C E L L O L O G U E +

ようこそ、チェロローグ + へ!
いつまでたっても初心者のモノローグ
音楽や身の回りを気ままに綴っています

正木香子著『本を読む人のための書体入門』を読んで

2014年03月06日 | 折々の読書
 諸行無常の世の中であるけれど、本や活字の世界は別だろうと思いきや、いつの間にか、活字から写植、そしてデジタルフォント、DTPの時代、電子書籍の時代になっている。コンピュータのフォントもきれいに印字されるようになって、お好みのデザインで自家製の本を作ることも可能だ。昔々、ガリ版刷りの時代を経験した私にはとても素晴らしい時代になったと思っています。

 活字と言えば、世の中では、明朝体とゴシック体くらいしか認識されていないが、微妙な差によりたくさんの書体が生まれ、あるものは残り、あるものは廃れていった。意識するしないにかかわらず、活字は、本を読む者には愛すべき存在であるだろうし、そうでない人にとっても身近な、空気のような存在ではないでしょうか。

 この本では、その活字などの書体について、デザイナーではなく、物を書っく人の立場から書いている点が面白く、分りやすくなっています。また、見本帳形式にはなっていないのですが、表紙から本文まで、随所にリードを付けて書体名が指示されていて親切(というか、本自体が身体を張って説明しているようにも見える(笑))です。

 身の回りに溢れているフォント(この言葉も市民権を得たようですね)はバラエティーに富み、様々な工夫が凝らされている。特に、オノマトペ多用のマンガには個性的なフォントが重要のようです。この本も、その辺りから説明に入っています。例えば、「淡古印」という、古雅な趣きの書体がホラー的な表現に転用される過程など、マンガらしい、思わぬ活用のされ方だったのが分ります。

 文学においても、文学臭がプンプンするような書体や、すっきりした感じの書体、とげとげしい書体など、書体によって印象がかなり異なるのには驚きました。これは、本書でも様々な書体によって例示されていて、分りやすいです。この本では、書体見本の連続、書体の歴史とかの堅苦しいものではなく、風通し良く、質素に語られているところがよいと思います。特に映画のテロップの書体などなど9つのコラムで個別に書体が取り上げられていて興味深い。書体は、単に書体というだけでなく、様々な読者の思いが入り込むと、著者は語っています。書体には味があるとも言っています。そういう文字の世界にも気付かせてくれる本です。(著者のホームページはこちら

 私事ですが、私の最初の活字との出会いは電車の中吊り広告でした。国鉄の運転手だった父が、要らなくなった広告を束にして持ち帰り、子供の私は画用紙代わりに、その裏の真っ白な面に文字やら絵やらを書きつけて遊んだのでした。だから、表面の週刊誌の見出しの大きな太い活字には小さい頃から慣れ親しんできました(読めなくてよかった(笑))。 そういうわけで、「絶対文字感」はともかく、「書体愛」を育んだように思います。その副作用として、少しでも気になる書体の本は読めない、書く字が活字似になるなど、弊害も多いにしても(笑)。

 ■正木香子著『本を読む人のための書体入門』(星海社新書40)、2013年12月刊.★★★★★


コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。