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又常にはいぢめながら、時によつて可愛がるふりをする様な人にもすぐかみついた。
「みの」はさういふ一徹な犬で、結局、家の人にしか馴れなかつた。頴川《えいせん》の水に耳を洗ひ首陽山にワラビをとつた、支那の忠臣の気持とどこか似通ふものがあるではないか。
私たちのしつけが悪くて、あんなに利口ないゝ犬を、弱くしてしまつたのはすまなかつた。たしかに「みの」は弱かつた。が、しかし、敗けても向つて行つた、あの強い烈しい気性が忘れられない。そして静かに死んで行つた。
何年間にも亘つて、部落を荒し廻り、暴れ廻り、遂に捕へられて静かに死んで行つた狼王ロボーの話を思ひ出す。
「みの」の一生は華やかだつた。たとへてみるなら英雄ナポレオンみたいな生涯だつた。英雄! さうだ英雄だ。「みの」は英雄だつた。私はさう思ふ。
さうして、「どうぞ、今度は日本人に生れ代らしてやつて下さい」と祈つた。
外ではこほろぎがきれいな声でないてゐた。
(完)
底本:「みの 美しいものになら」四季社
1954(昭和29)年3月30日初版発行
1954(昭和29)年4月15日再版発行
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読んで頂きありがとうございました。
さて、どうでしたか?
色々、考えてしまう自分が居ましたね。
この作品を小学生、高学年くらいの子供達に読ませてあげたいですね。
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