宝石箱の片隅「深夜のモノローグ」・no.0027
『人生浮き沈みは誰にでもある』
あまり偉そうな事は言えませんが、
長い間業界の隅っこでウロチョロしているといろんな事が見えてきます。
私はクリエイターの端くれとして、生涯現役と考えていましたから
会社を辞めて独立するタイミングをいつも考えていました。
養殖真珠発明100周年事業が一段落した1992年の冬、
チャンスだと思い、いきなり総務部に退職願を出しに行きました。
これには周りの上司や同僚もビックリしたようです。
独立してから10年間は順調で、面白いように仕事をこなす事ができました。
同時に、業界の裏の裏まで知る事ができ、
企業や経営者などの浮き沈みも何度か目の当たりにしました。
ジュエリー業界というのは、
所詮は零細企業の集まりですから、
誰がどこでくしゃみをしたかなど手に取るように分かります。
そう言えば会社にいた時も、
出世コースを歩んでいた人がある日突然窓際に、という現場も見ました。
それで終わっていく人や、もう一度日の目を見る人など
人生の浮き沈みは誰にでもあるんだなぁと、その時に実感したのです。
結局は無理に背伸びをせずに、
手なりで歩んで行った人が一番良いのだ、ということかも知れません。
宝石たちの1000物語
人に歴史があるように、宝石にもそれぞれの物語がある。1000文字に収められた最も短いショートショート。1000の宝石たちの煌めき。それは宝石の小宇宙。男と女の物語は星の数ほどあります。そしてそれぞれの物語は切なく哀しく、時には可笑しく愚かしく。
アンコール特集:シリーズー1
第7回
《ルビー/ruby》
『昔の女』
俺はBMWのコンバーチブルのエンジンを全開にして、
深夜の第三京浜を飛ばしていた。
メーターゲージは140キロを示している。
ヤバイなこれでパトカーに捕まったら免停だ。
そう思いながらスピードは緩めなかった。
やがて港北の出口が見えて、俺は減速し左に折れた。
料金所を出て右手に日産スタジアムを見ながら新横浜方面にハンドルを切る。
今頃は風が心地よく、ウインドーを下ろして、外気を一杯に吸い込んだ。
新横浜駅の手前を右にいくと三沢方面だ。
暫く走って左折、今度は東神奈川方面だ。
この道は結構往復した事を思い出した。
楽しかったことも辛かったこともみんなかき集めて、
この道のあちこちに捨ててきた。
走っていると前方に人影が見えた。
妙に気になりスピードを緩めた。
アッと驚いた。
何でこいつがこんな処にいるんだ。
向こうもまさか俺が車を転がしているとは知らず、開いた口が塞がらない。
こんな偶然ってあるんだ。
そう思いながらハザードランプを点滅させて、車を止めた。
「やぁ!!」
「・・・」
「どうした、こんな時間にこんな処で。兎に角乗れよ、良かったら」
女はシートに身体を沈めた。
「海が見えるところに行きたい」あいつがつぶやいた。
「海が見たいの」俺は何も言わず車を発進させた。
このまま真っすぐに進めば横浜にでる。
それからはナビ次第、というヤツだ。
それにしてもどうしたんだろう。
暫くの間お互いに無言でいたが、やがて車は横浜埠頭にでた。
こいつは相変わらずの生活をしているようだ。
もう若くはないんだから、少しは将来を考えないと娘が悲しむぞ。
と言いたい事を飲み込んだ。
いつの間にか夜が明けてきた。
朝日が昇るまでもう少し時間がある。
「何処かでコーヒーでも飲むか。ここは少し寒いぜ」
「そうね!」ふと見ると耳元のルビーのイヤリングが揺れている。
この宝石、かなりのオタクでないと知らないレアもののルビーで
なかなか手に入る代物ではない。
銀座の宝石店で見つけて買ったのだが、今日はやけに輝いている。
「私あの近くに住んでいるの。今の彼とそりが合わなくて飛び出してきたの。そしたら貴方がいて驚いたわ」
「俺だって驚いたよ」
「でもこんな偶然ってあるのね。私ね、このイヤリングだけはつけて出てきたの」
「娘は?」
「もう高校生よ。いま寮に入っているわ」
「もうそんなに大きくなったんだ」
「私にはあなたからのイヤリングしか残ってない」
いつものウソと判っているのに、俺にはあいつのその言葉が心地よく響いた。
AZClubジュエリーの歴史研究
定例ゼミ『古代の金(gold)とジュエリー技法』(22)
『何故私たちは金に魅せられるのか』
人類が金(gold)を発見し、
その類稀な価値に歴史を委ねるようになるのは、いつ頃のことでしょうか。
鉄や銅は武器や道具として利用されるので時代区分が行われますが
金はこれほど人類と密接な関わりがあるのに
歴史上の時代区分は一度もされません。
何故でしょうか、改めて考えると実に不思議なことなのです。
しかし金は様々なものに加工され、
多くの「美」を形作るのに貢献してきました。
その多くは古代オリエントや古代エジプトの造形物に明らかです。
私たちは普段当然のことのように金を用いてジュエリーを作りますが
文明が興った7000年前からどのような経過をたどり
現代に受け継がれてきたかを考察してみようと思います。
●
ZoomによるOnlineゼミになります
2023年8月21日(月)18:00〜20:00
定員7名(定員残りあと僅か)
参加料2500円
**AZClubジュエリーの歴史研究ゼミはJewellerystory_0512@yahoo.jo.jp までお申込み下さい。またジュエリーについてご意見、ご質問を承っております。お気軽にお寄せください。
宝石箱の片隅の呟き『深夜の散歩』−1995回
『本当は飲んじゃいけないのですが』
こう毎日暑いとついつい・・・・。
酒が原因なのかどうか、医者に聞いても答えてくれません。
しかし、尿道が塞がり死ぬ思いで2度ほど救急車を呼び、
何とかことなきを得て、生きながらえています。
今はひっそりとひとり酒で、満足している有様です。
この画像はJR新大久保駅前にある「近江屋」で
コロナの前には孫と一緒によく行きました。
一緒に住んでいる孫はどうしたわけか「うどん」が大好物、
近江屋では決まって盛りうどんを注文します。
そして私は菊正宗を常温で、仕上げは盛りそばです。
もともと大勢で飲む酒は好きではなく
どちらかというと、蕎麦屋、居酒屋そしてBARの片隅で
という飲み方が好きでした。
俗に言う「酒は一人で呑むべかりくる」というやつです。