を原因とする上部地殻のひずみの集中域で発生する地震活動の現れと考えられます。その分布については研究がかなり進んでいるにもかかわらず、活断層が確認されていないところでも、しばしば大きな地震が発生しています。たとえば、2018 年の北海道胆振東部地震(M6.7)は、活断層である石狩低地東縁断層帯の東側約 15km、しかも 20~40 km の上部マントル(注2)に達する深度で発生しました。地下深部の地下水は、一般的にはきわめて流速が遅いと言われていますが、もしこのような地震が処分場を直撃したら、周辺の地質条件の変化で、いかようにも流動・流速に変化を生じ、人工バリアに亀裂が発生し、周囲の岩盤の無数の割れ目や断層に沿って地下水とともに放射性物質が漏れ出すことは避けられません。激しい変動帯の下におかれている日本列島において、今後 10 万年間にわたる地殻の変動による岩盤の脆弱性や深部地下水の状況を予測し、地震の影響を受けない安定した場所を具体的に選定することは、現状では不可能といえます。
(注1:変動帯=活発な地殻変動や火山活動がみられる帯状の地帯。プレートの境界に沿ってみられるとされている)
(注2:上部マントル=地表から5~60kmに位置する「地殻」の下方に位置する、「マントル」と称される地層における上部の部分)
〈提言3〉最終処分法の廃止と原発政策の見直しを
以上に述べた理由から、核のゴミを地下300メートル以深に埋設する最終処分法は、プレート境界域である活発な変動帯の地質条件を無視した、人口バリア技術を過信した法律に基づくものであると言わざるを得ず、このため抜本的な見直しが必要です。
日本学術会議は2012年9月に、原子力委員会からの審議依頼に対する回答を公表しています。その中で、超長期にわたる安全性と危険性に対処するにあたり、現時点での科学的知見には限界があるとして、核のゴミを地層処分することを前提とした従来の政策の抜本的見直しを求め、暫定保管と放射性廃棄物の総量管理を柱として、政策の枠組みを再構築することを提案しています。暫定保管というのは、一定期間地上で保管することを意味しています。この地上での保管の期間中に、核のゴミの最終処分の方法を確立する必要があります。総量規制とは、放射性廃棄物の量をこれ以上増やさないために、厳しく量の規制を行うことを意味しています。
これらの検討経過を見るならば、科学的根拠に乏しい最終処分法を廃止し、地上での暫定保管を含む原発政策の見直しを視野入れ、地層処分ありきの従来の政策を検討しなおすべきです。再検討にあたってはて、地球科学にたずさわる科学者、技術者、専門家の意見表明の機会を、日本学術会議などと協力しながら十分に保障することが欠かせません。さらに、中立で開かれた第三者機関を設置し、広く国民の声を集約して結論を導くことが重要だと考えます。
・・・・・・・・・・・
以上が地学の専門家ら有志300人による声明の全文の内容です。この声明は、一言で要約すれば、「日本は世界有数の火山国・地震国であり、このため欧州大陸などとは異なり、地震などにより地殻変動が生じる確率が高いため、十万年もの長期にわたり核廃棄物を安全に保管することが可能な処分場の適地が日本に存在しているとは考えられない。このため地層処分という国の従来の方針を撤回し、暫定的な地上での保管を視野に入れ、地上保管の間に、地球科学の専門家などをはじめとして各方面の協力を得て、地層処分ありきという従来の方針の見直しを行うべきである」というものです。
この地学の専門家らによる声明文において、日本学術会議が核廃棄物の最終処分に関する提言を過去に(2012年9月11日)行っていると記されていますが、学術会議だけではなく、昨年9月には、日本弁護士連合会も地層処分に関する決議を行っています。このため、以下に日本学術会議の提言(原子力委員会からの審議依頼に対する回答)ならびに日本弁護士連合会の決議について、その概要を紹介します。なお、日本学術会議は上記の提言を行った後、2015年4月に、2012年9月の原子力委員会に対する回答に関してより具体的方策を提言としてとりまとめ公表しています。
日本学術会議の原子量委員会に対する回答(提言内容)は詳細な内容を伴った長文のものであるため、冒頭の「要旨」として示されている部分を中心に、その概要を以下に記します。(出典:日本学術術会議のホームページ)
【日本学術会議の高レベル放射性廃棄物の処分に関する原子力委員会への回答:背景と提言、2012年(平成24年)9月11日:日本学術会議】
