東海道新幹線の車窓を楽しむこの連載。3カ月かかって、やっと小田原までやってきた。車窓風景を楽しみながら列車に揺られていると、当然、おいしいものが食べたくなる。

そんな時は、やはり「こだま」がおすすめだ。「こだま」には車内販売がなく、車内で飲食物を買うことはできない。その代わり「のぞみ」「ひかり」にどんどん抜かれるため、ほとんどの駅で3〜7分停車する。この間に、ホームの売店でその土地の駅弁を買えるのだ。

「のぞみ」と「ひかり」は、車内販売で駅弁を買えるが、種類がどうしても限られるし、周囲のビジネスマンにも気を遣う。旅の味覚を楽しむなら、断然「こだま」だ。

駅弁が買える駅はどこか

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では、どこの駅で駅弁を買えるのか。2015年3月に「のぞみ」の時速285km運転が始まって以来、「こだま」の停車時間はさらに増えた。

停車時間が短いのは、新横浜や名古屋のようにすべての列車が停車する駅と、通過線がない熱海だけ。小田原、三島など、ほとんどの駅で5分前後停車する。「こだま」東京〜新大阪間4時間4分のうち、実に1時間近くが駅に停車している時間なのである。

東海道新幹線の運行ダイヤは、効率が最優先されており、「こだま」の停車時間にも一定のパターンがある。掛川と三河安城は、列車によって停車時間が大きく異なる駅。名古屋発着の「こだま」は掛川の停車時間が短く、新大阪発着の「こだま」は三河安城の停車時間が短い。

ただし、掛川のホームには駅弁売場がなく、三河安城にいたっては岐阜羽島とともに改札外にしか売店がない。これらの駅では、停車中の駅弁購入は難しいので注意が必要だ。もっとも、掛川の駅弁は浜松と同じなので、浜松で買えばよいだろう。

豊橋から西の区間も要注意だ。豊橋を出てから新大阪までは、停車中にホームで駅弁を購入できるのは米原駅だけ。しかも米原駅はステーキ弁当をはじめ人気駅弁が多く、夕飯時などには売り切れてしまうこともある。米原で駅弁を逃すと、豊橋〜新大阪間約1時間40分を、缶ジュースだけで過ごすことになる。この区間を「こだま」で旅する人は、駅弁確保を忘れないようにしたい。

地域色豊かな、歴史ある駅弁

 三島駅は駅弁が多彩。ホームにある立ち食いそば店の桜えびそば520円も人気だ(ただし車内持ち込みは禁止

東海道新幹線の停車駅では、地元の駅弁業者がさまざまな駅弁を売っている。下り列車で最初の5分停車となる小田原駅では、東華軒の「小鰺押寿司」1030円が有名だ。

「名物弁当を作りたい」と、脂ののった真鯵を塩で締め酢に漬けて、関西風にして売り出したのはなんと1903(明治36)年。やや強めのお酢が独得の味わいで、お酒にもよく合う。小田原から先、東海道新幹線はしばらくの間トンネルが続き車窓風景があまり見えないので、この間に腹ごしらえしておくのもいい。

熱海で海を眺め、新丹那トンネルを抜けると三島に到着。ここは、東海道新幹線の駅の中でも特に駅弁が充実した駅。「富嶽 あしたか牛すき弁当」「天城紅姫あまご寿司」など、桃中軒のバラエティ豊かな弁当が19種類も揃う。しかも、デパートの駅弁大会などに出品されることが少ないので、ここでしか味わえない。

 わさびがごろんと入っている「港あじ鮨」。姉妹商品の「沼津香まだい寿司」は、10〜5月の限定商品

おすすめは、「港あじ鮨」960円と「沼津 香まだい寿司」1050円。どちらも天城産の本わさびがついており、自分ですり下ろして薬味にする。車内でわさびをすり下ろし、ワインや日本酒とともにいただく寿司は格別だ。

掛川駅と浜松駅の駅弁を販売している自笑亭は、1854(安政元)年創業、浜松藩最後の当主から屋号を賜ったという老舗中の老舗。現在は15種類ほどの駅弁を取り扱っている。オーソドックスな「幕の内弁当」を名乗る商品が、「まくのうち弁当」740円と「納得のいく幕の内」830円の2種類あるのがユニークだ。

「納得のいく〜」は1992(平成4)年発売で、揚げ物を使わず、煮物中心にまとめたヘルシーな弁当だ。豪華版幕の内である「喧嘩凧」1030円と合わせ、3種類もの幕の内弁当を長年売り続けているというからすごい。

 写真左:浜松駅自笑亭の「うなぎ飯」1600円。フードパックに盛られた一番シンプルなタイプだが、ほかほか。 写真右:自笑亭のうなぎ関連弁当は弁当ウォーマーに入れて売られている(掛川駅)

そして、浜松といえばやはり「うなぎ」。浜松駅にはうなぎ関連の駅弁が3種類揃っている。昨今の資源問題の影響から貴重になってきたが、弁当ウォーマーで温めておいてくれるのがいい。できたての時間にあたれば、車内で食べるうなぎ飯とは思えない味わいを楽しめる。

新幹線で味わう、懐かしの「あの」甘味

駅弁ばかりではない。まだ季節的に早いが、三島駅や新富士駅のホームでは毎年5月から9月頃にかけて、懐かしい冷凍みかんを売っている。昭和40年代に全国的なブームとなった氷菓で、東海道新幹線では現在も三島、新富士のほか東京、新横浜などで購入できる。

メーカーによれば、冷凍みかんは車内で20〜30分ほど放置して溶かし、実がシャーベット状になった頃が食べ頃とのこと。しかし、新幹線で30分も待っていたら、目的地に近づいてしまう。

 

 新富士駅で購入した冷凍みかん。なかなか溶けず、掛川を過ぎて浜松に近づく頃ようやく食べ頃に

列車が速くなりすぎた結果、冷凍みかんは活躍の場を減らしてしまった。各駅停車に揺られて、優等列車の通過待ちの間に駅弁を買い、夏には窓際で冷凍みかんをのんびり溶かす……。「こだま」の旅には、そんな古き良き鉄道の旅が今も残っているのである。

惜しいのは、新幹線のホームで売っているお酒類が缶ビールなどオーソドックスなものに限られること。駅弁などと共に、その地域の地酒のワンカップやクラフトビールを売店に並べたら、「こだま」の新しい魅力になるのではないだろうか。

車内で酒盛りをする人が増えるのが困るなら、一歩進めて「居酒屋こだまツアー」というのはどうだろう。「こだま」のグリーン車1両をツアー専用車両にして、停車駅ごとにその土地の味や酒を届けるのだ。駅弁業者とタイアップして、ツアー催行時だけホームでの駅弁の立ち売りを復活するのも面白い。

新幹線というと、ビジネスライクな部分やテクノロジーばかりが注目されがちだが、各駅停車の「こだま」には旅情がいっぱい詰まっている。


栗原景氏の名前から、レイルウエイライターの種村直樹氏を思い出しました。

そういえばここのところ、種村氏の書籍を買っていないなぁ…と思い出し、ネットで検索してみたら何ということ!

2014年の11月に逝去されていたんですね。

種村氏の書籍はたくさん持っていますけど、もう手放せなくなりましたよ。

     合掌