Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

1/31(金)河野克典&小林沙羅/ドイツ語原語版と日本語訳詞のふたつの「冬の旅」

2014年02月02日 02時23分59秒 | クラシックコンサート
東京文化会館 プラチナ・シリーズ 5
河野克典 & 小林沙羅/冬の旅 Winterreise


2014年1月31日(金)18:30~ 東京文化会館・小ホール S席 A列 23番 4600円(セット券)
ソプラノ: 小林沙羅
ビアノ: 小原 孝
【曲目】
シューベルト:「冬の旅」D.911 全曲(松本隆の訳詞による日本語歌唱)
バリトン: 河野克典
ピアノ: 三ツ石潤司
【曲目】
シューベルト:「冬の旅」D.911 全曲(ドイツ語原語版)

 まずは失敗談から。てっきりいつも通りの19時開演だと思い、30分前の開場時刻に着けば良いと、早めに会場に向かいつつも、軽く何か食べていこうと思って秋葉原で途中下車した。その時、ふと胸騒ぎがして・・・。念のためにと思ってチケットを確認してみたら何と18時30分開演という、コンサートでは掟破りの設定であった!! 慌てて電車に飛び乗り、上野駅に着いたのは18時25分。何か食べるどころか、飲み物も買わずにホールに走り込み、ギリギリセーフであった。
 よくよく考えてみれば、今日のコンサートの企画は、シューベルトの「冬の旅」をドイツ語と日本語で2回演奏するというもの。これでは正味2時間半くらいになるから、休憩を入れたら19時開始だと終演が22時近くなってしまう。従って18時30分に開演というのはごく当然のこと、想定しておかなければならない。つい日頃の慣れで、間に合わなくなるところだった。実際、開演後も遅れて来る人が多かったところをみると、私以上にウッカリの人がけっこういたようなので、ちょっと安心した(?)。
 というわけで、東京文化会館・小ホールで開催される「プラチナ・シリーズ」の今期第5回は、シューベルトの「冬の旅」を採り上げ、ヴィルヘルム・ミュラーの詩によるドイツ語のオリジナル原語版と、作詞家の松本隆さんの訳詞による日本語版の歌唱を一夜に行うという内容である。ドイツ語歌唱はバリトンの河野克典さん。日本語歌唱はソプラノの小林沙羅さんが受け持つことになっている。最近とみに注目を集め、今年もリサイタルやオペラ出演などの出演が増えている沙羅さん。この2年間くらい、東京近郊での公演は、オペラ、リサイタル、オーケストラとの共演など、ほとんどは聴いて来た。その流れで今回も早々にチケットを確保しておいたもので、手をつくして最前列の正面を手に入れておいたのである。


 コンサートは前半が、沙羅さんによる日本語歌唱による「冬の旅」全曲演奏。曲想に合わせて、シックな黒のドレスで登場、静かに曲が始まる。リートという分野はあまり普段聴かないので、本当のところはよく分からないのだが、ピアノの前に一人立って、その曲に書かれている詩の世界観を描き出さなければならない。もちろん歌詞を聴けば(読めば)その内容は分かるわけだが、それだけでは誰が歌っても同じになってしまう。また単に歌唱の技術だけで演奏の良し悪しが決まるわけでもない。「表現力」といってしまえば簡単だが、要するに、詩に描かれてる世界や観念を、言葉と同時に如何に音楽的に表現するかということなのだろう。
 今回の日本語訳詞による歌唱では、聴いているだけで意味が分かるだけに、おそらくは演奏する側も聴く側も曲の持つ世界観を構築しやすいのだと思う。沙羅さんの歌唱は、いつもの通りのやや張りのある澄んだ声で、たっぷりと情感が込められていた。「冬の旅」は愛を失った青年の苦悩に満ちた心象風景を綴った曲。悲しげで、切なげで、また苦しそうに歌う沙羅さんは、表情も苦悩を表していた。今日のような小ホールでの歌唱は、オペラの時のように大きな声で遠くまで届かせる必要もないので、むしろ細やかな感情表現ができる。とくに「冬の旅」では、突き抜けるようなドラマティコでもなく、軽快なコロラトゥーラでもなく、せつせつと絞り出すような歌唱であったのが強く印象に残った。曲の持つ世界観を表現していくだけの技巧は十分に持っていると思う。バリトンが歌う「冬の旅」は苦悩の中にも芯の強さが表れてくるが、ソプラノではまた印象が変わってくる。苦悩の中にも、微妙な華やかさが感じられたのは、沙羅さんの個性というものだろう。素晴らしい歌唱であった。
 松本隆さんによる訳詞についても触れておこう。長い間作詞家として活躍し続けている人だけあって、「冬の旅」の訳詞も素晴らしいものである。オペラやリートなどの外国作品の訳詞は、一般的には日本語の持つ抑揚やリズム感とうまく合わないことがしばしばで、違和感を感じることが多い。ところが松本さんの「冬の旅」は、かなり細部にわたって言葉を厳選して創り上げられている。内容的にはかなり意訳になっているが、旋律線と言葉が見事に一致していて、シューベルトの音楽が、あたかも日本の歌曲を聴いているような錯覚さえ覚えた。松本さんの素晴らしい才能にBravo!を送りたい。

