札幌〜福岡間の約2100kmを40時間以上かけて走るJR貨物の最長距離貨物列車。その乗務員の勤務体制やトラブルへの対処法、牽引機の決まり方はどのようなものでしょうか。同社に取材したところ、日本が誇る貨物輸送システムの力が見えてきました。

片道43時間の道のりを14人で交代

 世界屈指の輸送システムを誇る日本の鉄道――。1年間で延べ240億人以上を運ぶ能力や東京〜新大阪間をおよそ2時間半で結ぶ新幹線のスピードなど、引き合いに出されるのはたいてい旅客輸送ですが、物資を運ぶ“貨物輸送”の存在も忘れることはできません。

 JR貨物には札幌貨物ターミナル駅(札幌市白石区)から福岡貨物ターミナル駅(福岡市東区)までの長距離を片道数十時間もかけて運行する列車があります。同社が走らせる“最長距離列車”、その運用方法は一体どのようなものでしょうか。

 JR貨物鉄道ロジスティクス本部運輸部副部長の志水 仁さんに話を聞きました。

――福岡と札幌を結ぶ“最長距離列車”のルートや所要時間を教えてください。

志水さん「南行き(札幌発福岡行き)と北行き(福岡発札幌行き)があり、走行距離は湖西線経由の南行きが約2140km、米原経由の北行きが約2137kmと異なります。北海道にもルートが異なる箇所があるため、所要時間は南行き36時間53分、北行き43時間18分です」

――片道43時間もかかる運行で乗務員の交代はどのように行われているのですか。

志水さん「南行き、北行きのいずれも東室蘭操車場、五稜郭、東青森、秋田貨物、酒田、南長岡、富山貨物、敦賀、吹田貨物ターミナル、岡山貨物ターミナル、広島貨物ターミナル、幡生操車場、北九州貨物ターミナルで交代を行っています」

――つまり14人で交代しているのですね。乗務時間や距離などのルールはありますか。

志水さん「JR貨物が義務付けている1人あたりの連続乗務距離の上限は220kmです。広島貨物ターミナル〜幡生操車場間の222.3kmが唯一の例外区間で、その他の区間は220km以下です。連続乗務時間の上限については、深夜帯(22時〜午前5時)を2時間以上含む場合は4.5時間、日中は6時間までです」

乗務10時間前から禁酒、トイレは許可制で

――乗務員の体調管理などで気を付けていることはありますか。

志水さん「急な体調不良などで運転を見合わせることのないように、事前の食事や飲料水摂取に注意を呼び掛けているほか、乗務10時間前から飲酒を禁止しています。乗務が始まる前から仕事は始まっているのです。体調管理に関して、禁酒以外に特別なルールはありませんが、居眠り運転などの対策として、乗務員が1分間動作をしなかった場合にエマージェンシーブレーキ(EB)が作動します。つまり、運転室内に警告音が鳴って5秒以内に確認しないと、非常ブレーキが作動する仕組みです」

――連続乗務時間の上限が定められている一方で、遅延などが起きてこれを超えてしまう場合もあるかと思います。

志水さん「トラブルなどの場合は8時間を目途に交代を指示していますが、運転見合わせになってしまった場所が山中などで交代乗員を送ることができない場合、やむを得ずそのまま乗務を続けることもあります。私が運転士だったときに阪神・淡路大震災が発生(1995年)し、連続17時間近く乗務しました。そのときは、機関車がしばらく同じ場所にいることを心配した一般の方が、おにぎりやラジオを持って来てくれました」

――いつ、どこで発生するかわからないトラブルへの対応は大変そうですね。

志水さん「通常はJR各社の駅に交代要員を手配し、お弁当などの差し入れをする場合もあります。発車前のブレーキテストをしてもらうなど、JR各社と助け合う場面もあります。遅延などで長時間乗務した場合は必ず乗務員に体調の確認を行い、そこで休憩が欲しいということであれば、遅延が拡大しても休憩させます。安全が第一です」

――乗務員の方が運転の途中、トイレなどで降車したくなった場合はどうするのですか。また深夜乗務で眠くなってしまったときはどう対処していますか。

志水さん「車内で待っているのが原則ですが、どうしてもトイレに行きたい場合は運転キーを外し、機関車が勝手に動くことがないようにした上で、運転指令の許可が出れば可能です。眠気対策としては喫煙も可能ですし、運転席にドリンクホルダーも設置しているので、TPOをわきまえて各自で行ってもらっています。駅などに停車中は運転指令の許可があれば車外に出ることもできます。信号確認の際に『第一閉塞(へいそく)進行、第一場内進行!』などと、手と口を能動的に動かすことも眠気対策になります」

鉄道貨物は増加傾向「さらにシェア伸ばしたい」

――乗務員は貨物を引く牽引機をいつ、どのように知るのですか。

志水さん「乗務員は当日、機関車の車種を知ることになります。日本海縦貫線であればEF510、東海道であればEF64、EF65(1300トンは牽引できない)、EF66-0、EF66-100、EF200、EF210、EF210-300など線区によってある程度特定されるほか、国鉄型機関車は72時間ごと、JR型機関車は96時間ごとの点検が義務付けられており、検査場までの運転時間や荷物量を考慮して決められます」

――なるほど、当日知ることになるのですね。乗務員の方はどのようにして元の機関区に戻るのでしょうか。

志水さん「『何時間乗務した後は何時間休憩する』『夜の乗務が多く連続しない』など、乗務員のスケジュールは緻密に組まれています。その上で往路もしくは復路の貨物列車がない場合は、別の貨物列車の機関車の助士席や、反対側の運転台に座って帰ります。ただし、ちょうどよい貨物列車がない場合は旅客列車を使用します。青函トンネル区間の場合は新幹線の利用も認めています。このような場合は、貨物列車で帰る場合も旅客列車で帰る場合も『便乗』と呼びます」

――ありがとうございます。それでは最後にJR貨物の今後の展望を教えてください。

志水さん「近年、鉄道貨物は増加傾向にあるので、鉄道が貨物輸送に占めるシェアをさらに伸ばしたいです。ただ旅客列車の合間を縫って運行するため、ダイヤに制約があるのがネックです。ブルートレインが廃止になったときは、貨物でも速いダイヤを設定できるよう一部区間で110km/h走行できるスジ(列車の枠)をJR各社に融通してもらったこともあります」

志水さん「これまでは600km以上の長距離貨物が強みでしたが、近年300kmほどの中距離貨物に対する需要が増加傾向にあります。また、定時運行率は高い水準を維持しており、地球に優しい鉄道貨物をPRしています。さらに、特定企業専用の貸し切り列車も運行しており、福山通運であれば東京〜吹田間、東京〜東福山間の計2往復、トヨタ自動車であれば名古屋南貨物〜盛岡貨物ターミナル間の1往復、佐川急便であればスーパーレールカーゴ・東京〜安治川口間の1往復があります」


貨物列車にハマっている自分としては、興味のある記事だなぁ。

…ということで(?)、とりあえずPCはリカバリーしている最中です。

だって、修理に出すのが面倒なんだもん。