回答作成の背景: 2010 年9月、日本学術会議は、内閣府原子力委員会委員長から日本学術会議会長宛に、「高レベル放射性廃棄物の処分に関する取組みについて」と題する審議依頼を受けた。高レベル放射性廃棄物の処分に関しては、「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」に基づく基本方針と最終処分計画に沿って、関係行政機関や原子力発電環境整備機構(NUMO)などにより、文献調査開始に向けた取組みが行われてきているが、文献調査開始に必要な自治体による応募が行われない状態が続いている。原子力委員会委員長からの依頼は、「高レベル放射性廃棄物の処分に関する取組みについての国民に対する説明や情報提供のあり方について審議」を求めたものであった。
この依頼を受け、第21期の日本学術会議は、2010 年9月 16 日に課題別委員会「高レベル放射性廃棄物の処分に関する検討委員会」を設置し、設置期限の 2011 年9月末日までに、内閣府原子力委員会に対する回答を作成することを目標とし た。しかし、委員会発足から約半年後の2011 年3月 11 日、東日本大震災が発生し、これに伴う東京電力福島第一原子力発電所事故により、わが国では、これまでの原子力政策の問題点の検証とともに、エネルギー政策全体の総合的見直しが迫られることとなった。そこで同委員会は、このような原子力発電所事故の影響およびエネルギー政策の方向性を一定期間見守ることが必要と考え、それまでの審議を記録「中間報告書」として取りまとめて第 22 期の「高レベル放射性廃棄物の処分に関する検討委員会」に審議を引き継いだ
《原子力委員会への提言》
提言の内容:本委員会は以下の6つを提言する。なお、これらの提言は、原子力発電をめぐる大局的政策についての合意形成に十分取組まないまま高レベル放射性廃棄物の最終処分地の選定という個別的課題について合意形成を求めるのは、手続き的に逆転しており手順として適切でない、という判断に立脚している。
提言1:高レベル放射性廃棄物の処分に関する政策の抜本的見直し
これまでの高レベル放射性廃棄物処分に関する政策は、2000 年に制定された 「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」に基づき進められてきたが、今日に至る経過を反省してみるとき、基本的な考え方と施策方針の見直しが不可欠である。これまでの政策枠組みが、各地で反対に遭い、行き詰まっているのは、説明の仕方の不十分さというレベルの要因に由来するのではなく、より根源的な次元の問題に由来することをしっかりと認識する必要がある。また、原子力委員会自身が 2011 年9月から原子力発電・核燃料サイクル総合評価を行い、使用済み核燃料の「全量再処理」という従来の方針に対する見直しを進めており、その結果もまた、高レベル放射性廃棄物の処分政策に少なからぬ変化を要請するとも考えられる。これらの問題に的確に対処するためには、従来の政策枠組みをいったん白紙に戻すくらいの覚悟を持って、 見直しをすることが必要である。
提言2:科学・技術的能力の限界の認識と科学的自律性の確保
地層処分をNUMO に委託して実行しようとしているわが国の政策枠組みが行き詰まりを示している第一の理由は、超長期にわたる安全性と危険性の問題に対処するに当たって、現時点での科学的知見には限界があるということである。安全性と危険性に関する自然科学的、工学的な再検討にあたっては、自律性のある科学者集団(認識共同体)による、専門的で独立性を備えた、疑問や批判の提出に対して開かれた討論の場を確保する必要がある。
提言3:暫定保管および総量管理を柱とした政策枠組みの再構築
これまでの政策枠組みが行き詰まりを示している第二の理由は、原子力政策に関する大局的方針についての国民的合意が欠如したまま、最終処分地選定という個別的な問題が先行して扱われてきたことである。広範な国民が納得する原子力政策の大局的方針を示すことが不可欠であり、そのためには、多様なステークホルダー(利害関係者)が討論と交渉のテーブルにつくための前提条件となる、高レベル放射性廃棄物の暫定保管 (temporal safe storage)と総量管理の2つを柱に、政策枠組みを再構築することが不可欠である。
提言4:負担の公平性に対する説得力ある政策決定手続きの必要性
これまでの政策枠組みが行き詰まりを示している第三の理由は、従来の政策枠組みが想定している廃棄物処分方式では、受益圏と受苦圏が分離するという不公平な状況をもたらすことにある。この不公平な状況に由来する批判と不満への対処として、電源三法交付金などの金銭的便益提供を中心的な政策手段とするのは適切でない。金銭的手段による誘導を主要な手段にしない形での立地選定手続きの改善が必要であり、負担の公平/不公平問題への説得力ある対処と、科学的な知見の反映を優先させる検討とを可能にする政策決定手続きが必要である。
