珈琲の木は雨が好き

炭火焙煎珈琲のお店で起こるお客さんとのエピソード

おとぎ話 3

2013年08月31日 14時21分12秒 | Weblog
   「イノシシの次郎」

山沿いの細い道を下ってくるトラックに
一直線に山から走り下りる次郎でした

トラックの来る道に降り立った次郎は
牙は折れ 鼻や口から血を流し 顔や体の皮は剥げ
立っているのが精いっぱい

でも前から来るトラックに正面から走り出しました
一瞬避けようとしたトラックにドカン!
トラックもはずみで側道の木へドン!

次郎は跳ね飛ばされて 谷底へ転がり落ちながら
自分への無力さ 力の無さを恨み
再び会えない悲しさだけを悔やんで死んでいったのです 

話は少し前の事です

隣の山から1匹のメスイノシシが子供のウリ坊を
連れながら逃げてきました
隣の山ではエサがなく仲間はどんどん死んでいったそうです
次郎はやせ細ったメスイノシシにエサを食べさせ
面倒を見てやることにしました

次郎は生まれながら1匹で生きてきました
生まれて直ぐに 親は人間に銃で打たれて殺されました
それ以来 イノシシの仲間を見るのは初めての次郎は
メスイノシシ親子を一生懸命に介護し
気が付くと好きになっていたのかもしれません

メスイノシシも次郎を信頼し次郎と一緒に生きることを
望むようになっていました
一度に家族が増えた次郎は自分のエサを全部親子に
与え続けても毎日が楽しく
今までの孤独な自分には戻れないと思っていました

そんな時の出来事です
ウリ坊が間違えて人里の近くへ迷い入ってしまいました
メスイノシシはあわてて連れ戻そうと後を追った時です
仕掛けてあった罠に親子で捕まってしまいました

メスイノシシの泣き声に気付いた次郎も
罠のところまで来て助けようとしました
檻に体当たりでガシャン!ガシャン!と何度も何度も

メスイノシシは
「ありがとう!でも もうダメだから
あなただけでも 逃げてください」

次郎は 無言で何度も何度も体当たりを繰り返しました
牙が折れ鼻や口からも血が飛び散りながらも
体当たりを繰り返しました
自分の母イノシシが人間に殺されたことを思うと
親子の命も無くなると必死でした
檻で傷つく体は皮が破れ 肉はちぎれてもです

やがて物音に気付いた 人間がやって来たと思ったら
銃声が1発 ダーン!
背中に激痛を受けた次郎はその場で倒れました

人間たちは次郎をみながら
「そんなガリガリのオスの肉は臭いし固いし
毛皮も穴が空いてボロボロだから捨てて行くぞ」
「メスとウリ坊だけで肉は十分だ!」

檻のまま乗せるとトラックは走り出しました
「次郎さ~ん!!」メスイノシシは悲鳴のように
次郎の名を何度も何度も呼びながら泣き続けました

次郎はすでに意識は無かったのかもしれませんが
立ち上がると 一目散へトラックに向かって
山の木々の中を走り出し 転がり落ちるように
山の中から道の真ん中へ飛び出して

次郎は止まることなくトラックへ向けて走り出しました
「返せ~!」その一言と共にトラックのフロントガラスへ
次郎は弾き飛ばされてそのまま崖下へ

トラックはハンドルを切ったせいで木にぶつかって止まりました
ただその反動で荷台の檻が道へ落下して檻が壊れ
親子のイノシシは逃げ出すことが出来ました

山の中 次郎の元へ逃げて行きました
親子には次郎が助けてくれたことは見えていなかったので
崖下へ落ちて行った次郎の事は知る由もありません
次郎も逃げ出して山へ戻って行った親子の事は知りません

イノシシの親子はいつまでも いつまでも次郎を探していたそうです
めでたし めでたし

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。