先の大愚言にて、むかし書いた戯話を発表したところ、思いの外、好評を博したので第二弾を余興として掲載する。
読切戯話 記憶喪失
「月刊パック」第二号(昭和四十七年八月二十日発行)掲載
「モシ、モシ、阿久津の兄貴ですか?」
「おう、健か・・・どうだい、あのコトはうまくいっているかい?」
「へえ、そりゃあ・・・あっしは、ドジを踏まないス!」
と、健は自信たっぷりに言葉をつづけた。
「奴等は、あっしが記憶喪失症になって、盗んだ3億円の隠し場所をすっかり忘れたと頭から信じていますよ。バカな奴等でさあ・・・」と、含み笑いをした。
「そうかい。すると、お前達三人が稼いだ3億円は俺とお前の山分けって事になるな。」
受話器を通して、血色のいい阿久津の顔がだらしなくほころびているのが感じられた。
「で、この金はどこへ隠したのだ?」
「それが兄貴、あっしは金を隠してホテルに帰ってきた時、足を踏みはずして階段から転がりおちましてね」
健は、ニヤニヤ笑いながら言葉をつづけた。
「その時、頭の打ち所が悪かったんでしょう、それ以来どうも記憶がぼやけて金の隠し場所を忘れましてね」
「バカヤロー、ふざけやがって!それとも俺を裏切るってぇのかい‼」
阿久津は鼓膜の破れそうな大声でどなった。
「め、滅相もねえ。なんであっしが兄貴を裏切ったりなんぞするもんですか。冗談ですよ、安心してくだせえ」
と、健はどもりながら弁解した。
「そうか、つい大きな声を出してしまってすまなかったな。だが、念のために金の隠し場所を聞いておかないとな・・・」
阿久津が気をとり直して金の隠し場所を聞こうとした時、ドアの外で話声が聞こえた。
「あ、奴等が帰ってきたようですから切りますよ。また、後で電話します。」
健はあわてて受話器をおいた。
「しかし、こんな金槌で殴って記憶喪失が直るのかい」
「お前、馬鹿だな。これがショック療法っていうんだよ。それとも病院にでもつれていけっていうのかい」
二人はそんな事を話しながら部屋に入ってきた。
「健、よろこべよ。お前の記憶を取り戻してやるからな。」
と、言いながら健を羽交いじめにした。
「おい!何するんだ、やめてくれ!」
と、健は絶叫したが羽交いじめにされていては、どうにも身動きがとれなかった「ガーン」と鈍い音が頭上でして火花が散った。目の前が真っ暗になって意識がうすれていくのを感じた。
「ど、どうなっているんだ・・・俺はこんなところで何をしているのだ・・・あんた達は誰だ・・・」
と、意識の戻った健がうつろな目で言った。健は金槌で殴られたショックで本当の記憶喪失になってしまったのだ。
「なんだ、やっぱり直らないじゃないか」
「うーん、前よりひどくなったようだな・・・」
(平成二十八年十月三十一日認)
読切戯話 記憶喪失
「月刊パック」第二号(昭和四十七年八月二十日発行)掲載
「モシ、モシ、阿久津の兄貴ですか?」
「おう、健か・・・どうだい、あのコトはうまくいっているかい?」
「へえ、そりゃあ・・・あっしは、ドジを踏まないス!」
と、健は自信たっぷりに言葉をつづけた。
「奴等は、あっしが記憶喪失症になって、盗んだ3億円の隠し場所をすっかり忘れたと頭から信じていますよ。バカな奴等でさあ・・・」と、含み笑いをした。
「そうかい。すると、お前達三人が稼いだ3億円は俺とお前の山分けって事になるな。」
受話器を通して、血色のいい阿久津の顔がだらしなくほころびているのが感じられた。
「で、この金はどこへ隠したのだ?」
「それが兄貴、あっしは金を隠してホテルに帰ってきた時、足を踏みはずして階段から転がりおちましてね」
健は、ニヤニヤ笑いながら言葉をつづけた。
「その時、頭の打ち所が悪かったんでしょう、それ以来どうも記憶がぼやけて金の隠し場所を忘れましてね」
「バカヤロー、ふざけやがって!それとも俺を裏切るってぇのかい‼」
阿久津は鼓膜の破れそうな大声でどなった。
「め、滅相もねえ。なんであっしが兄貴を裏切ったりなんぞするもんですか。冗談ですよ、安心してくだせえ」
と、健はどもりながら弁解した。
「そうか、つい大きな声を出してしまってすまなかったな。だが、念のために金の隠し場所を聞いておかないとな・・・」
阿久津が気をとり直して金の隠し場所を聞こうとした時、ドアの外で話声が聞こえた。
「あ、奴等が帰ってきたようですから切りますよ。また、後で電話します。」
健はあわてて受話器をおいた。
「しかし、こんな金槌で殴って記憶喪失が直るのかい」
「お前、馬鹿だな。これがショック療法っていうんだよ。それとも病院にでもつれていけっていうのかい」
二人はそんな事を話しながら部屋に入ってきた。
「健、よろこべよ。お前の記憶を取り戻してやるからな。」
と、言いながら健を羽交いじめにした。
「おい!何するんだ、やめてくれ!」
と、健は絶叫したが羽交いじめにされていては、どうにも身動きがとれなかった「ガーン」と鈍い音が頭上でして火花が散った。目の前が真っ暗になって意識がうすれていくのを感じた。
「ど、どうなっているんだ・・・俺はこんなところで何をしているのだ・・・あんた達は誰だ・・・」
と、意識の戻った健がうつろな目で言った。健は金槌で殴られたショックで本当の記憶喪失になってしまったのだ。
「なんだ、やっぱり直らないじゃないか」
「うーん、前よりひどくなったようだな・・・」
(平成二十八年十月三十一日認)