「天狗の中国四方山話」

~中国に関する耳寄りな話~

No.514 ★ 経済危機に対処できない中国 職に就けない若者が「宝くじ」に殺到 して品薄に

2024年07月26日 | 日記

MONEY VOICE (斎藤満)

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中国では先週「3中全会」が開催され、21日にはその決定全文が公表されました。市場の最初の反応が中国株下げとなったように、中国政府は腐敗の取り締まり強化で体制の安泰を図る一方で、経済危機への対応は不十分なまま、AIや航空宇宙などの戦略産業を育てるちぐはぐさ。内憂外患、長期的にも短期的にも苦しい状況の中国経済を考えると、しばらくの間中国経済は冬の時代から抜け出せそうにありません。

経済の悪化、人民の生活困窮が社会不安となり、外交上の弱点にもなりかねないだけに、中国を相手に経済活動をする日本企業は、そのリスク管理を十分に行う必要が高まっています。(『 マンさんの経済あらかると 』斎藤満)

※有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2024年7月24日号の一部抜粋です。

経済より体制強化?

18日に閉会した中国の3中全会では、まず体制強化を図る人事処遇がなされました。つまり、習近平主席の外交戦略と歩調が合わなかった秦剛前外相の党中央委員辞任を承認、ついで李尚福前国防相と、李玉超前司令官の党籍はく奪を決めました。両者ともに重大な規律、法律違反があったとしています。

一般国民からの評価が今ひとつの習近平政権は、汚職にかかわった幹部の厳正処分が政権評価にプラスと考え、体制強化のために汚職幹部を一掃し、合わせて習近平氏に全面服従する意図のない幹部の排斥を進めています。習近平主席の周りはイエスマンで固められ、批判はもちろん、建設的な意見具申もなされなくなっているといいます。

しかも、主席は永久政権を考えているために、後継候補を育てていません。習近平主席が「裸の王様」になり、しかも次を担うべきリーダーを育てない分、習近平政権が揺らいだ場合に、国家の体制が一気に不安定になります。

中国経済の内憂外患

体制の強化も良いのですが、今日の中国経済は深刻な「内憂外患」にあります。国内は不動産の供給過剰が資産デフレ、債務危機をもたらし、これに対して当局は価格規制をするなど、対症療法的な策にとどまっています。公共工事で景気を刺激するにも、地方政府の債務問題が深刻です。21日に公表された決定全文をみても、中国経済を危機に陥れた要因にメスを入れていません。

そして急速な少子高齢化が進み、親世代の社会保障が不十分なため、若い世代の負担になり、これがまた結婚の縮小、少子化をもたらす結果となっています。その若者世代は「大学を出たけれど」の就職難にあり、家でカウチポテトになっているか、宝くじで起死回生を狙うしかなくなっています。若者の失業率は20%を超えてから発表されなくなりました。

今回の決定全文を見ても、目標の中に若者の雇用機会拡大、高齢者の生活水準の引き上げが盛り込まれていますが、具体策は明示されていません。

しかも海外からは安価なEVの輸出に反発が強まり、欧米は中国製のEVや太陽光パネルなどに高い追加関税を課すことになりました。また米国バイデン政権は、中国への半導体輸出や技術支援を規制し、日本など同盟国にも同調を求めています。中国がロシア支援をすればますます欧米からの規制が強まります。

中国経済はまさに深刻な「内憂外患」にあります。国内の需給不均衡は日本のバブル崩壊時以上に深刻ともいわれ、共産党政権ながら若者の雇用機会を提供できず、高齢者の介護体制、医療体制も不十分です。この社会不安が一層の少子高齢化につながる面があります。

経済対策は的外れ

こうした状況に対して今回の3中全会では必ずしも有効な手立てがなされませんでした。国内産業の現代化、強化、サプライチェーンの強化をうたいますが、民間部門が育って力をつけると、民主化の動きをしたり、政府の統制に反したりすることになって最後には規制を強化するやり方では、育つものも育ちません。

また国有企業を育てるにしても、軍事転用につながるもの、ロシア支援にかかわるものには、米国などから強い規制が課せられます。軍備拡張、ロシア支援が欧米の脅威となっていて、これにつながる国内産業の強化には海外から圧力がかかります。

今回、地方政府の収入源を広げる政策を入れたことは、不動産不況で土地利用権の売却収入が減っている地方政府にはプラスですが、国全体の税収が増えるような経済運営をしないと、地方の収入が中央政府の収入減少につながるだけです。土地制度の改革も不動産の需給が悪い中では容易ではありません。

中央政府は先に1兆元の特別国債を発行しましたが、それ自体、金融緩和とセットで行わないと、民間資金を「クラウディングアウト(排除)」する面があります。しかし、米国がドル金利高、ドル高にあるため、中国は人民元のさらなる下落なしに金融緩和ができません。国債発行も有効に使えない状況にあります。そこで今般企業向け貸出金利を0.1%下げましたが、資産デフレのもとでは効果が限られることは、かつての日本が証明しています。

このため、7兆元規模ともいわれる中国の過剰不動産を政府が買い上げることもできません。また政府は外資の導入に積極的と言いながら、外資に中国の不動産などの不良債権買い取りを渋っています。米国は不良債権ビジネスでオファーをしているのですが、これができないと、中国の不良債権処理も進まず、金融機能の回復も進みません。もっとも、不良債権処理で金融機関、特に国有銀行の資本が痛むと、国の財政負担も大きくなります。

職に就けない若者が「宝くじ」に殺到していますが、最近宝くじが品薄になり、買えなくなっているといいます。この裏には、政府が宝くじの販売を規制し、抑制しているためと言います。金融機関職員が高給をとると、西欧型腐敗のもととして給与を強制的に引き下げます。所得の減少が一層中国のデフレを助長しています。

周辺国に波紋

中国経済の長期不振でエネルギー需要が減り、産油国が輸出需要の減少にあっています。足元での原油価格下落には、中国の需要減少懸念が材料視されています。中国での販売不振から、日本の百貨店が次々と中国から引き揚げています。日本車の中国販売も苦戦しています。

米国の中国向け半導体規制が強化され、米国だけでなく日本や欧州企業にも協力を求められ、日本の半導体メーカーの株価が急落しました。世界がインフレと戦う中で、唯一デフレに陥る中国の異常さが目立ちますが、その波紋は「インフレの冷却効果」とは言っていられない大きな需要減退要素になっています。中国製EVが欧米を避けてアジアに出れば、そこでの日本車市場が圧迫されます。

藤満(さいとうみつる)

1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

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