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稲垣えみ子『老後とピアノ』を読んで考えた

2024年06月03日 | 折々の読書


「大人ピアノ」が流行っているらしい
書店で偶然見かけました。どんどん消えて行く書店への応援を込めて即買い(笑)。
奥付を見ると、2022年1月に初版、2023年10月で9刷りとなっていて、それほど世間の「大人ピアノ」への関心が高い証拠でしょう。ちなみに、後日、市立図書館を検索してみたら2冊ヒットしましたが共に貸出中でした。人気なのですね。



著者のピアノ、私のピアノ
そう言う私も昨年からピアノを習い始めましたので、もしかしたら、流行の最先端を行っているのかも知れません(笑)。
読み始めると、著者の体験がかなり自分の場合と重なる部分があって驚きつつも共感を持って読みました。
小学生時代に通ったピアノ教室、その40年後にひょんなことから始まったピアノのレッスン。喜びも大きかった反面、練習のことや音楽表現で大変苦労したこと、グレン・グールドに共鳴したことなど、似たような道筋ではありませんか。

もちろん、異なるところも多々あって、私はピアノ教室には通えませんでした。そんなものは存在していませんでしたから。
嫌々通っていたにしろ、著者の小学生時代のそれがピアノ演奏の基礎を築いていたのではないかと思われます。大人ピアノではありますが全くのゼロからのスタートではありません。
私は子供の時に家にあったオルガンで真似事をしていました。ピンクの教則本がありましたが、先生のいない悲しさ、理解しがたく少ししかできませんでした。強制的でもレッスンに通えたらどんなによかったか。それから幾星霜。やっと通えるようになったら頭と手足が言うことをききません。

志が高い著者
もうひとつ、決定的に異なる点は、著者は志が高いということ。まず、とんでもなく勉強しています。今のことだから、ストリーミングや動画などを大量に見て聴いている。本ではさらっと書いてありますがかなりの努力が分かります。私はそれができていない。そもそも、ピアノを聴こうという精神があまりありません。ショパン、嫌いだし(笑)。
私が参考にしているのはYouTubeの一部の動画だけ。電子ピアノのレッスン機能も1回使っただけ。とても志が低い。



そして、著者がついた先生も別格。プロのピアニストで考え方が柔軟。ハノンやバイエルという既製の教則本ではなく生徒に好きな曲を選ばせるという太っ腹。それに応えて著者が選んだ曲がまたすごい。いきなり、きらきら星変奏曲、ショパンのワルツ、マズルカ、バラード、月光、悲愴などなど…眩しい!凄すぎるパッション!
いわば、ピアノという「敵地」にズドーンと主砲をぶち込んでいるようなもの。名曲を各個撃破!
「ピアノ習得〇年計画」などを立てている私は敵地の周辺を窺い、腕組みをしているだけのように思えてきます。哀しすぎるほどパッシブ!

また、練習時間もすごい。著者は日に2時間は練習するという。そして、出張などで練習ができない時はスタジオを借りたり宿のピアノを探したりと手を尽くします。
それに引きかえ、私の練習時間は1時間足らず。ですが、本当に時間が足りないと感じてはいます。電子ピアノのスイッチを入れるのももどかしいのです。風呂も歯磨きもトイレ(これはまずいか)の時間も削りたい。ピアノは惜しみなく時間を奪うものらしい。

初心に返ること、楽しむこれからのピアノ
それはともかく。
読んでいて、どことなく『ネヴァー・トゥー・レイト;私のチェロ修行』を思い出しました。全くの素人がチェロとう楽器に取り組むパッションが感じられたものです。
高齢者が使える人生の持ち時間は長くはないうえ、神経や筋肉にハンデもあります。しかし、ピアノを子供だけの特権にしておいてよいものか。「子供ピアノ」何するものぞ!
大人は長年の経験からそれなりのノウハウを持っています。限られた時間を工夫したり、効率を図る知恵も(多少は)あります。シナップスが少な目であってもパッションで達成できるものがあるかも知れません。保証はないけれど。

とは言え、私のピアノはこれからどうなるのか未だに予測不能ですが、何はともあれ楽しむことを優先に続けていきたいと思います。好きこそ物の上手なれ。『梁塵秘抄』だっかなんだか分からないけれど(多分、違う。笑)、この言葉を信じつつ明日も鍵盤に向かおう。

稲垣えみ子著『老後とピアノ』ポプラ社、2022年1月刊.(雑誌『ショパン』に連載されたものに大幅に加筆修正、書籍化したもの)

アメリカの教育家、ジョン・ホルト氏がチェロとの出会いや練習方法など音楽全般にわたって書いたもの。レイト・スターターに勇気を与えてくれる。私も22年前にかなり触発されました。2002年、松田りえ子氏の訳で春秋社から出版。惜しくも絶版。



著者の「私が挑んだ曲一覧」にも載っているドビュッシーの「月の光」です。

Pascal Rogé — “Clair de Lune”, Claude Debussy


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