
野方WIZ フライデー・コンサート 第226回
須関裕子 ピアノ・リサイタル
2018年1月12日(土)19:00〜 野方区民ホール(東京都中野区)自由席 1列 6番 1,800円
ピアノ:須関裕子
【曲目】
モーツァルト:デュポールのメヌエットによる9つの変奏曲 ニ長調 K.573
シューベルト:即興曲 変ホ長調 作品90-2
シューマン/リスト編:献呈
リスト:超絶技巧練習曲 第12番「雪あらし」
チャイコフスキー:ドゥムカ ハ短調 作品59
チャイコフスキー:『くるみ割り人形』より「花のワルツ」
ショパン:幻想即興曲 嬰ハ短調 作品66
ショパン:スケルツォ 第2番 変ロ短調 作品31
ショパン:舟歌 嬰へ長調 作品60
ショパン:ポロネーズ 第6番 変イ長調 作品53「英雄」
《アンコール》
ショパン:ノクターン 嬰ハ短調(遺作)
ピアノの須関裕子さんのリサイタルが東京中野区の野方というところであった。訪れるのは初めてのことである。「野方区民ホール」は中野区にいくつかある区民ホールの一つ。ここで「野方WIZ フライデー・コンサート」というシリーズを開催していて、今回で第226回になるのだという。人口の多い中野区だけのことはある。
ところがホール自体はあまり良好な空間とは言えないようだ。音が拡散してしまうのか、響きが薄く、潤いがない。また、ピアノがちょっと短いKAWAIで、別にKAWAIだからいけないというつもりはないが、全体的に音量が出ない感じで、インパクトに欠ける。ただし音は澄んでいてとてもキレイだった。もちろん、弾き手によるところも大きな要素なのだろう。
プログラムは前半がモーツァルトからチャイコフスキーまで古今の名曲を集めたもの。後半はオール・ショパンの名曲集である。いずれも須関さんらしい選曲。とくに前半はお人柄を反映しているようで、それぞれの作曲家の中でも優しくロマンティックで美しい曲を選んでいる。一方後半のショパンは、お客さんが喜びそうな人気のある曲ばかりになっている。

1曲目はモーツァルトの「デュポールのメヌエットによる9つの変奏曲」。玉を転がすようなコロコロと鳴る音が可憐な演奏だ。音の粒立ちが丸く、音色は澄んでいて、耳に優しく響いてくる。
2曲目はシューベルトの「即興曲 変ホ長調 作品90-2」。シューベルトにしては器楽的な魅力がいっぱいの曲だ。めまぐるしく駆け巡る装飾的なパッセージは音が均一で流れるような美しさ。中間部はやや歌謡的な主題となり、やや色彩的にトーンを落として抒情性を描き出していた。
3曲目はシューマン作曲の歌曲をリストが編曲した有名な「献呈」。須関さんの演奏は、全体を優しく温もり感のある音色で包み込むような感じ。クライマックスに向けて感情が高ぶっていくところが、女性ならではの表現力で、とても美しい。
4曲目はリストの「超絶技巧練習曲」より 第12番の「雪あらし」。今の季節に相応しい選曲だ。そういえば雪こそ降ってはいなかったが今日も寒かった。高音域の装飾的なパッセージと低音域に主旋律を置くなど多声的な造型だ。須関さんの演奏自体は素晴らしくロマンティックな情感を描き出しているのだが、楽器がパワー不足で重低音の響きが薄いため、リストっぽい重厚感が足らなく感じられたのが惜しかった。
5曲目はチャイコフスキーの「ドゥムカ ハ短調 作品59」。哀愁を帯びた抒情的な主題が印象的な曲だ。民族的な風合いも含まれている。チャイコフスキーの曲はあまりビアノのリサイタルでは聴く機会が多くないと思うが、稀代のメロディ・メーカーだけあってどの曲も旋律が美しい。ここでも演奏は素敵なのに、重低音が不足がちでロシアの「剛の部分」が薄く、高音域のキラキラとした音による「柔の部分」は逆にロシア的なロマンティシズムがうまく描き出されていた。
前半の最後はチャイコフスキーの『くるみ割り人形』より「花のワルツ」。オーケストラで聴き慣れているためピアノで聴くと若干の違和感を感じないでもないが、須関さんのピアノは、オーケストラで色々な楽器が交替して主旋律を演奏するかのような、多彩な色彩感を発揮していた。ああ、ここはヴァイオリン、ここはフルートといった具合に。
後半はオール・ショパン・プログラム。まずは「幻想即興曲」。あまりにも有名な曲で、多くのピアニストがプログラムに採り上げる。須関さんもしばしば演奏している。今日の演奏は、楽器の低音が弱いため、全体的に軽めの仕上がりとなった。右手の華麗なテクニックによる旋律が転がるように華やかで美しい。トリオ部分では左手の分散和音が右手の主旋律と絶妙のバランスだった。
