普段なら目をつむってもできるような簡単な作業で何度も失敗する−。実はこれ、鬱症状の可能性があるのだ。「心ここにあらず」が常態化したままで過ごすのは危険だ。鬱のシグナルを見逃すな。

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 Tさん(40)は、何事も計画通りに進めなければ気が済まない完璧主義者。仕事のスケジュール管理が鉄壁なのは当然だが、出張帰りの新幹線が2分遅れたといっては腹を立て、大相撲の取り組みが延びて6時のニュースの開始が3分遅れたといってはイライラする。

 そんなTさんだけに、仕事上でミスをする確率はゼロに近かったのだが、ここに来て凡ミスを連発中。請求書を関係ない会社に送る、自分が進行役の会議の日程を間違える、上司の山本さんを「田中さん!」と呼んでしまう、祝日なのに会社に行こうとする、トイレで「大」をしたあと流すのを忘れて出てきてしまう…。

 「鬱病になりかけている可能性がありますね」と語るのは、宇都宮市にある冨塚メディカルクリニック院長の冨塚浩医師。「30〜40代の働き盛りによく見られる症状です。一種のガス欠状態で、つねにトップスピードで頑張り続ける人に起きやすい。悪化すると眠れなくなったり、会社に行くのがいやになったりすることもある」というから穏やかではない。

 冨塚医師によれば、状況によっては抗鬱薬を使った治療が必要なケースもあるが、その前に試してみる価値のある取り組みがあるという。

 「カラオケで大きな声で歌ったり、適度な運動をすることで、エンドルフィンという脳内の神経伝達物質が出て、ストレスを和らげてくれます。あるいは景色のいいところでボーっとするのも効果的。何も考えずに風景を眺めることで、頭の中に詰まっていることが抜けていくものです」

 自分が立てたスケジュールで縛り付けてきた彼の頭と体は、強いストレスで身動きが取れなくなっている。

 ここで一度自由に解き放してあげましょう。そうすれば余裕が戻って、再び質の高い仕事ができるようになるし、大相撲だって楽しめますよ。 (長田昭二)


心療内科で『適応障害』と診断された自分からすれば、「ある、ある…」