提言5:討論の場の設置による多段階合意形成の手続きの必要性
政策決定手続きの改善のためには、広範な国民の間での問題認識の共有が必要であり、多段階の合意形成の手続きを工夫する必要がある。前述の暫定保管と総量管理に関する国民 レベルでの合意を得るためには、様々なステークホルダーが参加する討論の場を多段階に設置すること、公正な立場にある第三者が討論過程をコーディネートすること、最新の科学的知見が共有認識を実現する基盤となるように討論過程を工夫すること、ならびに合意形成の程度を段階的に高めていくことが必要である。
提言6:問題解決には長期的な粘り強い取組みが必要であることへの認識
高レベル放射性廃棄物の処分問題は、千年・万年の時間軸で考えなければならない問題である。民主的な手続きの基本は十分な話し合いを通して合意形成を目指すものであるが、とりわけ高レベル放射性廃棄物の処分問題は、問題の性質からみて、時間をかけた粘り強い取組みを実現していく覚悟が必要である。限られたステークホルダーの間での合意を軸に合意形成を進め、これに当該地域への経済的な支援を組み合わせるといった手法は、かえって問題解決の過程を紛糾させ、行き詰まりを生む結果になることを再確認しておく必要がある。また、高レベル放射性廃棄物の処分問題は、その重要性と緊急性を多くの国民が認識する必要があり、長期的な取組みとして、学校教育の中で次世代を担う若者の間でも認識を高めていく努力が求められる。
・・・・・・・・・・・
以上が高レベル放射性廃棄物の最終処分に関する、日本学術会議による原子力政策の決定過程の現状に関する問題点の指摘と今後の取り組みに関する具体的提言の内容です。一方、先述の地学の専門家らによる声明は、「質学的に観て日本の最終処分場を設けるための、近くが十分に安定している適地は日本には存在していない。このため現行の人工バリア技術で安全性が確保できると見なすのは論外」という地質学的観点に前提とし、現行の最終処分法の廃止し「地層処分ありき」とする従来の政策を再検討すること、ならびに再検討にあたっては「地上での暫定保管を行うこと、放射性廃棄物を総量規制すること」(この「暫定保管」と「総量規制に」に関する部分は上述の学術会議による提言を踏まえたものであると推測されます)を視野に入れて、広範な関係者(科学者、専門家、技術者など)の意見表明の機会を保障すること)、中立的な第三者機関を設け国民の声を集約して結論を導くことなどを求めたものです。このため、学術会議の原子力委員会に対する回答の内容は、大筋において、「日本には最終処分場の適地は存在していない」とまでは言い切っていないものの、地学の専門家らによる声明の内容と共通している部分が多いのですが、学術会議による提言内容の底流にあるのは、これまでの様々な原子力政策と政策を実行するための方針を決定する過程に対する本質的な厳しい批判です。すなわち、「東日本大震災により2011年3月11日に東京電力福島第一原発が大事故を起こしたことにより、わが国ではこれまでの原子力政策の問題点の検証と共に、エネルギー政策全体の総合的見直しを迫られることになった」という現状認識と真摯な反省に基づき、「原子力発電をめぐる大局的政策についての合意形成に十分取組まないまま高レベル放射性廃棄物の最終処分地の選定という個別的課題について合意形成を求めるのは、手続き的に逆転しており手順として適切でない」と厳しく批判したうえで、「超長期にわたる安全性と危険性の問題に対処するに当たって、現時点での科学的知見には限界がある」という認識を明確に示しています。
また、提言内容は地質の専門家などによる声明におけるよりも一段と具体的かつ明確なものであり、広い視野に立ったものです。たとえば、暫定保管(最終処分の方法が適切に決定されるまで、一定期間、地上の暫定的に地上で保管すること)と放射性廃棄物の総量規制を行う必要があることがより明確に示されており(注参照)、一方において、現存の科学的知見では限界がある超長期にわたる安全性と危険性に関して検討することを目的として自律性のある科学者集団による開かれた討論の場を確保することの必要性を指摘しています。それだけではなく、最終的な合意に形成に関しても、これまで政府が行ってきた手法の問題点を極めて具体的に指摘したうえで提言を行っています。すなわち、これまで最終処分問題だけでなくその他の原発問題に関して政府が行ってきたような限られた関係者のみによる合意を軸に合意形成を進めるという手法は、問題解決の過程を紛糾させ、行き詰りを生む結果に終わるだけであるため避けるべきであると厳しく批判したうえで、最終処分の方法が決定されるに至るまでの合意形成の具体的な手法と過程が極めて重要であること、討論の場の設置により多段階を経ての合意を形成するが必要であることを強調しています。