2曲目は「スケルツォ 第2番」。こちらもショパンの代表的な名曲のひとつ。須関さん演奏の中では自由度の高い方になるだろうか。様々に変化する曲想に対して、瞬間瞬間を刹那的に美しく描く。即興的なヒラメキで演奏する方が良い曲だと思う。演奏は他の曲と比べてもダイナミックレンジが広く、表現も多彩になっている。テンポが速めなところも情熱的な情感が出て来て素敵だ。
3曲目は「舟歌 嬰へ長調」。こちらはショパンの中でも絵画的な標題性の強い曲だと思う。水面に陽光が反射してキラキラと眩しく煌めくような風情は、須関さんの透明感のある音色にはピッタリで、ロマンティックな情感の表現もあまりくどくなく、人間の生々しい感情を透明な光りの煌めきで包み込んでいるようなイメージであった。
最後は「英雄ポロネーズ」。ポロネーズはショパンのアイデンティティそのものだと思う。祖国ポーランドへの思いがギュッと恐縮している。須関さんの演奏は、舞曲としてのリズム感をある程度守りつつ、情感の表現の部分で自由度の高さを見せる。揺らぐテンポ感と起伏の激しい情感の表出、その背後にある愛国心という温かい情愛。比較的端正な演奏の中に、そうした表現がギッチリ詰まっていの素晴らしい演奏だったと思う。
アンコールは、やはりショパンで遺作の「ノクターン 嬰ハ短調」。憧憬と諦念とが入り交じったしっとりとした情感もショパンの魅力のひとつ。聴いている内に胸が締め付けられるような切ない気持ちになってくる。
終演後はロビーにてファン交流会(?)というわけでもないのだが、けっこう多くの人たちが残っていて、演奏が終わった後のゆるりとした時が流れていく。大変忙しく活躍している須関さんだが、ソロ活動としては、今年2018年の3月3日に東京・日比谷の松尾ホールでリサイタルが予定されている。また2月24日には初のソロCDアルバム「ラ・カンパネッラ」をリリースする予定になっている。これまで多くの弦楽器奏者との共演ではCDが出ているが、ソロは初めてなので、今から楽しみである。
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【お勧めCDのご紹介】
須関裕子さんの初のソロCDアルバム『ラ・カンパネッラ』のご紹介です。2018年2月24日発売予定ですので、現時点では予約受付中です。今日のリサイタルで演奏された曲の中では、シューマン/リスト編の「献呈」や、ショパンの「英雄ポロネーズ」、「スケルツォ第2番」、「舟歌」などが収録されています。乞うご期待ですね!
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須関裕子 ピアノ・リサイタル
2018年1月12日(土)19:00〜 野方区民ホール(東京都中野区)自由席 1列 6番 1,800円
ピアノ:須関裕子
【曲目】
モーツァルト:デュポールのメヌエットによる9つの変奏曲 ニ長調 K.573
シューベルト:即興曲 変ホ長調 作品90-2
シューマン/リスト編:献呈
リスト:超絶技巧練習曲 第12番「雪あらし」
チャイコフスキー:ドゥムカ ハ短調 作品59
チャイコフスキー:『くるみ割り人形』より「花のワルツ」
ショパン:幻想即興曲 嬰ハ短調 作品66
ショパン:スケルツォ 第2番 変ロ短調 作品31
ショパン:舟歌 嬰へ長調 作品60
ショパン:ポロネーズ 第6番 変イ長調 作品53「英雄」
《アンコール》
ショパン:ノクターン 嬰ハ短調(遺作)
ピアノの須関裕子さんのリサイタルが東京中野区の野方というところであった。訪れるのは初めてのことである。「野方区民ホール」は中野区にいくつかある区民ホールの一つ。ここで「野方WIZ フライデー・コンサート」というシリーズを開催していて、今回で第226回になるのだという。人口の多い中野区だけのことはある。
ところがホール自体はあまり良好な空間とは言えないようだ。音が拡散してしまうのか、響きが薄く、潤いがない。また、ピアノがちょっと短いKAWAIで、別にKAWAIだからいけないというつもりはないが、全体的に音量が出ない感じで、インパクトに欠ける。ただし音は澄んでいてとてもキレイだった。もちろん、弾き手によるところも大きな要素なのだろう。
プログラムは前半がモーツァルトからチャイコフスキーまで古今の名曲を集めたもの。後半はオール・ショパンの名曲集である。いずれも須関さんらしい選曲。とくに前半はお人柄を反映しているようで、それぞれの作曲家の中でも優しくロマンティックで美しい曲を選んでいる。一方後半のショパンは、お客さんが喜びそうな人気のある曲ばかりになっている。

1曲目はモーツァルトの「デュポールのメヌエットによる9つの変奏曲」。玉を転がすようなコロコロと鳴る音が可憐な演奏だ。音の粒立ちが丸く、音色は澄んでいて、耳に優しく響いてくる。
