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神尾真由子&ミロスラフ・クルティシェフ デュオ・リサイタル
Mayuko Kamio & Miroslav Kultyshev Duo Recital
2012年11月24日(土)14:00~ 東京オペラシティコンサートホール S席 1階 7列 29番 7,000円
ヴァイオリン: 神尾真由子
ピアノ: ミロスラフ・クルティシェフ
【曲目】
ベートーヴェン: ヴァイオリン・ソナタ 第7番 ハ短調 作品30-2
ベートーヴェン: ヴァイオリン・ソナタ 第8番 ト長調 作品30-3
ベートーヴェン: ヴァイオリン・ソナタ 第9番 イ長調 作品47「クロイツェル」
《アンコール》
モーツァルト: ヴァイオリン・ソナタ 第21番 ホ短調 K.304 から第2楽章
ラヴェル: ヴァイオリン・ソナタ ト長調 から第3楽章
神尾真由子さんとミロスラフ・クルティシェフさんのデュオ・リサイタル・ツアー2012は、一昨日の11月22日、東京都町田市から始まって、12月9日までに、全国各都市で12回開催される。今回のツアーではタイプの異なる2種類のプログラムが用意されている。今日はその内の【プログラムA】で、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第7番・第8番・第9番「クロイツェル」というものだ。【プログラムB】は、ラヴェル、レスピーギ、フランクのヴァイオリン・ソナタというオール・フレンチのプログラムとなっている(こちらの方は12月5日に千葉で聴く予定)。
神尾さんのリサイタル・ツアーは2年ぶりになる。前回は2010年の10月~11月で、相方はもちろんクルティシェフさん。その時も2回聴いていて、横浜みなとみらいホールでは、ワックスマンの「カルメン幻想曲」などの人気曲とリヒャルト・シュトラウスのヴァイオリン・ソナタというプログラム。東京のサントリーホールではベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ「春」とブラームスのヴァイオリン・ソナタ第3番をメインとしたプログラムであった。
一昨年の時とプログラムを比較してみると、今回の方が全曲がヴァイオリン・ソナタであり、小品がない。クラシック音楽ファンのなかでも中級以上向けの本格的なプログラム構成だといえそうだ。地方都市ではちょっとキビシそうにも思えるが、やはり人気・実力ともにナンバーワンといってもいい神尾さんだけに、自信もあるのだろう。
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今日はツアー3日目で、東京オペラシティコンサートホールでの開催はツアーの中でもメイン・イベントに相当すると思われる。テレビの収録も入っていたので、演奏の方も気合いが入りそうだ。オペラシティのリサイタルは完売することが難しく、今日も当日券の発売があったようだが、会場の入りはかなり良い方で、1階はほぼ満席の状態だった。
1曲目はベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第7番。ベートーヴェンのソナタの中でも最近聴く機会が多かったような気がする。神尾さんの演奏は、非常に素直でスタンダードな印象だ。とはいっても、没個性という意味ではない。各曲の細部に至るまで、細やかな解釈がなされ、非常に丁寧に演奏されているだけでなく、音符のひとつひとつに生命が宿っているような瑞々しさがある。とにかく、音がキレイだ。最弱音から最強音まで、基本的に同じ音質で、ブレがない。ヴァイオリンの音色としてこれ以上に美しい音があるだろうか。一頃のように攻撃的な演奏ではなく、ひたすら音楽的な「美」を追求した結果であるように思う。
同時にクルティシェフさんのピアノも見事にコントロールされていて、美しい音色を聴かせるばかりか、神尾さんとのバランスも見事なくらいに息が合っている。以前は我慢しきれなくなって突出してしまったりすることがあったが、今日は極めて理性的なピアノであった。第1楽章の構造的な美しさ、第2楽章のごく自然な旋律の歌わせ方、第3楽章のヴァイオリンとピアノの掛け合い、第4楽章の流れるような躍動感など、余計な解釈を持ち込まず、世界でもトップクラスの技巧で、自然のままに楽曲の魅力を見事に表現することに成功していた。
2曲目は第8番。この曲も同様だ、神尾さんが追求しているのは、楽曲を書かれている通りに演奏する中で、如何にして、純粋に音楽的に、あるいは器楽的に「美しく」演奏することのように感じる。個人的な思い入れで解釈をいじらない。演奏家神尾真由子の個性で奏でるベートーヴェンではなくて、ベートーヴェンはこのように演奏して欲しい曲を書いたのであろう、という確信のような者が感じられる演奏だった。
後半は「クロイツェル」。この曲は、演奏家にとっては個性を発揮しやすい、激情的な曲想を持っている。最近の演奏家はとくに、普通に演奏してもつまらなく評価もされないので、独自の解釈を持ち込んで「個性的」に演奏する傾向が強いような気がする。ところが神尾さんはちょっと違う。非常に素直でスタンダード、つまり普通の解釈なのだ。それを器楽的に最高水準の美しい音で、ひとつひとつの音にまで、確信に満ちた表情が与えられていて、しかも曲全体が構造的にもしっかりまとまっているし、流れるようなリズム感も、ひたすら美しい(ここでいう「美しい」とはキレイという意味ではなく、純音楽的に完璧に近い、というような意味だ)。
