宝石たちの1000物語[番外編]
深夜12時開店のBAR
フツーの何気ない日常の会話から奥深いジュエリーや宝石の世界に踏み込んでいく。男と女、女と女、そして男と男。舞台は新大久保の裏ぶれた片隅にある一軒の酒場。客が10人も入れば一杯になってしまう小さな酒場。深夜零時きっかりに開店し客がいれば何時までも付き合い、客が帰れば閉店する。そんな店にようこそ、いらっしゃい。今宵もまた・・・・。
第17話
[レッドベリル]
◎
「マスター、オムレツと出汁巻き卵焼きとどっちが得意?」
「あなたよしなさいよマスターが困ってるじゃないの」
掛け合い漫才よろしくマスターをエサにしてお喋りしているのは、
この店の常連のホステスだ。
自分たちの働いている店がはねた後、
客の誘いがないとここに来てひと騒ぎして帰るのが
いつものパターンになっている。
「いや両方とも大丈夫です。作り方教えましょうか」
「マスターどうして判ったの。私が作り方を知りたがっている事」
「あんたの考えてることぐらい直ぐに判るわよ」
「煩いわねほっといてよ今度私結婚するかも知れないのよ」
「わーズルい一生独身でいようと約束したじゃない」
「あれは取り消しよ」
「ひどい!あんたなんかどうせ直ぐに振られるわよ」
「ところで飲み物はなんにします?」
「いけない、私はとりあえずビールね。それと出汁巻き卵焼き」
「私は飲み過ぎているからウーロン茶」
「あら珍しいわねあなたが飲まないなんて」
「うーん、このところちょっと調子が悪いのよね」
「気をつけた方がいいわよ」
「何がよ、何を気をつけるのよ」
「だからさぁ・・」
「ヘィ!お待ち、出汁巻き卵焼きです」
「ワァ待ってました。これが食べたかったのよ」
「ところであんた作り方見てた?」
「あぁいけない、あんたが話しかけるからすっかり忘れていたわ」
「もうやってらんないわね」
「大丈夫ですよ。もし良かったら店がはねたあと教えますからそれまでいて下さい」
「本当っ!マスターアリガト」
「ところであんたその指輪どうしたの?」「これっ?へへ~っ良いでしょう。勿論彼からのプレゼントだわ」
「それにしては左の薬指にしていないじゃない」
「婚約指輪なんてもう古いわ。これからはピュアの時代よ。そう云った事には拘らない関係が良いのよ」
「呆れたそんな事云ってると・・、あとでどうなっても知らないよ」
「大きなお世話よ。ところでこの指輪何の宝石か知ってる?」
「さっきから気になってたんだけど、あまり見ない宝石ね」
「そうでしょこれは結構珍しいものよ。あまり値段は高くないって枯れ入ってけれど。マスター宝石の事詳しいのよね。これ何の宝石か教えてよ」
「あらあんた知らないの?」
「ちょっと見せくれますか」
といいながら彼女の指に収まっている指輪を外して自分の手に取った。
これは恐らくレッドベリルといってかなりレアな宝石ですよ。
「そうよねやっぱりだわ。これで私の心は決まった」
そういうと即座に店を出てしまった。