夕ぐれの時はよい時、
かぎりなくやさしいひと時。
それは季節にかかわらぬ、
冬なれば煖炉のかたわら、
夏なれば大樹の木かげ、
それはいつも神秘に満ち、
それはいつも人の心を誘う、
それは人の心が、
ときに、しばしば、
静寂を愛することを
知つているもののように、
小声にささやき、
小声にかたる……
夕ぐれの時はよい時、
かぎりなくやさしいひと時。
夕ぐれのこの憂鬱は何所から来るのだろうか?
だれもそれを知らぬ!
それは夜とともに密度を増し、
人をより強き夢幻へとみちびく……
夕ぐれの時はよい時、
かぎりなくやさしいひと時。
夕ぐれ時、
自然は人に安息をすすめるようだ。
風は落ち、
ものの響は絶え、
人は花の呼吸をきき得るような気がする、
今まで風にゆられていた草の葉も
たちまちに静まりかえり、
小鳥は翼の間に頭(こうべ)をうずめる……
夕ぐれの時はよい時、
かぎりなくやさしいひと時。
~堀口大學(詩人・歌人)☆★☆詩集より~
★画像は本日18時40分頃の西の空★
我が家のベランダにて撮影。