マネーポスト
2024年10月7日
中国市場に進出した日本企業は岐路に立たされている(習近平主席/EPA=時事)
中国・深センでの痛ましい児童刺殺事件の影響は日本企業の活動にも及んでおり、多くの企業が駐在員家族の引き揚げなどの対策を迫られている。折しも、右肩上がりだった中国の成長は変調をきたしており、日本企業はその対応にも動き出していた。【前後編の前編】
帰国対応に苦慮する日本企業
深センに住む、ある日本企業の駐在員が語る。
「私より妻のほうがナーバスになっていて、『帰国希望者を支援している会社もあるのに、あなたの会社はどうなっているの?』と聞かれた。とりあえず妻と子供だけでも香港に引っ越しさせるかもしれません。香港なら、深センから高速鉄道に乗れば14分で着きますから」
9月18日に起きた日本人学校に通う男児の刺殺事件を受け、現地で生活する日本人の間では安全確保への不安が高まっている。現地に拠点を置く日本企業も駐在員やその家族のケアに万全を期すべく奔走している。
パナソニックグループ広報は「中国大陸の出向者とその帯同家族に対して、状況に応じた一時帰国(会社負担)、カウンセリング窓口の設置、柔軟な勤務体制など安全と健康最優先の対応を実施」と説明し、JT(日本たばこ産業)も「従業員と家族の安全を第一に考え、相談があった場合は親身になって対応を行なっております」(IR広報部)と回答した。
この1年以内に中国での拠点閉鎖・縮小などを発表した日本企業
駐在員や家族の帰国を支援する動きは注目を集め、〈中国の男児襲撃、日系企業「家族の安全」対応急ぐ〉(9月25日付、日経新聞電子版)などと報じられている。ただ、そうしたなかで社名の挙がる大手企業などを取材すると、複数社が「回答を差し控えたい」「対応が難しい」「社名を出さないでほしい」といった反応を見せた。
中国で事業を展開するある食品メーカーの関係者はこう明かす。
「中国の現地法人では日本人社員と中国人社員が協力して業務を行なっているが、現地社員のなかには反日感情を持っている人がいるかもしれない。今回の件で社員や家族の帰国を支援していることが広く伝わると、両者の関係に悪影響を与えてしまう懸念がある」
社員らの安全・安心を確保しながら、現地で反発を受けるリスクにも対応するという難しい舵取りを迫られているのだ。
“反日感情”の標的になるリスクと隣り合わせ
実際、中国でビジネスを展開することは、“反日感情”の標的になるリスクと隣り合わせになるという現実がある。
今回の事件が起きた「9月18日」は柳条湖事件(注:1931年に柳条湖で日本の関東軍が南満州鉄道を爆破した事件。関東軍はこれを中国軍の仕業として出兵し、満州事変のきっかけとなった)が起きた日だが、4年前にはパナソニック現地法人の中国人社員がSNS上に「918勿忘国恥(国家の恥を忘れるな)」と投稿。中国人上司に注意されると、社員はその会話内容をネットに公開して大炎上、パナソニックは謝罪文を公表する事態に追い込まれた。
2021年にはソニーが盧溝橋事件(注:1937年に中国軍の要衝でもあった盧溝橋付近で日本軍と中国軍が衝突した事件。その後、8年間にわたる日中間の全面戦争に突入した)の起きた7月7日に新製品のカメラを発表して「過去の戦争を反省していない」と猛烈な非難を浴びた。最終的には中国当局から「国家の尊厳を損なう広告を出した」と認定され、罰金100万元(約2000万円)を支払っている。
(後編につづく)
※週刊ポスト2024年10月18・25日号
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