第1楽章の入り方からして、ごく自然で美しい重音を響かせる。主部に入っても流れるような演奏で、重々しい主題を流麗に聴かせる。第2主題との対比も鮮やか。経過部も非常にスムーズに流し、トゲトゲしさがない。第2楽章は、器楽的に美しい音で、楽曲の持つロマンティシズムを浮き彫りに描き出す。変奏毎に音色が変わるというような弾き方ではなく、そのまま自然に弾けば、楽想によってことなる色彩感が浮き出してくる、といったイメージだろうか。第3楽章弾むようなリズム感が軽快で、上がり下がりするヴァイオリンの主題がヒステリックになることなく、柔らかく描かれていく。
今日の神尾さんの演奏は、とても冷静に感じられた。というよりか、平常心というべきか。音楽に対する熱い思いは黙っていても伝わってくるのに、それを前面には出さずに、落ち着いて演奏している。解釈、技巧、表現力のすべてを極めた演奏をすれば、音楽は美しく響き、聴く人の心に染み渡る。ベートーヴェンの曲は、少なくともそのように書かれているのだ。そのように確信している演奏だった。つまり純粋に音楽的な「美」が追求されているのだと思う。それこそが神尾さんの個性なのだ。釈、技巧、表現力の三拍子揃った神尾さんは、現代の最高のヴァイオリニストの一人であることは間違いない。もちろんBrava!!である。
アンコールの2曲はベートーヴェンから離れて、雰囲気を変えてくれた。モーツァルトは優雅で気品があり、ラヴェルは冗談みたいに技巧的な楽しさを聴かせてくれた。
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終演後はサイン会。神尾さんのサイン会はいつも長蛇の列ができて大変なことになるが、新譜のCD「ロマンティック・ソナタ」がリリースされたばかりということもあって、今日もスゴイことになった。CDは会場で購入したものの、あまりの人数に諦めることにした。新譜CDの内容は今日のリサイタルとは一致しないので、むしろ次回予定している千葉でのリサイタルの時にサイン会があることを期待しよう。ちなみにCDの内容は、フランク、ブラームス2番、R.シュトラウスのヴァイオリン・ソナタ集で、ピアノはもちろんクルティシェフさんである。
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Mayuko Kamio & Miroslav Kultyshev Duo Recital
2012年11月24日(土)14:00~ 東京オペラシティコンサートホール S席 1階 7列 29番 7,000円
ヴァイオリン: 神尾真由子
ピアノ: ミロスラフ・クルティシェフ
【曲目】
ベートーヴェン: ヴァイオリン・ソナタ 第7番 ハ短調 作品30-2
ベートーヴェン: ヴァイオリン・ソナタ 第8番 ト長調 作品30-3
ベートーヴェン: ヴァイオリン・ソナタ 第9番 イ長調 作品47「クロイツェル」
《アンコール》
モーツァルト: ヴァイオリン・ソナタ 第21番 ホ短調 K.304 から第2楽章
ラヴェル: ヴァイオリン・ソナタ ト長調 から第3楽章
神尾真由子さんとミロスラフ・クルティシェフさんのデュオ・リサイタル・ツアー2012は、一昨日の11月22日、東京都町田市から始まって、12月9日までに、全国各都市で12回開催される。今回のツアーではタイプの異なる2種類のプログラムが用意されている。今日はその内の【プログラムA】で、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第7番・第8番・第9番「クロイツェル」というものだ。【プログラムB】は、ラヴェル、レスピーギ、フランクのヴァイオリン・ソナタというオール・フレンチのプログラムとなっている(こちらの方は12月5日に千葉で聴く予定)。
神尾さんのリサイタル・ツアーは2年ぶりになる。前回は2010年の10月~11月で、相方はもちろんクルティシェフさん。その時も2回聴いていて、横浜みなとみらいホールでは、ワックスマンの「カルメン幻想曲」などの人気曲とリヒャルト・シュトラウスのヴァイオリン・ソナタというプログラム。東京のサントリーホールではベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ「春」とブラームスのヴァイオリン・ソナタ第3番をメインとしたプログラムであった。
一昨年の時とプログラムを比較してみると、今回の方が全曲がヴァイオリン・ソナタであり、小品がない。クラシック音楽ファンのなかでも中級以上向けの本格的なプログラム構成だといえそうだ。地方都市ではちょっとキビシそうにも思えるが、やはり人気・実力ともにナンバーワンといってもいい神尾さんだけに、自信もあるのだろう。