(注:日本学術会議は上記の原子力委員会に対する回答を行った後、2015年4月24日に、「高レベル放射性廃棄物の処分に関する提言―国民的合意形成に向けた暫定保管」と題された提言を公表しており、その中で「(地上での)暫定保管の期限は原則50年とし、最初の30年までを目途に、最終処分のための合計形成と適地の選定、さらに立地候補地選定を行い、その後20年内を目途に処分場を建設する」という具体的内容を有する方策を示しています。この文面からは、いかなる科学的条件・手段によるのかは別として、結局のところ、場合によっては「地層処分」という方法を選択することもあり得るのではないか
とも考えられます。そうであるとするならば、先述の地質の専門家らによる「地層処分は、日本には適地が存在しないため認められない」とする声明と学術会議の提案の内容は異なっていることになります。ただ、日本学術会議が指している「適地」が「地層処分」のみを意味しているものであるの否かは定かではありなせん。大地震などにより放射線が漏れ核汚染が広範囲に及ぶなどの重大な事態が生じることが懸念される場合に人間の手で対応するため、人間が近づくことができるように、地下深くではなく、地上あるいは比較的浅い地下に処分場を設けるという方法など、将来的に搬出があり得ることを視野にいれた処分場も考えられるからです)。
次に、20239月30日に、日本弁護士連合会が現行の地層処分という方針の見直しを求める決議を行っているため、先述の地質の専門家らによる声明と日本学術会議による原子力委員会への回答・政策提言と内容的に重なりあう部分が多いのですが、その概要を紹介しておきます。
【高レベル放射性廃棄物の地層処分方針の見直し、将来世代に対し責任を持てる持続可能な社会の実現を求める決議:2022年9月30日、日本弁護士連合会】(出典:日弁連のホームページ)
〈決議文の概要〉
必然的に放射性廃棄物を生み出す原子力エネルギーの利用や地球温暖化による気候危機は、いずれも将来世代に対しリスクや負担をもたらすものであり、持続可能な社会とは相容れないものである。
当連合会は、すでに1967年に原子力エネルギーの危険性について懸念を表明したが、2011年に福島第一原子力発電所事故が発生した後、2013年の第56回人権擁護大会において、既設の原子力発電所についてできる限り速やかに全て廃止することを決議し、2014年の第57回人権擁護大会において高レベル放射性廃棄物の地層処分方針を撤回することを求めるなど、一貫して人の生命・身体の安全や環境に対する重大な脅威をもたらす原子力エネルギーの利用に反対してきた。
原子力発電に関しては、その危険性もさることながら、処分困難な高レベル放射性廃棄物をこれ以上生み出し続けることは到底容認できない。長期にわたり強い放射能を有する高レベル放射性廃棄物は、現在の科学的・技術的知見では、日本において将来にわたり安全性を確保できる地層処分を行うことは困難である。高レベル放射性廃棄物の処分方針については、科学的・技術的知見の進展と世代間倫理を踏まえ、国民的議論を経て決める必要がある。
1 国及び地方自治体は、気候危機問題、エネルギー政策及び原子力政策において、世代間の公平性と将来世代の人権に配慮し、短期的な利益追求や課題への対処にとらわれずに政策決定をすべきである。
2 国と原子力発電事業者・核燃料の再処理業者等は、使用済み核燃料を含む高レベル放射性廃棄物について、以下の方策をとるべきである。
(1)再処理施設等の核燃料サイクルを速やかに廃止すること。
(2)使用済み核燃料については、原発をできる限り速やかに廃止してその総量を確定させ、また、再処理せず直接処分すること。
(3)地層処分を前提とする現行の最終処分に関する法律を一旦廃止し、一時的な保管を含む廃棄物の処分方針について、
以下の内容を踏まえた新たな枠組みを持つ法制度を設け、処分方針は同制度の下で合意した内容を基本とすること。
①新たな法制度に基づく会議体等は、高い独立性を有し、多様な意見や学術分野の知見を反映するような人選とし、
その人選については公開性・透明性が確保されること。
②十分な情報公開の下、市民が意見を述べる機会が保障され、話合いの過程を公開・記録し、後日、意思決定過程が
検証できるようにするなど、市民の参加権・知る権利を保障すること。
③会議等の議論においては複数の選択肢及びそれぞれの選択肢のリスクと安全性を示すこと。
④将来世代の利益・決定権を不当に侵害しないよう、一定期間ごとに処分方針の見直しをおこない、
いつでも従前の方針を全面的に変更することができる制度とすること。(以下省略)
・・・・・・・・