 後半は河野さんの歌唱で、ミュラーの詩によるドイツ語原語版の全曲演奏。やはりバリトンで聴くとかなり落ち着いた印象になる。河野さんは言ってみればこの道の専門家。完全に暗譜である。そしてその豊かな表現力は見事なものであった。穏やかな声質で、せつせつと苦悩を歌うかと思えば、張りのある力強い歌唱も聴かせてくれる。適度に艶があって、適度に張りがある。そしてしなやかで、芯の強さも弾力もある。なるほど、このような歌い方こそドイツ・リートには相応しい。かのフィッシャー=ディスカウを思い起こす。
 また、ドイツ語の歌詞はほとんど理解はできないのだが、聴いているだけで分かることは、言葉の音感が音楽にピタリと乗っていることだ。抑揚もリズム感も非常に音楽的である。そしておそらく、言葉ひとつひとつの意味も、曲想と一致しているのだろう。言葉の意味は分からなくても、情感は見事に伝わって来る。河野さんの歌唱が見事なこともあって、シューベルトのリートの素晴らしさを再認識させられた思いであった。これも前半に日本語歌唱を聴いていたからこそ感じ取ることができたのであろう。

 さすがに「冬の旅」を2回聴くと疲れる。18時30分開演で、終わったのが21時15分頃だっただろうか。今日、大ホールでは同じ18時30分開演で、藤原歌劇団の公演でロッシーニの「オリィ伯爵」が上演されていた。それと終演時刻が重なっていたくらいである。
 今日の公演で気になったのは、前半の日本語歌唱の最中に、配布された歌詞を記載した印刷物をめくる音がガサゴソと絶えなかったこと。気持ちは分からないでみないが、けっこう煩わしく感じた。別に日本語なんだから集中して聴けばほとんど聴き取れる。何も歌詞を読みながら聞く必要もなかろうと思う。そしておそらく休憩中に誰かがクレームを付けたのだろう。後半前の館内放送で「プログラムをめくる音を立てないように」とわざわざ注意があった。それにも関わらず、後半のドイツ語歌唱の際にもガサゴソがさごそ・・・・。印刷物には河野さんによる翻訳も載っていたのではあるが、対訳をしながら聴かなくても良さそうなものだ。紙を配られるとつい読みたくなってしまう日本人の●●な習性である。
 そして、冬場ということもあってか、咳をする人が多いこと。生理現象だからやむを得ないとはいえ、ハンカチを使って少しでも迷惑にならないように気を利かせるとか、あるいは風邪などで咳の止まらない人は、正直言って来ないでもらいたいとも思う。ちょっと過激な意見かもしれないが、閉ざされた空間の中で大勢の人に感染させているかもしれないし、第一歌手の方にうつしたら取り返しのつかないことになる。
 今日は遅れてきた人も多かったし(他人のことはいえないが)、全体に何となくゾワゾワしたコンサートであった。

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