「天狗の中国四方山話」

~中国に関する耳寄りな話~

No.504 ★ Googleマップにもくっきり、中国製盗聴装置に狙われる沖縄     海底ケーブルは「丸裸同然」

2024年07月23日 | 日記

JBpress (吉村 剛史)

2024年7月21日

地中海の海底ケーブル(Sybille Reuter/Shutterstock.com)*本文と直接の関係はありません。

 日本の「海底ケーブル」が危険にさらされている。

 昨年夏、2018年に沖縄近海の光ファイバー海底ケーブルから中国製の盗聴装置が発見されていたことが在沖縄米軍向け英字誌の指摘で明らかにされ、防衛・通信関係者に衝撃を与えた。だがこのときクローズアップされた海底ケーブルの脆弱性について、その後の日本の対策は十分とは言えない状況が続いている。もし「台湾有事」となれば、海底ケーブルの“脆さ”は日米台、ひいては背後に北朝鮮を抱える韓国などにも致命傷となりかねない。日本の大手民間電気通信事業者OBもこう警鐘を鳴らす。「民間任せではもう限界。重要インフラとして国を挙げて防護、管理を進め、近隣国・地域とも協力する必要がある」――。

“むき出し”の超重要インフラ

「米軍基地の電話線ルートなども含め全容を把握している」

 那覇市内で筆者のインタビューに応じた大手民間電気通信事業者OBはこう切り出した。

 彼が一例として挙げたのが沖縄本島勝連半島先端に位置する海上自衛隊沖縄海洋観測所(沖縄県うるま市勝連平敷屋)から伸びているケーブルの存在だ。

「この基地は対潜水艦の観測基地。目の前のホワイトビーチには海底ケーブルが2本ある。1本は米軍嘉手納基地を起点とするもので、グアム経由でハワイにつながっている通信用、もう1本は太平洋に張り巡らされた、対潜水艦用の聴診器、つまり“音波ソナー”だろう。極めて重要なケーブルなのだが、沖縄近海の海水は透明度が高いため、その存在が肉眼やGoogleマップでも視認できるのが実情だ」

Googleマップを航空写真モードにすると海上自衛隊沖縄海洋観測所から伸びる海底ケーブルのラインがはっきり分かる

実際にホワイトビーチに足を運んでみると…

 この指摘を確認するため筆者は実際に現場を訪れてみた。

 すると、実際に同ビーチへの立ち入りは自由で、基地の監視カメラは筆者の動きを追って作動しているものの、ケーブルの位置は陸上からも確認でき、近づくことも容易だった。

 有事の際、切断、破壊工作などの対象となることを考慮すれば文字通り「無防備」というほかない。

海上自衛隊沖縄海洋観測所(右)隣接ビーチでの陸揚げが確認できる海底ケーブルのライン。コンクリートで保護されている=2024年7月2日、沖縄県うるま市勝連平敷屋(筆者撮影)

上記写真と同じ場所を写した別カット。陸揚げ部分がコンクリートで保護され、舗装道路のように見える海底ケーブルのラインが、白波の沖までまっすぐ伸びていることが陸上からも確認できる(筆者撮影)

海上自衛隊沖縄海洋観測所(右)が海底ケーブル陸揚げ地点に設置している監視カメラ=2024年7月2日、沖縄県うるま市勝連平敷屋(筆者撮影)

海上自衛隊沖縄海洋観測所隣接ビーチでの陸揚げが確認できる海底ケーブルのライン。前掲の写真とは異なるもう一本のケーブルだ=2024年7月2日、沖縄県うるま市勝連平敷屋(筆者撮影)

台湾、トンガ…ケーブル切断の影響甚大

 海底ケーブルの破壊・断裂は国防面だけでなく市民生活の面にも大きな被害をもたらす。

 台湾では2023年2月上旬、中国・福建省福州市に近い離島・馬祖列島で、台湾本島を結ぶ通信用の海底ケーブル2本が相次いで切断され、島民の生活に支障が生じる事態となった。偶然の事故か意図的な切断かは不明ながら、直前に航行した中国漁船と貨物船が関与したとみられており、台湾当局は「台湾有事」を念頭に、台湾本島などでも同様の事態が発生することも想定し、バックアップ用の衛星通信強化などの対策を急務としている。

 国際ケーブル保護委員会(ICPC)では、切断や破損は、船舶の錨や漁船の地引網、地震などを原因として世界各地で年間150件、日本周辺でも年間約10件程度起きているとしている。南太平洋・トンガ諸島では2022年1月に発生した海底火山の大規模噴火で、発生後数日間、同島の通信が途絶し孤立したことは記憶に新しい。