2曲目はシューベルトの「即興曲 変ホ長調 作品90-2」。シューベルトにしては器楽的な魅力がいっぱいの曲だ。めまぐるしく駆け巡る装飾的なパッセージは音が均一で流れるような美しさ。中間部はやや歌謡的な主題となり、やや色彩的にトーンを落として抒情性を描き出していた。
3曲目はシューマン作曲の歌曲をリストが編曲した有名な「献呈」。須関さんの演奏は、全体を優しく温もり感のある音色で包み込むような感じ。クライマックスに向けて感情が高ぶっていくところが、女性ならではの表現力で、とても美しい。
4曲目はリストの「超絶技巧練習曲」より 第12番の「雪あらし」。今の季節に相応しい選曲だ。そういえば雪こそ降ってはいなかったが今日も寒かった。高音域の装飾的なパッセージと低音域に主旋律を置くなど多声的な造型だ。須関さんの演奏自体は素晴らしくロマンティックな情感を描き出しているのだが、楽器がパワー不足で重低音の響きが薄いため、リストっぽい重厚感が足らなく感じられたのが惜しかった。
5曲目はチャイコフスキーの「ドゥムカ ハ短調 作品59」。哀愁を帯びた抒情的な主題が印象的な曲だ。民族的な風合いも含まれている。チャイコフスキーの曲はあまりビアノのリサイタルでは聴く機会が多くないと思うが、稀代のメロディ・メーカーだけあってどの曲も旋律が美しい。ここでも演奏は素敵なのに、重低音が不足がちでロシアの「剛の部分」が薄く、高音域のキラキラとした音による「柔の部分」は逆にロシア的なロマンティシズムがうまく描き出されていた。
前半の最後はチャイコフスキーの『くるみ割り人形』より「花のワルツ」。オーケストラで聴き慣れているためピアノで聴くと若干の違和感を感じないでもないが、須関さんのピアノは、オーケストラで色々な楽器が交替して主旋律を演奏するかのような、多彩な色彩感を発揮していた。ああ、ここはヴァイオリン、ここはフルートといった具合に。
後半はオール・ショパン・プログラム。まずは「幻想即興曲」。あまりにも有名な曲で、多くのピアニストがプログラムに採り上げる。須関さんもしばしば演奏している。今日の演奏は、楽器の低音が弱いため、全体的に軽めの仕上がりとなった。右手の華麗なテクニックによる旋律が転がるように華やかで美しい。トリオ部分では左手の分散和音が右手の主旋律と絶妙のバランスだった。
2曲目は「スケルツォ 第2番」。こちらもショパンの代表的な名曲のひとつ。須関さん演奏の中では自由度の高い方になるだろうか。様々に変化する曲想に対して、瞬間瞬間を刹那的に美しく描く。即興的なヒラメキで演奏する方が良い曲だと思う。演奏は他の曲と比べてもダイナミックレンジが広く、表現も多彩になっている。テンポが速めなところも情熱的な情感が出て来て素敵だ。
3曲目は「舟歌 嬰へ長調」。こちらはショパンの中でも絵画的な標題性の強い曲だと思う。水面に陽光が反射してキラキラと眩しく煌めくような風情は、須関さんの透明感のある音色にはピッタリで、ロマンティックな情感の表現もあまりくどくなく、人間の生々しい感情を透明な光りの煌めきで包み込んでいるようなイメージであった。
最後は「英雄ポロネーズ」。ポロネーズはショパンのアイデンティティそのものだと思う。祖国ポーランドへの思いがギュッと恐縮している。須関さんの演奏は、舞曲としてのリズム感をある程度守りつつ、情感の表現の部分で自由度の高さを見せる。揺らぐテンポ感と起伏の激しい情感の表出、その背後にある愛国心という温かい情愛。比較的端正な演奏の中に、そうした表現がギッチリ詰まっていの素晴らしい演奏だったと思う。
アンコールは、やはりショパンで遺作の「ノクターン 嬰ハ短調」。憧憬と諦念とが入り交じったしっとりとした情感もショパンの魅力のひとつ。聴いている内に胸が締め付けられるような切ない気持ちになってくる。
終演後はロビーにてファン交流会(?)というわけでもないのだが、けっこう多くの人たちが残っていて、演奏が終わった後のゆるりとした時が流れていく。大変忙しく活躍している須関さんだが、ソロ活動としては、今年2018年の3月3日に東京・日比谷の松尾ホールでリサイタルが予定されている。また2月24日には初のソロCDアルバム「ラ・カンパネッラ」をリリースする予定になっている。これまで多くの弦楽器奏者との共演ではCDが出ているが、ソロは初めてなので、今から楽しみである。

【お勧めCDのご紹介】
須関裕子さんの初のソロCDアルバム『ラ・カンパネッラ』のご紹介です。2018年2月24日発売予定ですので、現時点では予約受付中です。今日のリサイタルで演奏された曲の中では、シューマン/リスト編の「献呈」や、ショパンの「英雄ポロネーズ」、「スケルツォ第2番」、「舟歌」などが収録されています。乞うご期待ですね!
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