以上が日弁連の決議の概要です。上記の内容から分かるように、日弁連は当初から原発技術が有する危険性を懸念しており、福島第一原発の事故後、2013年に既存原発の全廃、2014年に高レベル放射性廃止を地層処分するという方針に対する反対を表明しており、このように「一貫して人の生命・身体の安全や環境に対する重大な脅威をもたらす原子力エネルギーの利用に反対してきた」ことを踏まえて、さまざまな提言を行っていますが、その内容は大筋において前述の地質学の専門家らによる声明、日本学術会議の提言と実質的に大差がないものであると考えられます。ただ、日弁連の場合は、再処理施設などの核燃サイクルを廃止し、使用済み核燃料は、再処理は行わずに、そのまま直接処分(注:核燃料を一回使用したきりにして、再利用を行わずに最終処分に供するという、いわゆる「ワンスルー」方式での処分)すべきであると明言しています。この「直接処分」か「再処理を経ての処分か」という問題点に関する三者の見解の差異は必ずしも明らかではありません。日弁連は再処理を否定していますが、学術会議は「全量再処理という方針は問題である」と指摘するに留まっており、一方、地質学の専門家らによる声明はこの問題点には特には触れていません。しかし、核廃棄物の最終処分問題を考える場合、一番のポイントが「地層処分か否か」という問題であることは言うまでもないものの、「直接処分か再処理後の処分か」という点も、今後の原発政策に極めて大きな影響を与えるため、その意味で非常に非常に重要な問題点であり、今後議論が積み重ねられることが必要であると考えられます。
おわりに
以上、高レベル放射性廃棄物の最終処分に関する、政府が進めつつある使用済み燃料の再処理により生じる高レベル廃棄物を地下深くに埋設するという処分方法に対する地質の専門家ら、日本学術会議、日本弁護士連合会の見解と提言を紹介しました。日本において「地層処分」を行うことの致命的な欠陥は、万一激しい地殻変動などにより処分場そのものや廃棄物が収容されている容器が破壊されたならば、大規模な核汚染を防ぐために対応策がなく、そのため原発の大事故をはるかに上回る破局的事態にいたりかねないということですが、「地層処分」関するこれら三者の見解は、その方向性に関してほぼ一致しているということができるのではないでしょうか。すなわち、1)政府は現行の最終処分に関する法律に基づいて「地層処分」を行うことを決定し、計画を推進しつつあるものの、十万年もの想像を絶する長期にわたり「地層処分」を行っても安全であるとする政府の見解は科学的根拠を欠いたものであるため、「地層処分」を前提としている現行の最終処分法を廃止し、高レベル廃棄物の最終処分の方法を一から検討しなおすこと、2)新たな処分方法に関する十分な合意が得られるまでは暫定的に廃棄物を地上で保管すること、3)合意に達するためには、国民的合意を視野に入れて、一部の関係者のみによる合意の場を設けるのではなく、十分に中立的で開かれた広範な討論・審議の場を制度的に保障する必要があること、これらの3点において、上記の三者の見解は一致していると考えられます。
しかし、政府は、2023年4月28日、前述の現行の最終処分法の第3条における基本方針の策定に関する規定に基づき、地層処分を前提とした最終処分の基本方針の改定案をすでに閣議了承しており、この了承に則って、今後はNUMOのみに任せるのではなく、政府が前面に立ち、交付金などの金銭的手段を含めた様々な形で最終処分地選定の作業を押し進めようとしています。このことは最終処分の方法を決定するに際して政府関係者、大手電力会社や原子力関係の事業者、政府の方針に賛成している専門家・学者らなど、直接的な利害関係を有する狭い範囲の利害関係者だけでによる審議を行うのではなく、広く市民も含めた利害関係者による公正で丁寧な議論を積み重ねることが必要であるとする、前述の地質学の専門家ら、日本学術会議、日本弁護士会による提言・要請を全面的に否定するものであることを意味しています。しかし、政府の計画に基づいても、最終的に処分場の場所を決定し建設に着手するまでには、候補地の地質などの調査だけでも20年を要し、処分場の場所が決定されるに至るまでに、さらにかなりの年月を要します。まだ時間はあります。その間に、私たち市民は専門家などと協力して、政府に「地層処分」を断念させることに向けて活動を積み重ねていかなければなりません。
2024年1月10日
《 脱原発市民ウォーク in 滋賀 》呼びかけ人の一人:池田 進
〒520-0812
大津市木下町17-41
電話:077-522-5415
メールアドレス:ssmcatch@nifty.ne.jp
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