写真示し民間業者に“虫取り”依頼

 海底ケーブルには民間の通信用や地震観測用、さらには先述通り軍用でも通信用と対潜水艦用がある。ケーブル中心部に細い毛髪の束のように存在するのが光ファイバーケーブルで、これが超高速大容量通信を支えている。

 海洋進出に力を入れる中国では近年、海底資源の有無をはじめ、海の情報収集を活発化させている。そうした中で報じられたのが、沖縄近海の光ファイバー海底ケーブルから中国製盗聴装置が発見されたというニュースだった。

在沖縄米軍向け英字誌「This week on OKINAWA」2023年6月4日号

 その一報を報じたのは在沖縄米軍向け英字誌「This week on OKINAWA」2023年6月4日号。1955年から発行されている同誌の情報に米軍関係者らも強い関心を示しており、筆者も同号の発行直後、米軍周辺者から同誌報道の情報を得た。

 これを受けて筆者は台湾発の電子メディア「The News Lens JAPAN」でこの問題を取り上げたところ、さらに反響は大きくなり、日本の安全保障問題の大家らも相次いで「海底ケーブルは衛星とともに、有事を見据えて防護されるべき通信インフラ」だとして、その重要性を訴えるようになった。

 筆者は今回、2018年当時、総務省の要請にもとづき沖縄の海底ケーブルの保守点検を実施した大手民間電気通信事業者のOBに取材をかけた。

 このOBは当時の経緯をこう語る。

「盗聴装置は“虫”と呼ばれ、担当者が総務省職員から海底ケーブルに設置された中国製盗聴装置のサンプル写真を見せられたうえで、“虫取り”を念頭に保守点検を強化するよう要請があった。私もそれを見たが装置は黒く四角い形状で人が抱えて運べる程度の大きさだった」

光信号増幅装置から漏れる電磁波

 一方、民間通信事業者に“虫取り”を発注した総務省の元職員の証言も、前出OBの話を裏付ける内容だった。

「自分は総合通信局に所属していなかったため、中国の盗聴装置自体の写真は見たことがなかったが、海底ケーブルに中国の盗聴装置が仕掛けられた事実は知っていた」

 しかも同元職員は、仕掛けられたことが一度だけではなかった、ということも示唆した。

 通常、光ファイバーケーブルの信号を盗聴することは技術的に困難とされているが、海底ケーブルには一定区間ごとに光信号増幅装置が設置されており、ここがウイークポイントとなる。民間電気通信事業者OBも、「(海洋調査船などを使って盗聴装置を設置したであろう中国は)この増幅装置から漏れる電磁波を盗聴し、情報を解析していたと思われる」と指摘する。“虫取り”依頼を受けた際に総務省は示したサンプルの盗聴装置も増幅装置に取り付けられていたものだったという。

光ファイバー海底ケーブルの増幅装置(民間電気通信事業関係者提供)

日本の通信は99%が海底ケーブル

 沖縄では1896(明治29)年に鹿児島との間で海底電信線が敷設されたのを皮切りに、翌1897年には石垣島経由の台湾線、1905年には南洋ヤップ島線が敷設され、第二次大戦で破壊されるまで陸揚げ地点の読谷村渡具知が島外との連絡、中継の重要地点だった。

 今日、沖縄近海における主要な通信網としては、NTTをはじめ、KDDI、AT&T、さらに米軍による光ファイバー海底ケーブルなどがあり、沖縄ではこれによって離島や日本本土をはじめ、他のアジア諸国・地域、グアム、ハワイ、オーストラリアなどと情報通信を行っている。

 世界全体での海底ケーブル通信網の総延長は150万キロメートルで地球約37周分。インターネットや電話、放送をはじめ、軍事利用まで通信の約95%がこれに依存しており、人工衛星通信の割合はごくわずかだ。特に島国の日本ではほとんどの通信を海底ケーブルが担っている。

 海底ケーブルメーカー大手のひとつNEC公式サイトによると、「国際通信などの大陸間を結ぶ光海底ケーブル通信システム」に関しては、「深海8000mの水圧に耐え、1万km以上の伝送が可能です。通信容量が非常に大きく、遅延も少ないため、現在では衛星通信に代わり国際通信の99%を光海底ケーブルが担っています」という。「これら海底機器は、深海で25年もの長期間にわたり、正常に稼働し続けることが絶対条件となっています」とインフラとしての重要性を強調している。

