子どもがいる人は、ほぼ誰もがかかわることになるPTA(Parent-Teacher Association)。学校と保護者、地域との橋渡し役を期待されるこの組織には、さまざまな謎や問題が付きまといます。いったいPTAとどうかかわるべきか?『PTAをけっこうラクにたのしくする本』の著者・大塚玲子が迫ります。

「やってよかった」という人が確実にいる

「やたらと時間をとられる」「何のためか分からない活動が多い」「無駄が多すぎる」等々、安定的に評判の悪いPTAですが、そもそもなぜ、なくならないのでしょうか?

筆者が子どもだった30年前から、4月のPTA委員決めは母親たちの悩みの種だったと聞きます。だのになぜ歯をくいしばり、いまだに続いているのか。

単に「前例踏襲」(=惰性)で続いてきた面も少なからずあるでしょうが、おそらくそれだけではありません。やはり、実は、「やりたい人」がいるからでしょう。会員全体からみると少数ではあるものの、PTA活動にメリットを感じて活動している人も存在するのです。

実際に、講演会などでお会いするPTAの役員さんたちからは、以下のような声を、しばしば耳にします。

「最初は気が重かったけれど、今では周りの人たちとも仲良くなって、楽しいです。任期がなければ、ずっとやりたい」

「得るものが本当に大きかったと感じています。仕事もしていましたけれど、みんなでフォローし合って気持ちよくやれました」

「子どもが3人小学校に通っているあいだ、何度か委員や役員をやりました。一緒にやる人にもよりますけど、私はやってよかったです」

PTA活動をするいちばんのメリットは、「人とのつながり」という財産を得られることだと筆者は思います。
しかも、身近でリアルな、地元での人とのつながりです。

「社会関係資本」が役に立つ

「人とのつながり」というのは、「社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)」と言い換えてもいいでしょう。

PTAで得られる「人とのつながり」によって、具体的には、どんないいことがあるのでしょうか?たとえば、こんなことが考えられます。

1・何かあったとき安心

災害のときなど、近所に知り合いが多いというのは、やはり安心ではないでしょうか。

5年前の震災時、電車が止まり、電話やメールも通じなくなり、家族と連絡が取れずに不安を感じた人も多かったことでしょう。
筆者も当時、自宅から10キロほど離れた駅にいて、途方に暮れました。家族に歩いて帰ることを伝えたい、子どもや老親の無事を確認したいと思いましたが、手段がありません。

唯一つながっていたツイッターでそのことを発信すると、隣の隣の学区に住む知り合いが、「家まで行ってきてあげようか?」と言ってくれました。とても有難かったのですが、決して近所というほど近くの人ではなかったので、申し訳なくてお願いはできませんでした。

その点、いまはPTA活動などを通じて知り合った人が近所に何人もいる(5年前の3倍はいます)ので、だいぶ安心です。

2・単純に楽しい

「孤立しているよりも、人とつながっていたほうが楽しい」というのは、シンプルに納得いただける点かと思います(もちろん、どんな人とつながるかにもよるのですが……)。

PTAの話ではありませんが、昨年筆者が取材した、東日本大震災の被災地で復興支援の活動をする藤沢烈さんが、こんなお話をされていました。

「震災が起きた後に人付き合いが減った人と、増えた人がいます。増えた人は『すごく復興が進んだ』と感じやすいのですが、人付き合いが少なくなった人たちは、『復興はぜんぜん進まない』と感じやすい。
人とのつながりが弱い方は、地域の町並みが震災前に戻るほど『周りは自分を置いてどんどん先に行ってしまう』と感じ、孤独感を強めるのです。

町を元に戻すだけではなく、孤立感をもつ方のつながりを強めなければ、本当の意味での復興にならないのです」(「人のつながり」が日本の課題を解決するより)

「人とつながっている」という感覚そのものが、その人のQOL(生活の質)を左右するということでしょう。

3・日々の情報が入る

よく言われる通り、情報が入りやすくなることも、人とつながるメリットのひとつです。しかも、同じ地区に住み、同じ学校に子どもを通わせている保護者から得られる情報というのは、より貴重です。

たとえば、子どもが進学する中学や高校の情報、習い事やスポーツのチームに関する情報、学年が上がっても使うから早めに買っておいたほうがいいもの情報、近所で子どもウケのいい歯医者はどこか情報……等々、ネットで検索しても、なかなかたどりつけるものではありません。

筆者自身も、PTA等で知り合った保護者からこれらの情報を得て「聞いておいてよかった!」と思った経験は、いろいろあります。

よく「時間はお金に換えられない」と言いますが、「人とのつながり」は時間よりさらに、お金に換算しにくいものでしょう。
もしかしたら、お金よりもずっと必要なものかもしれない。そういった感覚をもつ人は、震災以来、増えているのではないかと思います。

もちろん、人とのつながりは、PTAでなければ得られないというものではありません。ただ、現状でいちばん手っ取り早く、近所でそれを得られるのは、PTAかなとは思います。

町内会は「60歳未満の若造に発言権ナシ」といった雰囲気のことが多く、現役世代が「人とのつながり」を得られるような場には、なかなかなっていないようです。

「時間をとられる」デメリットをいかに減らすか

しかし、こういったPTA活動のメリットは、一般保護者にとって、非常に目に入りにくいのが実情です。

なぜそうなるのか? 理由のひとつは、やはり「やりたいかどうかを聞かれないから」でしょう。

もし最初に「PTAやる? やらない?」と聞かれていれば、「はて、PTAに入るとどんなメリット、デメリットがあるかな?」と考えて、メリットに気付きようがあるのですが、自動的に入会するのでは、そのようなことを考える機会がありません。

「やらされる」という被害者感情からデメリットしか目に入らなくなるのは、仕方がないことと思います。

もうひとつの理由はやはり、「時間をとられる」「無駄が多い」といったデメリットも大きいからでしょう。

ただし、デメリットは減らしていくことが可能です。PTAから切り離せないものではないはずです。
これからのPTAは、デメリットをより少なく、メリットを享受できる人が増えるようにしていけるといいな、と思います。


自分の場合、PTA会長からスタートするという異例の関わり方でしたけどね。

中学校では、PTA会長2年、広報部部長1年。高校では広報部部長を3年やりました。

どうせやるなら会長なり、部長になれば、自分のペースで進められるし、システムも変えられますから。

自分の場合は、やっているときは大変でしたけど、振り返ると楽しかったですよ。