未来組

宝塚の舞台、DVD、SKYSTAGEを観た感想と、最近はカメラに凝ってます。

うたかたの恋

2008年02月18日 | DVD、スカイ・ステージ(花組他)
原作/クロード・アネ
脚本・演出/柴田侑宏

19世紀末オーストラリア、実際に起こったハプスブルク家の皇太子ルドルフと男爵令嬢マリー・ヴェッツェラの心中事件を描いた作品。

オープニング、ドイツ大使館での華やかな舞踏会で踊るルドルフとマリー。
 「マリー、来週の火曜、旅に出よう」
 「はい、あなたとご一緒なら、どこへでも」
……若い恋人達はこんな何気ない会話を交わしながら、死の決意を弾むような気持ちで確認しあっていたのでした、というストーリーテラーによるナレーションがあり、二人が出会った6カ月前に時計の針を戻して物語が始まります。

宝塚の名作。禁断の恋と宿命的な悲劇、華やかさの裏に権謀術数渦巻く宮廷、軍服のオンパレード、メリハリの利いた登場人物等、宝塚ファンにはこたえられません。男役の格好良さ、娘役の可憐さが満載。悲劇的結末だというのがまた日本人好み。衣裳は豪華ですが舞台はシンプルなので全国ツアーにはうってつけ。初めて観る方も、こんな華やかな夢のような世界があったのかと満足なさるのではないでしょうか。

1993年の雪組大劇場版(麻実れいと遥くらら)、同年の星組大劇場版(麻路さきと白城あやか〈大劇場〉)はまだ観ていないのですが、全国ツアーの99年月組(真琴つばさと壇れい)、00年宙組(和央ようかと花總まり)、06年花組(春野寿美礼と桜乃彩音)を観ました。それぞれの良さがありますが、わたしの独断によるお気に入りを書きました。

●ルドルフ
真琴つばさ(月組)は個性的な役作りをするタイプですが、正統派の役ももちろんこなします。マイヤーリンクでマリーと鬼ごっこの後の遊びは「狼男ごっこ」。真琴つばさ主演の「ローンウルフ」を受けた遊びで、ここはアドリブが入って面白い個所。
和央ようか(宙組)の軍服姿の凛々しさ、清々しさはさすがです。鬼ごっこの後は「ジギルとハイドごっこ」でした。原作はこれなのでしょうか?
春野寿美礼(花組)は、あまり冒険のできない古典の中でも、春野寿美礼ならではの味を出していました。歌がうまいということがどれだけ説得力があるか、改めて実感。また、きりっとした軍服姿と、少年のような、今にも泣き出しそうな笑顔のミスマッチが、ルドルフの孤独を浮き彫りにしていました。マリーとは最初から最後までラブラブであてられっぱなしです。
マイヤーリンクでマリーと鬼ごっこで遊ぶシーン。
 「もういいかい?」
 「まだでございますわ」
月・宙公演では普通の台詞でしたが、花組では、日本人なら誰でも知っているも~、い~いか~い?ま~だ~だよ~の節をつけて歌うアイデアがかわいい。もちろん、マリーは男言葉は使えませんから「ま~だ…でございますよ!」「も~う…よろしゅうございますよ!」と字余りになるところがまたかわいい。
鬼ごっこの後は「ファントムごっこ」。また唐突な遊びですが、大劇場公演の後ですからね。逃げ惑うクリスティーヌ、あ、いや、マリーを「懐かしいな~」と言って追いかける春野寿美礼は楽しそう。
そして最後の心中シーン。うら若きマリーの命を奪うことに罪悪感を覚えて躊躇しつつもピストルの引き金を引く場面。そんなとき人間はどんな行動をとるのか? 決められた秒数の中で決められた以上のものを表現しようとする春野寿美礼のルドルフが私は大好きです。

●マリー・ヴェッツェラ
「なんという青春の輝き・・・」
密会先であるルドルフの私室で鉢合わせしたエリザベート皇后が、ひざまずくマリーにかける言葉。この言葉にどれだけリアリティを持たせられるかが勝敗の分かれ目。
壇れい(月組)は間違いなく可憐であどけない。
花總まり(宙組)は、若い時からエリザベートやカルメン、遡ればメルトゥイユ公爵夫人(仮面のロマネスク)といった強い女性をこそリアリティを持って演じられるタイプ。しかしドレスの裾を持ってパタパタと走り、若々しく、初々しく見せていました。
桜乃彩音(花組)の若さと純朴な雰囲気は作りこまなくてもマリーに合っていました。声が若くてかわいらしいのが強みです。

ルドルフのいとこで自由主義者、平民の娘と結婚するジャン・サルヴァドル大公彩吹真央(花組)は語り部としてはさすがに上手いけれど、わたしは湖月わたる(宙組)の男らしさが好きです。恋をしているというルドルフの告白を聞いて大声で笑う時の豪快さ。わけても舞踏会でマリーを侮辱するために近づこうとするステファニー王女を、ワルツに見せかけて行く手を遮り、腕を引っ張って自由を奪う力強さ。彩吹真央だと、腕をとられたステファニーは作法として醜態はさらせないからマリーに近づけないように見えますが、湖月わたるに引っ張られたら、物理的に無理でしょう。

ヨーゼフ皇帝は立ともみ(月)、大嶺麻友(宙)、夏美よう(花)。立ともみはルドルフへの愛情深い父親、夏美ようは厳格な皇帝という感じでした。

エリザベートは夏河ゆら(月)、陵あきの(宙)、梨花ますみ(花)。原作がどうかはわかりませんが、通説とは逆の解釈で母性的なエリザベートを演出するところが柴田侑宏らしい。実際のエリザベートは、娘の結婚式のときに娘よりも美しかったといいますから、若狭と美貌の点では陵あきのが好きです。

政略結婚でベルギーからやってきたステファニーを西條三恵(月)、彩苑ゆき(宙)、舞城のどか(花)。実際、気の強い女性だったらしい。ルドルフをどれほど愛していたかはわかりませんが、単にわがままというのではなく、本当はルドルフに愛されたいという女心がよく出ている西條三恵のステファニーが印象に残りました。

マリーの乳母ジェシカは3作品とも鈴鹿照。いつもかわいらしいおばあちゃんです。

ルドルフの執事ロシェックと使い走りブラッドフィッシュ少年を光樹すばると大和悠河(月)、未沙のえると朝比奈慶(宙)、悠真倫と華形ひかる(花)。ロシェックはよたよたのお爺さん。秘密の抜け道を使ってマリーをルドルフの私室へ案内するのに階段を下りて客席を通るのですが、ラリッシュ夫人の突っ込んだ質問をかわすためにどんなアドリブで客をいじるか、はたまたご当地ネタを盛り込むか、センスの見せ所です。
ブラッドフィッシュは「がってんだい!」「へい、お待ち!」ときっぷのいいところをみせるし、男女の機微に通じた、ませた少年。二人の絡みは劇中で笑えるところ。ロシェックは甲乙つけがたく、ブラッドフィッシュは大和悠河が好きです。

そほのかにも、副官としてルドルフにつき従うモーリス、サルヴァドル大公の妻ミリーはいい人、皇位継承者フェルディナンド大公は気の弱い感じ。歌姫マリンカや、マリーを手引きするラリッシュ夫人は大人部門担当。フリードリヒ公爵、ツェヴェッカ伯爵夫人他、わかりやすい悪人が登場します。

気が付いたらきれいに5組1周しました。全国ツアーに順番は関係ないのかもしれませんが、雪組に戻ってくるのでしょうか? それとも次期トップ用にとっておくのかしら?
コメント
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