しかし、日本の海底ケーブルが陸上にあがる地点「陸揚げ局」の多くは太平洋側にあり、その集中地点も秘匿されておらず、外部の視線にさらされるなど脆弱であることは筆者が沖縄・勝連半島で確認した通りだ。

 南海トラフ巨大地震の可能性など、災害への備えから、日本海側への分散などは国の検討俎上にあるが、こと有事の際の攻撃(破壊工作など)の対象となる点に関しては、多くが民間の所有のため、業者任せとなっているのが実情だ。

「有事の際のターゲット」は国際的常識

 ただ、各国の情報機関が海底ケーブルを狙って盗聴し、情報収集するのは電話線の時代から行われてきた。その応酬は米ソ冷戦時代から現代に至るまで変わりはない。最近では米国の国家安全保障局(NSA)と、同中央情報局(CIA)の元局員で、NSAによる国際的監視網(PRISM)の実在を告発してロシアに亡命したエドワード・スノーデンが、米国政府による海底ケーブルを使った情報収集活動も暴露している。この海底ケーブル事業には中国のファーウェイ・マリーンなども参入していた。

 海外では「安全保障」の観点から海底ケーブルの防護強化に取り組むところも少なくなく、米国では海底ケーブル計画に政府が関与したり、陸揚げ局の詳細を秘匿したりするなど慎重な姿勢で、英国でも海中監視用の船舶を建造するなど意識の高さをうかがわせている。

 日本の大手民間通信事業者OBは「日本でも民間任せにせず、国を挙げて防護、管理体制強化を進め、状況によっては価値観を共有する近隣国・地域とも協力する必要がある」と訴えるが、それももっともな言い分だ。

活発化する中国の対外情報収集活動

 中国による活発な対外情報活動は西側諸国の脅威となっている。

 2023年2月には、複数の無人偵察気球が米国やカナダ上空に飛来し、米軍機が撃墜する問題も発生した。中国側は気象観測目的の民間の気球だと主張したが、撃墜後に調査した米国は、複数のアンテナやセンサーを動かすために必要な電力を供給するためのソーラーパネルが搭載されていたことを確認し、米政府高官は「携帯電話などの位置を特定し、データを収集する能力がある」などと指摘した。

 この気球に関しては日本の防衛省も昨年、米国の事例をもとに、2019年11月に鹿児島県薩摩川内市、2020年6月に仙台市、21年9月に青森県八戸市の上空でそれぞれ確認された気球が、中国の無人偵察気球であると強く推定される、と発表した。その場合は領空侵犯に該当するとして、遅ればせながら外交ルートを通じ、中国政府に事実関係の確認を求め、領空侵犯は断じて受け入れられない、と申し入れる一幕もあった。

 情報活動に詳しい元陸上自衛官のひとりはこう語る。

「軍事上の絶対的な機密に関する通信には衛星が使用されている。ただ、それでも中国が民間やマスコミ、その他の通信を傍受することは脅威のひとつだ」

 日本は、自国の情報通信インフラの脆さについてほとんど認識されていない。元自衛官が指摘するように、いまこそ官民あげて意識を改める必要性がある。

吉村 剛史
日本大学法学部卒後、1990年、産経新聞社に入社。阪神支局を初任地に、大阪、東京両本社社会部で事件、行政、皇室などを担当。夕刊フジ関西総局担当時の2006年~2007年、台湾大学に社費留学。2011年、東京本社外信部を経て同年6月から、2014年5月まで台北支局長。帰任後、日本大学大学院総合社会情報研究科博士課程前期を修了。修士(国際情報)。岡山支局長、広島総局長、編集委員などを経て2019年末に退職。以後フリーに。主に在日外国人社会や中国、台湾問題などをテーマに取材。東海大学海洋学部非常勤講師。台湾発「関鍵評論網」(The News Lens)日本版編集長。

著書に『アジア血風録』(MdN新書、2021)。共著に『命の重さ取材して―神戸・児童連続殺傷事件』(産経新聞ニュースサービス、1997)『教育再興』(産経新聞出版、1999)『ブランドはなぜ墜ちたか―雪印、そごう、三菱自動車事件の深層』(角川文庫、2002)、学術論文に『新聞報道から読み解く馬英九政権の対日、両岸政策-日台民間漁協取り決めを中心に』(2016)など。日本記者クラブ会員。日本ペンクラブ会員。ニコニコ動画『吉村剛史のアジア新聞録』『話し台湾・行き台湾』(Hyper J Channel)等でMC、コメンテーターを担当。

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