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今日はツアー3日目で、東京オペラシティコンサートホールでの開催はツアーの中でもメイン・イベントに相当すると思われる。テレビの収録も入っていたので、演奏の方も気合いが入りそうだ。オペラシティのリサイタルは完売することが難しく、今日も当日券の発売があったようだが、会場の入りはかなり良い方で、1階はほぼ満席の状態だった。
1曲目はベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第7番。ベートーヴェンのソナタの中でも最近聴く機会が多かったような気がする。神尾さんの演奏は、非常に素直でスタンダードな印象だ。とはいっても、没個性という意味ではない。各曲の細部に至るまで、細やかな解釈がなされ、非常に丁寧に演奏されているだけでなく、音符のひとつひとつに生命が宿っているような瑞々しさがある。とにかく、音がキレイだ。最弱音から最強音まで、基本的に同じ音質で、ブレがない。ヴァイオリンの音色としてこれ以上に美しい音があるだろうか。一頃のように攻撃的な演奏ではなく、ひたすら音楽的な「美」を追求した結果であるように思う。
同時にクルティシェフさんのピアノも見事にコントロールされていて、美しい音色を聴かせるばかりか、神尾さんとのバランスも見事なくらいに息が合っている。以前は我慢しきれなくなって突出してしまったりすることがあったが、今日は極めて理性的なピアノであった。第1楽章の構造的な美しさ、第2楽章のごく自然な旋律の歌わせ方、第3楽章のヴァイオリンとピアノの掛け合い、第4楽章の流れるような躍動感など、余計な解釈を持ち込まず、世界でもトップクラスの技巧で、自然のままに楽曲の魅力を見事に表現することに成功していた。
2曲目は第8番。この曲も同様だ、神尾さんが追求しているのは、楽曲を書かれている通りに演奏する中で、如何にして、純粋に音楽的に、あるいは器楽的に「美しく」演奏することのように感じる。個人的な思い入れで解釈をいじらない。演奏家神尾真由子の個性で奏でるベートーヴェンではなくて、ベートーヴェンはこのように演奏して欲しい曲を書いたのであろう、という確信のような者が感じられる演奏だった。
後半は「クロイツェル」。この曲は、演奏家にとっては個性を発揮しやすい、激情的な曲想を持っている。最近の演奏家はとくに、普通に演奏してもつまらなく評価もされないので、独自の解釈を持ち込んで「個性的」に演奏する傾向が強いような気がする。ところが神尾さんはちょっと違う。非常に素直でスタンダード、つまり普通の解釈なのだ。それを器楽的に最高水準の美しい音で、ひとつひとつの音にまで、確信に満ちた表情が与えられていて、しかも曲全体が構造的にもしっかりまとまっているし、流れるようなリズム感も、ひたすら美しい(ここでいう「美しい」とはキレイという意味ではなく、純音楽的に完璧に近い、というような意味だ)。
第1楽章の入り方からして、ごく自然で美しい重音を響かせる。主部に入っても流れるような演奏で、重々しい主題を流麗に聴かせる。第2主題との対比も鮮やか。経過部も非常にスムーズに流し、トゲトゲしさがない。第2楽章は、器楽的に美しい音で、楽曲の持つロマンティシズムを浮き彫りに描き出す。変奏毎に音色が変わるというような弾き方ではなく、そのまま自然に弾けば、楽想によってことなる色彩感が浮き出してくる、といったイメージだろうか。第3楽章弾むようなリズム感が軽快で、上がり下がりするヴァイオリンの主題がヒステリックになることなく、柔らかく描かれていく。
今日の神尾さんの演奏は、とても冷静に感じられた。というよりか、平常心というべきか。音楽に対する熱い思いは黙っていても伝わってくるのに、それを前面には出さずに、落ち着いて演奏している。解釈、技巧、表現力のすべてを極めた演奏をすれば、音楽は美しく響き、聴く人の心に染み渡る。ベートーヴェンの曲は、少なくともそのように書かれているのだ。そのように確信している演奏だった。つまり純粋に音楽的な「美」が追求されているのだと思う。それこそが神尾さんの個性なのだ。釈、技巧、表現力の三拍子揃った神尾さんは、現代の最高のヴァイオリニストの一人であることは間違いない。もちろんBrava!!である。
アンコールの2曲はベートーヴェンから離れて、雰囲気を変えてくれた。モーツァルトは優雅で気品があり、ラヴェルは冗談みたいに技巧的な楽しさを聴かせてくれた。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7e/30/5ca28f9d060e67c0fa3c3079386d0eef.jpg)
終演後はサイン会。神尾さんのサイン会はいつも長蛇の列ができて大変なことになるが、新譜のCD「ロマンティック・ソナタ」がリリースされたばかりということもあって、今日もスゴイことになった。CDは会場で購入したものの、あまりの人数に諦めることにした。新譜CDの内容は今日のリサイタルとは一致しないので、むしろ次回予定している千葉でのリサイタルの時にサイン会があることを期待しよう。ちなみにCDの内容は、フランク、ブラームス2番、R.シュトラウスのヴァイオリン・ソナタ集で、ピアノはもちろんクルティシェフさんである。
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