Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

9/28(日)エヴァ・メイ ソプラノ・リサイタル/イタリアの名花が歌うウィンナ・オペレッタの名曲たち

2014年10月01日 02時07分21秒 | クラシックコンサート
エヴァ・メイ ソプラノ・リサイタル

2014年9月28日(日)14:00~ 紀尾井ホール S席 1階 1列 18番 12,000円
ソプラノ: エヴァ・メイ
ピアノ: 浅野菜生子
【曲目】
トスティ: 理想のひと
ロッシーニ: 歌曲集『音楽の夜会』より
      「約束」「叱責」「別れ」「バッカス祭り」
      「アルプスの羊飼いの娘」「ゴンドラの舟遊び」「踊り」
カールマン: 喜歌劇『チャールダーシュの女王』より「ハイヤ、ハイヤ、山こそわが心の故郷」
レハール: 喜歌劇『パガニーニより』より「愛、それは地上の楽園」
アルディーティ: 口づけ
レハール: 喜歌劇『メリー・ウィドウ』より「ヴィリアの歌」
J.シュトラウスII: 喜歌劇『こうもり』より「侯爵様、あなたのようなお方は」
ロンバルド: 喜歌劇『バル・タバランの侯爵夫人』より「フル・フルのワルツ」
レハール: 喜歌劇『ジュディッタ』より「熱き口づけを」
《アンコール》
 サティ: エンパイヤ劇場のプリマドンナ
 デ・クルティス: わすれな草
 越谷達之助: 初恋
 ロッシーニ: 歌曲集『音楽の夜会』より「踊り」

 東京プロムジカが主催する「珠玉のベルカント・シリーズ2014」、エヴァ・メイさんのソプラノ・リサイタルを聴く。メイさんは世界のトップクラスのオペラ歌手だが、定期的に来日してリサイタルやコンサートへの客演、それにオペラへの出演も数多いので、日本でもすっかりお馴染みの存在だ。日本でリサイタルを開くのは一昨年2012年9月以来の2年ぶり。前回はちょっと珍しい曲を集めてのプログラムだったが、今回も少々変わっているようだ。
 メイさんといえば、私が一番印象に残っているのは、2007年のチューリヒ歌劇場の来日公演で、『椿姫』のヴィオレッタを歌ったときのことだ。気品のある立ち姿と美しいコロラトゥーラの歌唱が素晴らしかった。その時の公演は、アルフレードがピョートル・ベチャワさん(当時はベチャーラと表記されていたが、METで成功してからはベチャワに変わった)、父ジェルモンがレオ・ヌッチさんで、指揮はフランツ・ウェルザー=メストさんという超豪華番だった。
 その後2008年には「都民劇場」に登場し、アントニーノ・シラグーザさんとのチャーミングなデュオ・リサイタルを聴いた記憶がある。2010年にも紀尾井ホールでリサイタルを開いた。そして2011年には、東日本大震災の直前に夫君で指揮者ののジェラール・コルステンさんと来日して、読売日本交響楽団の名曲シリーズに客演、オーケストラをバックに堂々たる歌唱を披露した。メイさんは震災の前に日本を離れたが、コルステンさんは仕事で残っていて、大地震を体験してビックリしたとか。

 さて今日のリサイタルでは、当初告知されていたパオロ・ファナーレさん(テノール)のゲスト出演が中止になったために、デュオの曲が削られ、さらに曲目の変更などもあって、最終的には上記の曲目が演奏された。

 1曲目はトスティの歌曲「理想のひと」。しっとりとした愛の歌だ。2年ぶりに聴くメイさんの声は、ちょっと抑え気味のスタートになったようだが、切々と愛を歌う表現力は心に染み入るような訴えるチカラを持っている。
 2曲目はロッシーニの歌曲集『音楽の夜会』。8曲のうち7曲が歌われた。私はよく知らなかったのだが、この歌曲集は人気があり、リサイタルではよく採り上げられるようだ。先日(2014年7月)もデジレ・ランカトーレさんがリサイタルで3曲ほど歌っていた。メイさんは曲が進むうちに徐々に調子を上げていって、声が次第に突き抜けるようになってきた。そうなるとあくまで正確な音程のコロラトゥーラ的に技巧が冴え、表現力に磨きがかかってくる。とくに「バッカス祭り」は、陽気に跳ね回る旋律をノリの良いリズム感で、技巧を駆使した見事な歌唱を、楽しそうに歌っていた。もちろん、それぞれの曲による曲想の違いにも多様な表現力で、深みのある歌唱力で聴かせてくれた。イタリアの歌曲というのはトスティくらいしか聴いたことがないが、オペラ・アリアと違ってあまりドラマティックにはならない分だけ、ディテールの繊細な感情表現が、これはこれで素晴らしく感じられた。気になったのは1曲ごとに拍手が入ったこと。イタリア的な陽気なノリで聴くのも良いが、歌曲集なのだから・・・・。

