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チェロローグへようこそ! 万年初心者のひとり語り、音楽や身の回りのよしなしごとを気ままに綴っています。

干刈あがた『野菊とバイエル』の頃

2024年03月13日 | 折々の読書


小学校の頃の思い出は、私の場合、赤土の風景とからっ風に尽きます。谷地の崖っぷちの家、目の前の田んぼ、その先はまたヤマ。まだ家は少なく空き地や林で遊んだことが思い出されます。バスは砂利道を埃を舞い上げながら走っていました。
西洋音楽とは無縁の家庭で、ピアノは学校でしか見たことがありませんでした。バイエル。全然関係ありませんでした。

最近読んだ『バイエルの謎』の中に『野菊とバイエル』(連載時のタイトルは『櫛とリボン』)が紹介されていた(p.27)ので参考に読んでみました。懐かしい著者の名前ですが、読むのはこれが初めてです。
バイエルの縁で生まれて初めて少女小説を読みました。最初は斜め読みで済まそうと思っていたのですが、次第に懐かしさに惹かれて読み通してしまいました。


作品の舞台は、昭和20年代中頃、まだアメリカ兵がいる頃で、おそらく、著者自身の少女時代が濃厚に反映されているのでしょう。私はまだ生まれていません。
舞台は地方の新開地、町が市になり学校が増設され、鼻たれ小僧らが徒党を組んで遊びまわり、教室ではリリヤンが流行り、大人たちはそれなりに立派そうに見えた頃です。本格的な開発が始まる前の、まだのんびりしていられた時代です。
逆上がり、運動会、遠足、教師たちとの関係、訳ありげな大人たち、子供ながらの人間模様など、小学校低学年で起こる大小さまざまな事件を織り交ぜて、三年生ミツヱの多感な一年が描かれます。

町の発展は子供たちの暮らしにも少なからず影響を与え、小さいミツヱも例外ではいられません。我が家に思わぬ下宿人が同居するようになって意に反してバイエルのお稽古に通うことになり、自身や周囲に予期せぬ波紋が広がって行きます。
ピアノのお稽古とともにミツヱも成長していきますが、その後、ピアノが普及し始めるとバイエルも浸透していき、ピアノと言えばバイエルという存在になりました。
この作品はそういった時代の記憶とも言えそうです。

干刈あがた著『野菊とバイエル』集英社、1992年7月刊.



『野菊とバイエル』にも登場するバイエル8番。バイエルは先生(伴奏)と生徒(旋律)の合奏が半分くらいあります。

Beyer Op 101 No 8


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