 プログラムを見てこれはまた思い切った選曲だなァと感じた後半は、何とほとんどかウィンナ・オペレッタの曲なのである。ということはドイツ語・・・・。
 1曲目はカールマンの『チャールダーシュの女王』より「ハイヤ、ハイヤ、山こそわが心の故郷」。いきなりハイテンションの曲だ。踊り出したくなるようなノリの良さと、立ち上がりのピリッとしたドイツ語歌唱、そして高音部の伸びの良さも素晴らしい。
 2曲目はレハールの『パガニーニより』より「愛、それは地上の楽園」。このオペレッタ自体は聴いたことがないが、旋律の節回しはいかにもレハール節。甘く、ちょっと切なく、むやみにドラマティックである。メイさんのオペレッタというのは、ほとんどイメージが湧いて来ないと思われるが、聴いている限りではけっこう面白いかもしれない。まあ、役柄によって、ではあるが。
 3曲目はアルディーティの歌曲「口づけ」。後半では唯一のイタリアの歌曲で、有名な曲だ。技巧的にもけっこう難易度が高そうで、しかも強烈な高音域も出てくる。メイさんの持てる技巧と超高音を含む歌唱力の本領発揮であった。
 4曲目はレハールの『メリー・ウィドウ』より「ヴィリアの歌」。これはあまりも有名なアリアだが、「陽気な未亡人」ハンナのような役柄なら、メイさんにも合っている。歌唱の方は文句の付けようもなく素晴らしかった。イタリアのオペラ歌手が歌うドイツ語のオペラ(オペレッタ)なのに、想像していたよりは遥かに様になっている。さすがは世界のトップアーティストだけのことはある、と妙に感心してしまった。ところが・・・・
 5曲目はJ.シュトラウスIIの『こうもり』より「侯爵様、あなたのようなお方は」。曲の方はコロラトゥーラ・ソプラノの超人気アリアだから選曲としては間違ってはいないのだろうが、役柄の問題として、アデーレをメイさんが歌うなんて・・・・。どっちかと言えばロザリンデの方が良いのでは?? それはともかく、歌唱の方は抜群の上手さを発揮した。技巧的に歌唱も安定しているし、高音域の立ち上がりも伸びも良い。はやり、上手いものは上手い、ということで良しとしよう。
 6曲目はロンバルドの『バル・タバランの侯爵夫人』より「フル・フルのワルツ」。このオペレッタもまったく知らなかったが、まあ、題名を見るだけで何となく想像がつく。あくまでオペレッタ的な意味でとてもロマンティックな曲だ。メイさんの歌唱も、そういう意味でとてもロマンティックに、抒情性たっぷりに歌っていた。
 最後は、レハールの『ジュディッタ』より「熱き口づけを」。こちらもオペレッタ自体が日本で上演されることはほとんどないが、この曲だけはソプラノさんのリサイタル・ピースとして人気がある。メイさんのドイツ語歌唱もあまり違和感はないし、この思いっきりレハール節の曲を、情感を込めて歌っている。甘く、切なく、むやみにドラマティックに、思いっきり盛り上げた。私もこの手の曲は大好きなので、Brava!!

 時間もたっぷりと余っていたので、アンコールは4曲も。サティの「エンパイヤ劇場のプリマドンナ」。もとはピアノ曲らしい。ここでフランス語の歌唱が飛び出した。歌詞の内容は分からないが、ちょっと斜に構えて小粋なサティらしい洒落た曲だった。
 デ・クルティスの「わすれな草」は当初プログラムに載っていて、本番前に落とされていた曲。恋人との別れを歌った曲である。しっとりと、朗々としたメイさんの歌唱にも情感がたっぷりと込められていた。ちなみに、会場に張り出されていたアンコール曲の紹介には「ディ・カプア:わすれな草」となっていたが、これは間違い。作曲はエルネスト・デ・クルティスである。
 越谷達之助の「初恋」は、最近流行っているのだろうか。先日のランカトーレさんもアンコールで歌ってくれたし、その翌日の小林沙羅さんのリサイタルでもアンコール曲になっていた。イタリア人の歌唱は、ローマ字に置き換えた日本語の曲にも十分に耐えうる。おそらくは歌詞の内容も十分に理解した上でも情感の込められた歌唱であった。
 おそらくアンコールは3曲の予定だったのだろう。鳴り止まない拍手に急遽追加されたのだろうと思う。前半の最後に歌ったロッシーニの『音楽の夜会』より「踊り」をもう一度。元気よく、パワフルにリサイタルを締めくくった。


 終演後は恒例のサイン会。サインをしていただくネタがなかったので、今回は失礼して写真だけ撮らせていただいた。私服に着替えてお出ましのメイさんは、気取った様子もなく、さりげなくお洒落で、上品で、素敵な女性である。
今回のリサイタルは、ウィンナ・オペレッタという、どちらかといえば意表を突くプログラム構成だった。何しろ、イタリアのオペラ・アリアが1曲もないのだ。ところが、聴いてみれば何の違和感もなく、実に充実した歌唱であったといえる。世界クラスのプリマ・ドンナはやはり幅広い才能を持っているのだろう。やはり、メイさんにBrava!!を送ろう。
 メイさんのこの次の来日は、来年2015年3月の予定。再び、夫君のコルステンさんと来日し、読響の「サントリーホール名曲シリーズ」と「東京芸術劇場マチネーシリーズ」に登場する。今度はモーツァルトのアリアをたっぷり聴かせてくれる予定になっている。

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【お勧めDVDのご紹介】
 本文でも紹介した、チューリヒ歌劇場によるヴェルディの『椿姫』です。日本公演の2年前、2005年にチューリヒで収録されたもので、もちろん日本公演と同じフランツ・ウェルザー=メストさんの指揮、ユルゲン・フリムさん演出のプロダクションです。配役では、父ジェルモン役がトマス・ハンプソンさんで、ものすごい熱演を見せてくれます。エヴァ・メイさんのヴィオレッタも絶品。私はナマのステージを間近で鑑賞しているだけに、このDVDは記念、あるいは記録用的な意味合いで購入しましたが、上演のクオリティは一級品だと思います。

ヴェルディ: 歌劇「椿姫(ラ・トラヴィアータ)」(伊語歌詞) [DVD]
エヴァ・メイ,ピョートル・ベツァーラ,トマス・ハンプソン,カタリーナ・ピーツ,ウェルザー=メスト
Naxos Japan


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